高尾、倒産
【追記】オーイズミ、高尾を完全子会社化
パートナーとして高尾の財布に信用を与えていたオーイズミ。先日、高尾を完全子会社化したようです。
おそらく、既存の高尾株を100%減資(紙くず化)した上で、増資(新規発行株)をオーイズミが引き受けて、子会社化を完了したと思われます。
これにより、大株主だった内ヶ島家はオーナーの座から降ろされました。
オーイズミは、パチスロ・周辺機器・パチンコを網羅するメーカーとなったわけですし、会社としての個性から、僕の気持ちが高ぶるような機械を出してくれると確信しております。
そもそも高尾も、3段クルーンのカイジ沼を出したメーカーですしね。「だから倒れるんだよw」と言う業界人もいるでしょうけど、まあ、一風変わった機械を出すはずだよ。普通の路線じゃSANKYOや平和に勝てないもの。
本編
まさかの倒産。
民事再生法の適用申請を行った高尾について、その歴史を調べました。創業からカイジ騒動、殺人事件に経営破綻までを1つの記事にまとめています。
とはいえ、社内の話や事件の詳細などは分かるはずもないので、業界内の伝聞を元に構成しました。「書かれていることは全て真実!」と考えず、一つの読み物として取り扱いください。
(すべて敬称略)
創業者・内ヶ島正一(1950~1979)
高尾のスタートは八百屋。終戦後、内ヶ島正一が名古屋で八百屋を開いていたところ、あちこちに誕生するパチンコ屋がどうも儲かってるらしいと聞きつけ始めたのが〝高尾〟のスタートだそうです。
ホール名は「正ちゃんホール」。
いいね、正一の正ちゃん。
当時のパチンコは〝業界〟なんてものはなく、軍港に有り余っていたベニヤと釘を使って自製していました。
設置台数は10台から30台。メーカーも本格的に立ち上がっていないため、ホールは自分たちで機械を作っていました。名古屋界隈の古参、KOHAKU、A-PAN、大統領あたりも遊技機を作っていたんだとか。
内ヶ島も遊技機を作り始め、1950年に「高尾製作所」をスタートします。製作所といっても店のある土地で作業をする簡素なもので、法人となったのは1979年、息子の内ヶ島敏博が社長になった時でした。
2代目・内ヶ島敏博(1979~2014)
高度経済成長期、名古屋のパチンコ業界は二つに分かれます。メーカーをやる人達と、ホールをやる人達。今ならヒエラルキー的にメーカー上位ですが、当時の関係は完全にサシ。
そりゃ、みんな両方やってたんだから当然よね。互いに資金を融通し合ったり、部品のやりとりなんかもやってた。ある意味、良き日々だった。
一時期は100社近くあったメーカーは淘汰されますが、経営能力のあった敏博は生き残ります。「20社中20社」などと言われた高尾なれど、そもそも生き残ったのが凄い。
社長としての在任期間は父親を超える35年。ありがちな「俺が俺が」的な出たがりではなく、日工組副理事長や日遊協副会長など、組織を裏から支える謙虚な方だったそうです。高尾、中興の祖と言っても過言ではないでしょう。
敏博の特筆すべき点は、己の足らざるを知っていること。パチンコは玉と釘の娯楽ではなく、液晶演出による絵合わせとなった。CR機がスタートし、プログラミングや電子制御を知らねば生き残っていけないと考えた敏博は、一人の男を高尾に招きます。
内ヶ島隆寛。
敏博の実の弟でした。
副社長・内ヶ島隆寛(1993~)
隆寛はシステムエンジニアとして一般企業で働いていました。パチンコは打つこと専門で、経営に興味はなかった。しかし、創業者の正一が他界し、兄から「手伝ってほしい」と請われたことで高尾入りを決意します。
SEだけあってプログラミングに明るく、高尾のパチンコは遊技仕様の時点でつまらないと見抜きます。また、サラリーマンであったことから「下から見た会社組織」も知っていた。
93年に入社すると、企画・開発・版権取得と、高尾が弱かった部分を整備していきます。96年に「研究開発室」を起こし、自身の拠点としました。同時に、月に100台しか作れない工場も整備。兄の経営に従いつつ、高尾の足腰を鍛えました。
