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血の呻き 沼田流人・著 一 彼は、胸の上に頭を垂れて、ぼろぼろな小さ…
二 瘠せこけた、冷たい指が彼の顔をつついた。 「何だ」 明三は、恐ろ…
三 次の日、明三が戸口から出ようとする時、背後から追ついた少女が声を…
四 明三は、渇いた者のように酒場に飛込んだ。彼は、誰かに言葉をかけ度…
五 赭土の丘の上の監獄では、老耄れた看守長が、彼を待っていた。総ての…
六 明三は、その終日を海岸の壊れた倉庫の中で、眠っていた。そして、日が暮れてから、宿に帰って行った。扉の所で茫然立っていたきく子は、走り出て来て彼の手を摑んだ。 「兄さん……。帰って来た。帰って来た。まあよかった。どこへ行ったの」 彼女は、息を切らしながら、せかせかと訊ねた。 「仕事を探しに……」 明三は、沈んだ声で呟くように言った。 「姉さんは、泣いてたのよ」 「泣いて、………どうして……」 「何も、言わないのよ」 「そうかい。お父さんは」 「お父
七 彼は、悩ましい思いに充された、心の盃を抱いて、酒場へは入って行っ…
八 白痴の茂が、路傍に蹲んでいた。それは、荒れはてた二階建の空屋の前…
九 風は煙のように砂塵をまきあげてのろのろと地の上を這い流れた。軒の…
一〇 彼は、W町の角で物思わしげな顔をして、向うから歩いて来るきく子…
一一 昼過ぎに彼は、看板屋を出て寺へやって行った。 時子は、寺の裏…
一二 明け方、明三がまだ眼を覚まさないうちに、靴修繕師の叫声がした。…
一三 明三は、走ってD寺にやって行った。軍隊払下の破服を着た男は、あの時のままで、まだ扉の下に踞まっていた。明三は、手に持っていた柳の枝で、蛇でも追うように二度ばかり地を叩いた。 ぼろ服の男は、遂に顔をあげた。 「何だ、茂か」 それは、白痴の少年なのだった。 「いい服を着たね。……いるかい」 彼は、扉を指して、微笑いしながら訊いた。然し、少年は、黙り込んだまま彼の通路を避けて、そのまま背を向けて踞まった。明三は、室に這入った。 時子は、呆然壁を見