地元のツレと酌み交わす酒
「最近はもっぱら日本酒を呑んでいるんですよ」と話すと、「いいですね〜 兵庫県と言えば灘の酒、美味しい酒がいっぱあって」とよく言われるのだけど、実は地元の酒はあまり呑めていない。昔から慣れ親しんだ銘柄であるだけに、どうしても他県の特徴的な酒蔵や話題の酒なんかを呑んでみたくなってしまう。これは性分(笑)。
それでは西灘と呼ばれる地域から攻めてみましょうということで、まずこちら、兵庫県は明石市の「茨木酒造」さんのお酒。
関東圏で見かけることは稀でしょうね。ただ、少し昔「花酵母」(花から抽出する自然酵母)が注目された時に、早い時期から花酵母を導入していたこの蔵のお酒が、他の花酵母を利用している酒蔵と共に、関東でもごく一部で注目された時期があったと思う。使用していた花酵母も「月下美人」などキャッチーなものだったこともある。(今も看板商品の一つとして造られている)
「来楽らしい一本を」ということで酒蔵の方におすすめいただいたのが、この純米生原酒。クラシックな、いかにも酒〜って感じを残しつつ、芳醇はフルーティーさのアタックとじんわりとした滋味ある旨味、きれいなキレと、田舎の造り酒屋の酒をベースに、現代にも通用するようによく練られた酒というイメージ。普通に美味しいお酒で、万人にオススメできる。原酒のキツさは無く優しい口当たり。
そしてもう一本、ここ数年造られている限定醸造のシリーズがあって、それがこの「ikkoku」。一石(一升瓶100本)のみをサーマルタンク(温度調整できるタンク)を使って季節問わずで醸造されているとのこと。醸造ごとにコンセプトを設け、そのコンセプトに合った味を目指して造る酒で、毎回味もイメージも異なるらしい。四合瓶しか供給されないので、限定250本ぐらいで、売り切れたら終わり。
今回は夏酒っぽいイメージの「Nagisa」。ラベル記載の「水瓜」という感じよりは薄めのバナナやパイナップルのようなアタックが、突然ズバッと消える独特のキレの良さ。全体に清涼感もあるため、夏のいろんな料理には合いそうだ。私が受けた印象は、まさに「実験的」であり、目指す酒を造るための「マイルストン」といった感じ。良い意味での未完成感がある酒。蔵の人と話をすると、まさに実験の意味もあってやっていることで、「次世代の来楽」を求めてチャレンジしているということだったので、だいたい当たってたかな?数ヶ月単位で造っているとのこと、次の醸造が楽しみだ。
代表銘柄「来楽(らいらく)」の由来は、論語。「朋あり遠方より(来)る、また(楽)しからずや」だ。遠方より来る旧友、学友、同志と酒を酌み交わすことほど楽しいことはないということ。論語の学而第一、「学びて時にこれを習う、また悦ばしからずや(学んだことを実践で復習したり、納得したりすることは喜ばしい)」に続く有名な言葉。個人的には、さらにこの後に続く、「人がそれを理解してくれなくても気にするな、それが君子ってものさ」ってのが好きな言葉ですけどね。
外野にとやかく言われても気にせず、気の合った地元の旧友と、地元の肴でもつまみながら、楽しく酌み交わしたい地酒ですね。