兄弟の努力が結実したのは2002年。高尾初の大型版権「巨人の星」が大ヒットします。それまでクセのある機械ばかり作っていた高尾が、メインストリームでヒットを出したことは、ホール業界に驚きを持って迎えられました。
と同時に、これまでの〝クセ強〟路線も捨てず、同じ2002年に、伝説の名機・蛭子能収もヒットさせました。
高尾の売上はかつての10倍、240億円を超えます。
その後は業界の衰退に合わせて業績も頭打ちになるものの、2007年、高尾はついに金鉱脈を掘り当てました。
CR弾球黙示録カイジ。同社初のメガコンテンツとなり、以降、10年以上にわたり〝高尾〟の看板として君臨。中堅メーカーとして確固たる地位を築いたのです。
現代的なメーカーへ成長
僕の新台レポートは2007~2017年なので、内ヶ島隆寛がブイブイ言わせていた時期と丸かぶりします。プレス発表では必ずマイクを握り、楽しそうに新台の魅力を語る。〝副社長〟がパチンコ好き、しかも社長の弟なら、働く人も楽しいだろうなと感じたものです。
カイジで柱を得た高尾は、液晶の大型化、美麗化に力を注ぎます。素晴らしい稼働を見せたスパイダーマン3、萌エロ路線を切り開いた一騎当千にクイーンズブレイド。超美麗液晶を搭載したダブルライディーンなど、現代的なメーカーへ変貌を遂げました。
「列導入はできないけど確実に数台いれたい機械」を出していくのは、本当に上手かった。
しかし、破綻の足音は静かに迫っていました。
3代目・内ヶ島マユミ(2014~2016)
2014年。中興の祖である敏博が急逝します。高尾の両輪として組織を引っ張った弟・隆寛に次期社長の声が掛かります。しかし彼はこれを固辞。本家の血筋を重要視し、敏博の息子、正規を社長に据えるべきと判断しました。
しかし当時、正規はまだ35歳。衰退の続くパチンコ業界にあって、いきなりトップに立つのは酷な話です。そこで、敏博の妻であるマユミを社長に据え、正規は帝王学を身に付けさせるための時間を稼ぎました。
隆寛は引き続き副社長として正規を支え、いわば摂政として高尾を守ります。
2011年頃、平和から開発が大量に退職したのを覚えてますか? 創業者の死去、オリンピアとの立場逆転、PGM買収と激動が重なり、「俺はゴルフをやるために平和に入ったんじゃない」と、同社へ三行半を叩きつけた人が大勢いた。
また、当時、リコール問題でアメリカ司法省まで敵に回したトヨタ自動車は、創業者直系の豊田章男を立てて混乱を回避しました。
隆寛やマユミはこれらを見ていたため、「創業者の直系」にこだわったのではないか・・・・・・なんて考えすぎですかね。
4代目・内ヶ島正規(2016~2018)
修行期間を終えた正規は、社長に就任します。
社長を継いだボンボンが先代や創業者を超えようとするのは世の常で、正規は高みへの成長を志しました。
高尾は基本的にプロパーの強い牧歌的な(悪く言えばぬるい)社風でしたが、正規はここへ劇薬を注入します。
サンセイR&Dで牙狼を日本一売ったとされる鬼営業マンSと、牙狼の開発プロデューサーYを引き抜き、高尾の体制を一新させたのです。
営業も開発も、ぬるま湯から熱湯風呂となり、大きな軋轢を生みましたが、新社長の方針なので逆らえません。僕はどの立場も取れないけど、落ち込み続けるパチンコ業界にあって、生き残るために厳しさが必要だと考えた、正規社長の気持ちも分かる。現場を見て、ゆるさを感じたんでしょうね。
ハレーションからの崩壊にならねばいいなと思っていたところ、悪夢の2018年がやってきました。
カイジ騒動(2018)
この年、新生した高尾が本格的にスタートしたはずでした。同社の看板コンテンツ〝カイジ〟の10周年記念。営業の刷新を正規から求められていたSも全力で動き、直接指揮した名古屋支店は全国トップの販売台数を叩き出しました。
しかし、開店初日から導入店がざわつきます。〝時速3万発〟〝純増17個〟と言われていたスペック通りには、どうも出ない。
聞いていた出玉性能と異なるのではないか?
