小山昇の危険性・失敗を賛美するコンサルが会社を滅ぼす
最強コンサルタントの名言
小山昇は、日本を代表する経営コンサルタント。ダスキン事業を核とする株式会社武蔵野の代表取締役として「日本経営品質賞」を2度も受賞しています。7億円の売上だった同社を7年で63億円まで向上させ、18年連続増収へと導きました。
コンサルタントとしても活躍し、全国700社を指導して倒産はゼロ。400社が過去最高益を達成したそうです。
そんな彼の名言がこちら。
なるほど、これは心に刺さる。一人の社会人として刺さるし、一人のセミナー講師としても刺さる。内容の作り方に巧さを感じます。
・やらない理由よりやる理由
・まず決断せよ
・走りながら考え修正せよ
・失敗こそが糧になる
僕もこれらの論法を使ったことがあります。ウケるんですよ、特に経営者層へはウケる。でもだからこそ怖くなりまして。だって僕、ホール経営なんてやったことないのに、決断なんて促せないよ。
なぜコンサルタントは同じことを言うか
世の中で活躍するコンサルタントの多くは、小山昇と似たことを言うはずです。儲かってない会社には二つの大きな特徴がありましてね。
・同じことを続けている
・魔法の杖を求めている
ダメな理由の根幹が同じだから、コンサルティングの根幹も同じになる。好きなことを突き詰める、儲かるかどうかは二の次な個人事業主や芸術家ならいいんですけど、企業はそれじゃダメだよね。同じことで同じように儲け続けるって、めちゃくちゃ難しいんです。
でも何をどうやったらいいか分からない。そこで求めるのが〝魔法〟。「魔法の杖」とは、業績を一撃で回復する魔法のようなアイテムを求める心理のこと。
小山昇の主張は根本的に間違っていません。儲かってない会社は事業が硬直化しており、社員の発想も硬直化してる。
そんな状態では何も変革できないし、明日も同じように赤字を垂れ流し続る。で、社員はなんとも思わない。
まず、動かす。良いかどうか分からなくても振動を与える。振動が生むのは動揺かもしれない、不安かもしれない。それでも動けば隙間ができる。その隙間に経営者の「新しい発想」をねじ込みます。
失敗を修正しつつ改革を進めれば、ついていけない社員は去るものの、会社には改革のカルチャーが生まれる・・・・・・。
パチンコ業界のコンサルも、おおむね、こういった手法を使ってるんじゃないかしら。
コンサルタントに「すがる」のは危険
ただね。
コンサルの手法には大きな問題点があってね。ねじ込んだ「新しい発想」は、常に相手企業の経営者に考えさせるんですよ。なぜなら、コンサル側が考えてしまうと、失敗した時に責任を取らされるから。
ほら、こんなフレーズ、聞いた事あるでしょ?
