非エンジニアがARハッカソンに参加してソロ完走するまで
2022年12月9日の夕方、私は仕事を終え、新宿のXRコミュニケーションハブ「NEUU」にいた。数年ぶりに感じる緊張と高揚感を抱えて。
参加動機
私はXRエンジニアではなく、普段は石油企業の新規事業を担当している。デザインスキルも開発経験も、ハッカソンに必要なスキルは何もない。
ただ一つ持っていたのは、技術への「好き」の気持ちだけである。
例えばXRなら、Oculus DK1発売前から自作HMDで遊んだり、hololens2を通勤時など日常使いしていたり10年以上追いかけてきた。
そんな私がガジェットに数百万円を費やし得た気付きが、「XRの本質は、同じ一つの空間を、体験を、リアルとバーチャルで共有出来得ること」というものである。
確かにQuest Proなら臨場感たっぷりのスゲー体験ができるし、iphoneでも十分XRを体験できる。
でもそれは技術的な話であって、人間が感覚として「リアル」を感じる瞬間とは、誰かと同じ体験を共有出来得るという点ではないだろうか。
自分一人が楽しむXRではなく、現実空間とバーチャルで同じ体験を共有できる体験を作りたい。
そんな想いに捕らわれた私は、それを具現化すべくwithARハッカソンに申し込みを行った。
withARハッカソンについて
withARハッカソンはAR(拡張現実)の社会浸透に向けて「ARと異業種のコラボレーション」に挑戦する ハッカソン 形式のイベントである。
今回が第12回となり、テーマは未来都市 【新宿を舞台に未来の都市体験を創造せよ】
なんと。新宿という都市を舞台に出来るのだ。
このテーマを知った瞬間、新宿の超横長サイネージをバーチャルと繋いだり、VRChatのポピー横丁とモデルの新宿ゴールデン街を繋いでみたいと色々な妄想が膨らんでいった。
キックオフの絶望と覚悟
心臓をバクバクさせながら挑んだ初日のキックオフでは、それぞれが持ち寄ったテーマを伝えあい、チームを形成していく。エンジニアでない私は実現したい世界観を言語化し、仲間を得たいと考えていた。
プレゼン自体は思ったより感触が良かった。
しかしながら、仲間を得ることが出来なかった。
同時に、ほかのチームに入ることもできなかった。
絶望:開発経験のない人間がボッチになってしまった!
本当にどうしようかと思った。
原因は簡単でAR技術を使って面白いことをしたい他の参加者と、現実アセットを活用して体験を作りたい私とで方向性が合致しなかったというもの。他のチームに入る選択肢も自分のスキルに自信が持てず、荷物になってしまう気がした。
ならばいっそのこと、どんなに低クオリティでも一人で作ってしまおうと私は最後までやり抜く覚悟をした。
作ったもの
ハッカソンの1週間で私は以下の2点を実施し、「レイヤード」という作品を作り上げた。
① VRChatと新宿を繋ぐ物理ポータル(カメラ付きディスプレイ)の設置。
② 物理ポータルを起点にスマホARでカメラ画像+アバターの表示。
VRChatで活動するアバターと新宿を歩く一般の人々が、等身大に相互コミュニケーションを取り、それをディスプレイだけでなくARを用いてより没入感高く楽しむことが出来る。
VR,AR,現実といった様々なレイヤーを一つに重ねるポータル、それが「レイヤード」だ。
将来的には、「レイヤード」を活用した広告事業や、リアルとバーチャルのハイブリッドイベントの運営、XRコンテンツの配信拠点などに繋げていきたいと考えている。
ソロ参加にあたり工夫した点
最大の工夫点はアプリ制作を前提としたハッカソンに、ハードウェア制作を持ち込んだ点だろう。私はガジェットが好きなため、ソフトウェアよりもハードウェア表現の方が得意だ。
高度な知識がなくとも組み合わせで解決できるハードウェアは短期間の制作に適していた。
また会場であるNEUU様のご厚意で、サイネージの設置許可を頂いた点もポイントだと考える。
開発力が無い分、交渉や番外戦術で一定の成果を出すことが出来て良かった。
ソロ参加にあたり苦労した点
とにかくリソースが無かった。
一人での参加ということも大きかったが、unity等によるアプリ開発の経験が無かったのは痛手だ。
初歩の初歩みたいなところで躓きまくり、時間を費やしどうにか仕上げた。
有給休暇も活用しつつ、最終的には3徹まで追い込まれてしまった。
また一人の場合、簡単にやめることが出来てしまうという点にも苦しめられた。
チームメイトもいないし、誰も困らない。やめたっていいじゃないか。ずっとそう思っていた。
私の場合、ディスプレイの購入や各種アセットの用意などで8万円近く投資していたため、引くに引けない状況になったのはある種救いとなった。
ハッカソンが終わった後に口座を見て苦しむことにはなったが。
最終発表について
12月18日の最終発表日、徹夜ギリギリまで仕上げて挑んだ資料がこちら。
どのチームも高いクオリティかつ、面白い視点で制作されていたため、本当に心が押しつぶされそうだった。
唯一自分を支えていたのは、強く感じていたテーマのwillである。
誰よりも新宿の未来にコミットできると考えていたし、ハッカソンで終わらせない自信があった。
結果、賞には届かなかった。
だが発表の感触は良好で、参加者と意見交換が出来たことはとても良い経験となった。
当初ソロで参加し、低クオリティでも完走だけを目指していたのに、この段階になると少し悔しくなるのはなぜだろう不思議。
感想
今回withARハッカソンに参加したことで、「自分はエンジニアじゃないから」「スキルが無いから」と言い訳ばかりしていた自分が、一歩踏み出すことが出来た。
得意なことや過去の経験など総動員すれば、スキルがなくともそれなりに何とかなると分かったため、実現したいことに向けて今後も頑張っていきたい。
ハッカソンについては、初参加であったので色々不安であったが、多くの言葉を交わさずともお互いの作品や実現したいことをベースにしたコミュニケーションが素敵だし私は好きだと感じた。
今後は興味のあるテーマのハッカソンには積極的に参加したい。できれば今度はチームで。