スペック詐欺ではないか?
湧き上がる苦情に対し、高尾は謝罪文を発表。ストップウォッチまで使い宣伝していた出玉性能は、純増ではなく払い出し個数のことであり、開発と営業、現場の認識不足であったと釈明します。
いやいやいや。
もしも釈明通りだとするならば、外部から招いたSとYが勝手にやったとなってしまいます。新社長による「とかげの尻尾切り」は、クライシスマネジメントとしては最悪の一手でした。
ただ、SはTwitterアカウントを通じカイジの出玉性能を煽りまくっていたこともあり、逃げ道は塞がれます。
Sの入社で干されていた人達は一斉に反発しました。正規は当初こそSをかばっていたものの、最後は折れ、Sらは高尾を離れることになりました。
当時、高尾社内で何があったかは分かりません。ただ、外形的には「新社長のマネジメント能力欠如」を露呈した格好になったのです。また、看板機種だったカイジにミソをつけたのも痛かった。
オーナー社長・内ヶ島正規 殺人事件(2018)
2018年10月。カイジ騒動は意外な形で沈静化します。
代表取締役社長・内ヶ島正規、殺害
首や腹を複数刺され、失血死していた。
場所は本社のガレージ。
正規は2017年にもフィリピンで銃撃され、隣にいた部品会社社長が凶弾に倒れています。
どちらも犯人は捕まっていません。
このとき、報道で注目されたのは「7月まで高尾で働いていた元幹部」のコメント。
複数の情報番組で繰り返し報道されまして。
この元幹部、Sじゃね? と話題になりました。
高尾には部品屋からキャッシュバックを受ける役員がいるとか、なぜか今年は退職する社員が多いとか。直近まで働いていた会社の話をマスコミにペラペラ話すか?? と、嫌悪に満ちた声が業界内で上がりました。
間に母親を挟んでまで継がせた若社長が殺されてしまう、前代未聞のクライシスです。
高尾を継げる人物は、もはや副社長の隆寛しかいませんでした。
経営破綻(2022)
ある意味、高尾のことを誰よりも知っているのが隆寛ですから、経営そのものに対する心配は、正規体制よりも安定感があったように思います。
しかし、継いだ時代が悪すぎた。
コロナによる緊急事態宣言。
半導体不足が響き、思い通りに機械を出せなくなります。
旧規則機の入替需要を取りこぼし、経営は一気に悪化しました。
ただ、まさか破綻とは。
民事再生法の適用申請なので、経営陣はこのままです。オーイズミが支援に名乗り出ているらしい。なんでオーイズミなのかと思ったら、社長同士が仲良しらしいですね。
パチスロ専業メーカーはパチンコ参入に憧れるものですから、個人的な友誼も相まって、支援は成立するかもしれません。
ただ、オーイズミは先代の大泉政治が存命であり、手放しで賛成するかは不透明。
彼は事業の多角化を推進し続けた人ですけど、オーイズミは上場企業です。カイジ問題でコンプライアンスの脆弱性を露呈した倒産企業を支援することに、金融機関を始めとする大株主の理解を得られるのか?
微妙じゃないかなぁ。そもそもパチンコ業界は復活の目処が立たない。なんなら規制緩和でパチスロの方が有力です。
支援成立の確率は、魚群以下かなと思いますね。
一応、オーイズミの株は買いましたけど!
両社とも応援してるからね!
