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終身雇用女神

2017-02-23


「まいさんは女神だから」と言われると、イラっとする。いや、

「まいさんは本当に女神」心からの賞賛は嬉しい。



「持って生まれた才能」みたいな文句を突きつけられると、
最近過剰に反応する自分にある日気づいた。

ていうかそもそも自分で「女神」とか言っちゃってるんだし、

自分で「存在してるだけで癒し」とか「天性のヒーラー」とか
調子ぶっこいてる限り、

「まいさんは女神だから」って文句、当たり前な気がする。


 そんなとき、スタッフとして関わってくれていた人間に
セッションをすることになった。

セッションというのは、つまりセラピストとして1時間話を聴いたり有益なアドバイスを提供して、お金をもらう、

カウンセリング的な自分の商品のことである。

仕事に関わってくれているひと全員がセッションを受けるわけではないが、

あからさまに悩んでいたり相談をもちかけられたときには
これまでも提案してきた。

当時はこう、まだスタッフとの距離感を図りながら
セラピストであったり上司であったり
複数の役割をこなしていたため、

すごい押し売り臭いなあと思いつつ、まあ必要があればと思い提案した。

拒絶されたら2度と立ち直れないと内心ドキドキだったが、


「すごいですねぇ。本人が望みさえすれば面談も兼ねて
最上級の福利厚生が用意されてる職場なんてすごいなぁ、とおもいます。」

と言われて目からウロコ級に驚いた。



 自分の飯の種であり、人に堂々と勧めたい割には、

内容が内容なだけに無理強いもできない。

ていうか自分で申し込んできたのにみんな怖くなって
逃げ出し始めるのを必死で鼓舞するのも仕事もうちで

価値はあるはずだが

人々はわざわざ高いお金を払って
過去の嫌な記憶をほじくったりするわけで

そのあたりを

「素晴らしいシワ取りクリームですよ!」

みたいに勧められたらどんなに楽かと度々思う。





 初めてのセッションは、クライアントの緊張は並では無いらしいが
Mはすでに何度もわたしと話をしているので、逆にわたしのほうが緊張した

つまり、「天性の女神だと思ってたけど、蓋開けてセッション受けてみれば、大したことないじゃん、がっかり」という展開に対しての勝手な被害妄想である。

相手はまた、自分を分析するのに長けているひとであった。


益々めんどくさいことに、わたしのクライアントは優秀で自分のことをよくわかっていて、自分の出る幕などないような人がほとんどであった。

これもまた、そういう人を相手に商売をすることを決めたのは
まぎれもない私なのであった。



 さてセッション中、ひと通り話をしながらMは泣いていた。

人の涙を見るといつも清い気分にならざるを得ないのだが、
もしかするとわたしは他人の弱みを握ることが

何気に楽しいのかもしれないなあと、またも卑しい女神ぶりを発揮した。


 しかしよく考えてみてほしい。鋼鉄の仮面を被ってばりばり仕事をしている社会に認められた優秀な人間が、自分の前だけでは弱みをさらけ出し、涙を流す。それで相手に恋に落ちるなと言っても無理な話なのである。


嘘かほんとかわからないが、

「まいさん以外の他の誰にもこんな話はできません」と言われると、嬉しくなっちゃって女神スイッチが自動で入っちゃうんだよ。


人間の本質はいつもフェロモン全開でわたしを魅了する。
わたしも女神の皮を被った下世話な人間のひとりなので、いたしかたない。

 セッションが終わり、その日のうちにMが感想を書いていた。



「やはり、彼女は女神である前に、ものすごい技術と懐を持った職人であり、アルケミストであって、その祝福にたどり着いた瞬間に、一気に女神をまとうのだと。」


 これを読んで、わたしが大満足だったのは言うまでもない。


「まいさんは女神だった」と言われなかったと胸を撫で下ろすと同時に、
わたしは自分で自分のことを職人だと思っていることに気づく。

そこには天性の才能もなにも必要はなく、

ただコツコツ経験の積み重ねの上に成り立つ確かな技術があるだけだ。


女神は磨く必要はあれどもある程度天性のものだと思う。

職人は職人らしく、コツコツ地味に作業を続けるもので、
わたしはそんな自分に心から誇りを抱いているらしい。


 というわけで、もしわたしの心を撃ち抜きたかったら、

わたしの前でひとしきり嘘でもいいから涙を流した後、

「他の人の前では言えません」ととりあえず言って、

セッション後の感想は「まいさんは職人ですね」と、とりあえず書いて、

間違っても「まいさんは女神ですね」と言わないことである。




 ああ、これを書いていて益々女神を辞職するかどうか迷う、
今日この頃。嘘です。終身雇用制でお願いします。





2017-08-22 追記

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