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スパークリングゴールド色のねずみ3


2つづき

道のりを楽しみ、iphoneの地図が指す場所にたどり着くと、グループセッションの時間は間も無くスタートするというところだった。幸い、遅刻を約束されていた時間から、ぎりぎり遅刻くらいの時間に建物の前に到着し、なんとなく参加者のひとりにちがいないと思うような女子が2人ほど、建物前に迷子になっている私の前を過ぎ去っていった。


着いたはいいが、どこかがわからない。いつものパターンである。外の気候は真夏台湾風、湿度100パーセントに近い台風明け。日傘も帽子もサングラスもなしで20分歩いたあとの汗。
電話がかかってきて、「今目の前にいます」と告げ、わたしは半分キレていた。いつものパターンである。


二度ほど催促の電話ののちに、無事会場を発見したわたしは、背筋をシャキッと伸ばし、「ドブネズミ」である自分に真正面から覚悟を決めることをして、静かで新しく、無機質な様子のその建物の廊下をまっすぐに扉まで進み、躊躇なしにドアを開けた。

広くもなく、狭くもないグレーのセミナー室のなかに、半円になって椅子が並べられており、ずらっと女子がそこに腰掛けていた。

そこは涼しく、廊下より多少明るいものの、同じように静かだった。
わたしはさっと空間を見渡し、何かを感じ取る間もなくスタッフの女性に案内されて、唯一空いていた、ドゥーガル氏の目の前の椅子に向かいこちらを見ている彼に、会釈をした。

好感のもてそうな中年手前の兄さんで、ブルーのシャツにジーンズにスニーカーを履いていて、ニューヨークの休日のスーパーで普通に赤ちゃんをおんぶしてオムツの袋をぶら下げていそうなくらい、普通だった。とりあえず想像していたよりも気さくそうだったことに安心し、いよいよグループセッションが始まるのである。



ところでまず気になるのは、どう考えても参加者の方がたの顔ぶれである。いったいスピリチュアルとかサイキックだの、そんな怪しいものに惹かれて集まってくるような女子は胡散臭いひとびとに間違いない。

ーーというどストレートな偏見をスカッと裏切るがごとく、そこに並んでいた人々は普通に善良そうな同年代の女子たちであった。それよか、ドゥーガル氏の横に座っている通訳の女性、どう考えてもスーパーでオムツをぶらさげてる雰囲気じゃない。その奇抜な服装と奇抜な髪型に目を奪われたまま、その人の経歴が気になった。期になったというか、自分が中途半端に英語ができるがゆえ、英語を扱う人間に対する批判的な目が抜けないのである。いや英語力がどうとかいう問題じゃない。あの柄の組み合わせは一体何系と呼ぶのか?原宿系?スピリチュアルサイキック系?どこで服を買ったのか・・・緊張がさらに高まる。

幸いしゃべり始めてとても優秀そうな女性だということと、英語力に全く問題がない(というか私なんか比にならないであろうプロ)ということに安堵し、奇抜な服装とジャラジャラしたネックレス、奇抜な髪型が気になってたのが、最初の3分の1まで減少した。

通訳が入るということはイコール、実質コミュニケーションは半分に減るということ。ただでさえ短い時間のグループセッションは、さらに半分になる。直接英語で話せるひとも中にはいるにちがいないが、ここでは統一するために必ず日本語で話してください、と最初に注釈が入った。

もともと英語で話そうと考えていたわけではなかったが、ちょっと残念感が出たのと、下手なエゴがシャシャリでなくて済むことになりホッとした。
外国語の話せる人間はわかるかもしれないが、人前で英語を話すことほど自分のエゴが嬉々と前にでる瞬間はない。
それは相当歪んだ感じで心地よく、中毒性もあって、優越感やらプライドやらをかなり刺激する。

その問題は回避されたのだけれど、次に発生した問題が、順番に端からスタートする時にまず自分の名前を三回言ってくださいね。というものであった。いや名前を三回言うことは何も問題はないのだけど、わたしの自意識過剰のいつものパターンにより、人前で自己紹介をする、というときの過剰なプレッシャーとともに、人々が苗字と名前を三回呪文のように唱え始めたことへ、激しい違和感が勃発したのである。

英語で三回名前を言ってね、と言われたら、つまりはなんていうか、「It’s Mai. My name is Mai. M-A-I.」
こういうことになる。
”マイです。つづりはM A I. マイ。” 自然な感じはこう。

ところが、最初のひとが、苗字と名前を丁寧に三回唱えたため、「マツナガマイ、マツナガマイ、マツナガマイ」
という形になってしまっている。

これはもう、アメリカ人からの視点からしたら、余計に名前を聞いて困惑するではないか。わたしの懸念は2人目、3人目と進むたびに
全員右に倣えで同じように名前を「唱える」ため、自分の番がきたときにどう転んでいいかわからなくなりパニックに陥ったことだった。

自分だけ、「マイ、マイです。マイ。」というべきか。それともここは、ぐっとこらえ、エゴを抑え、あえて右に倣えでマツナガマイマツナガマイマツナガマイ」と唱えるべきか・・・・・

もはやわたしの頭のなかは、自己紹介の三回の名前をどうプレゼンテーションするかで200パーセントを占めていた。
自分のオーラが何色かとか、思考は現実化する敗北者のこととか、大失恋してさまよってることとか完全に忘れており、思わず天使に「マイというべきか、マツナガマイというべきか」と聞きまくり、うわの空もいいところだった。

1周目は、まずそれぞれが例の三回名前を言った後、フリーでドゥーガル氏がメッセージを伝え、二周目でそれぞれ一個づつ質問ができてそれに答えてもらえる、という流れであった。
1人目から、オーラはブルーだのグリーンだの、知識を意味するとか守護霊はなんと言っているとか、かなり重要そうなことをそれぞれに伝えていたけれど、わたしの手のひらは冷や汗でいっぱいで、自分の番が来るまでそれは続いた。
間も無く肩の激痛と意味のわからない痛みが身体中を駆け巡り、何を言われるかの恐怖よりも何よりも、「名前を三回どう言うか」ってことであれほど真剣に冷や汗をかいたのは、多分後にも先にもこれが初めてだったとおもう。

オーラが、体のそばにぴたりくっついているというケースや、人を幸せにするピンクの話しや、2色ある方に、1色だけ指摘されている方、色々はなしを聞きながら、自分と重なる性質について思いを馳せた。
たとえばオレンジは、カウンセラーの方に多い色らしい。ヒーラーに多い色、カウンセラーに多い色、そんな話もすでに出ており、わたしは自分が色々な性質が入り混じっていることも知っていたため、自分の身が纏っている色をなんとなく想像しながら、とりあえずおとなしく、その瞬間に身を委ねることにしたのだった。
もしマイと言いたくなったら言い、マツナガマイと言いたきゃ言う。腹を括り、隣の女性が終わり、私のほうに順番が振られるのを待つ、この緊張感。


「次」と言われたドブネズミ色のわたしは、まっすぐにドゥーガル氏の目をみつめ、意外にも落ち着いて自分の名前を三回伝えた。先ほどのカオスぶりからは想像もつかぬほど、自分の声は安定しており最後はおまけに「マツナガマイ、です」くらいに自分のままでいられた。

そして始まるリーディング。まずはその奇抜なファッションの通訳の方ではなく、ドゥーガルご本人の声にて。



’Your color is…





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