実際、小山昇も「経営戦略は経営者が考えろ」との著書をいくつも出しています。
もっともらしいことを言って、経営責任を避けているだけ。
避けるといったら言いすぎかな。「コンサルフィーで経営責任まで負えないよ」という感覚。自分も経営のお手伝いをしたので分かりますが、〝責任を負え〟と言われたら、とてもじゃないけど手伝えません。
小山が責任を負うのは、彼の会社である株式会社武蔵野です。クライアントの経営責任は、当該企業の代表取締役が負います。
よくいわれる「コンサルは経営責任を取らない!」との批判は的外れで、もしも責任まで負ったらコンサルではなく共同経営者です。
だからこそ、経営者がコンサルに〝すがって〟しまうのは危険なんですね。
小山昇のコンサルティングを受けた経営者の末路
常に経営を考えろ、未来を語れ、夢を持て。
経営者はこのフレーズに弱い。ビジネス経験に乏しい人ほど酔ってしまう。自分の経営能力に自信を持てず、社員や幹部から馬鹿にされてるんじゃないかと怯えていた人ほど、コンサルの教えに「すがって」しまう。
小山昇にすがった経営者の一人が、彼です。
知床遊覧船の社長、桂田精一。
彼はもともと、地元で有名な〝陶芸家〟だったそうです。
突然ホテル経営を任され、武蔵野の指導を仰ぎました。
2017年、小山昇は妻と共に世界遺産の知床を旅行しました。泊まったのは、桂田の経営する宿です。小山は「国民宿舎桂田」の名称変更を提案し、桂田はすぐに「流氷と温泉の宿・海に桂田」に変更します。
宿の外装や内装まで小山の指導を守ったところ、赤字宿は黒字に転換。他の宿も買収し、事業は軌道に乗ります。小山が提案した「夕映えの宿」もキャッチコピーとして広告に使われています。
そんな桂田は、知床観光船が売りに出されたとき、小山へ相談しました。「買いなさい。言い値で買いなさい。値切ってはダメだ」と言われ、桂田は遊覧船事業のオーナーになりました。
ベテラン船長らを解雇し、荒れた海へも出航を強行。今回の大惨事に繋がります。
小山昇の指導と、その結果
ここでもう一度、小山昇の名言を見てみましょう。
成功しようと思ったら早く走り始めることです。人より足が遅くても早く走り始めれば、たいていのレースには勝てる。
最初から自己満足の「正しさ」を求めて悩むより、早く決めて駄目なら次々とやり直す方が、はるかに効率的です。いい加減に思えるかもしれませんが、これこそが正しく決める仕組みなのです。
まず決定せよ。それから、決定を実現する手段を考えよ。
どんなことでもやる前から「良いか、悪いか」などわかりません。とにかく一度やってみて、良ければ続ければいいし、悪ければ止めればいいだけの話。
実力=失敗の数である。
知床遊覧船の桂田社長は愚直なまでに、小山の指導通り動いたんです。
コンサルタントのテンプレートとは
武蔵野側は知床遊覧船への経営指導を認めていますが、「安全に配慮しろと促しました」「船員の解雇については相談されていません」としています。上述したとおりの展開ですね。責任は負わない、負えない。小山昇といえど常に伏線を用意していたんですね。
そもそも経営指導を行う際、最初に見るのは貸借対照表と損益計算書です。現在の資産・負債状況はどうなっているのか、全体を確認した上で、利益の出ない原因を探る。
売上は簡単に上がりませんから、まず経費へ切り込む。最大の経費は、遊覧船事業なら船の維持管理費か人件費でしょう。ここを削れば見た目の決算は良くなるため、銀行から資金を引っ張れるようになります。
これまでけんもほろろだった金融機関がにこやかになる。経営者は大喜びです。ホテルなら外観や内装の修繕、パチンコならホールのリニューアルを行える。
ただしこのとき、現場を知らないトップだと「削り過ぎちゃう」んです。現場の感性を持っていれば「そこは削っちゃダメ」と分かるんですが、現場に疎いと躊躇無く削る。桂田社長はベテラン船長を削り、自分の判断に従う人間を船長に据えました。
僕は事件の一報を聞いたとき、スプリンクラーの設置費用を渋った、ホテルニュージャパンを思い出しました。社長は横井英樹だったか。
パチンコなら失敗しても低稼働で済むところですが、遊覧船は客の命に関わります。一回の事故で廃業へ追い込まれるのに、その費用を削減しちゃイカンでしょ。重大インシデントへつながる行動を取るなら、それを止めるのもコンサルタントの役割です。
武蔵野に責任はありませんけど、小山昇は、宿の名前を変えさせたり内外装をリニューアルさせたりといったオフェンシブな熱量と同じ熱量を持ってディフェンスを促していたのか。甚だ疑問です。
小山昇、かく語りき
素晴らしい。心を打つ内容です。
では、同業者が出航しない中、抜け駆けした知床遊覧船。お客様は船のチケット(商品)を買いました。小山流なら桂田社長の判断は「正しい決定」になります。
では今後、桂田社長はどうやって〝修正〟すればいいんでしょう。
教えてください、小山さん。
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