なぜ高尾は儲からなくなったか
高尾は非上場なので財務諸表は見られませんが、3期連続の欠損だったそうです。とはいえ、過去のストックもあるでしょうし、債務超過になった話は聞きません。
直近ではカイジを使った鉄骨渡りや、自社キャラのキレパンダ、女神ドリームに、ナナセグの一球入魂ピラミッ伝など、開発費用を抑えた機械が増えていましたし、営業所の整理縮小の噂も聞いていたので、厳しそうだなとは思っていました。
それでも単年赤字なら乗り切れると思っていたんですけどねぇ・・・・・・。僕らの予想より財務は痛んでいたのでしょう。メーカーは生産設備を抱えるため、1台も売れなくても経費が掛かります。ゆえに、売れないメーカーはすぐ窮地へ追い込まれる。
弱小メーカーゆえの悲哀かとも思いましたが、ある機種に目がとまります。2020年の「ROKUROKU」です。正規社長はオリジナルコンテンツの獲得を目差し、映画「ROKUROKU」へ多額の資金を投じたんです。
監督は牙狼の雨宮慶太。サンセイR&Dから営業のSと開発のYを引き抜いた後にスタートした案件なので、〝サンセイR&D高尾支店〟と揶揄する人もいました。
ただ、コンテンツは簡単にヒットするものじゃない。フィールズもコンテンツ事業が延々と足を引っ張り続けましたし、やっと黒字になったのは、伝統ある「ウルトラマン」の円谷プロダクションが貢献したから。
京楽の榎本善紀も芸能界に入れ込み、吉本興業の財布になったなんて言われもしました。
そんな中、経験に乏しい高尾が、一発で宝を引き当てるのは難しいよ。機械のデキも展示会の時点で厳しく感じましたし、稼働も酷かった。
若社長キモ入り案件がコケ、自ら引っ張ってきた支店長がやらかし、本人は殺されてしまった。メインコンテンツのブランド力を自らの手で毀損したところに、世界レベルの感染症がやってきたんですね。
おまけ・上場メーカーの「副業」をチェックする
決算発表時点では情報が足りておらず見送っていた「本業と副業の詳細」をまとめてみます。このオマケは、本決算記事にもコピペ追記します。
一部、本決算記事の内容と重複しますが、ご容赦下さい。
また、SANKYOと藤商事は多角化していないので除外します。
オーイズミ
売上高(千万円以下四捨五入)
遊技機事業・61億円
不動産事業・9億円
ソーラー事業・10億円
コンテンツ事業・6億円
こんにゃく事業・21億円
日本酒事業・1億円
営業利益
遊技機事業・1億円
不動産事業・5億円
ソーラー事業・5億円
コンテンツ事業・0.4億円
こんにゃく事業・1億円
日本酒事業・0.3億円
メインは現在も遊技機事業ですが、多角化の芽は確実に育っていると分かります。むしろ利益面で他の事業に救われた格好です。
多角化で遊技機事業のリスクヘッジをしてるのに、同じカテゴリのパチンコ事業に手を出すか?? という話なんですね。
セガサミー
売上高
ゲーム・2359億円
遊技機・758億円
リゾート・86億円
営業利益
ゲーム・339億円
遊技機・93億円
リゾート・▲25億円
もう完全にゲームの会社です。
平和
売上高
ゴルフ・853億円
遊技機・362億円
営業利益
ゴルフ・132億円
遊技機・▲6億円
もう完全にゴルフの会社です。ルパン出しても赤字とか・・・・・・。
フィールズ
セグメント別の売上高が決算短信に記載されていなかったため、営業利益を比較します。
営業利益
遊技機事業・18億円
コンテンツ・15億円
完全に互角。前年度の遊技機事業は赤字だった反面、コンテンツは黒字だったのね。遊技機事業は安定性の面で劣っています。ただ、中国でウルトラマン人気が炸裂しているだけなので、これが落ちたらコンテンツ事業も厳しくなるでしょう。
ユニバ(第1四半期)
売上高
遊技機事業・162億円
カジノ事業・113億円
営業利益
遊技機事業・53億円
カジノ事業・▲5億円
コロナで壊滅的な影響を受けているカジノ事業ですが、これ、稼働し始めたら遊技機事業を上回る利益になりそう。
一方、ユニバの遊技機事業は、利益率がどちゃくそ高いAタイプ(非液晶)のヒット機を数多く抱えるため、簡単に儲かってしまう。藤商事がいくら頑張っても赤字から脱却できないのとは対照的です。
今回倒産した高尾も藤商事と同様、販売不振により遊技機の開発製造コストを回収できなくなっていました。
開発に金をかけすぎて儲からない。かといって多角化によるリスクヘッジも行っていない。そこにコロナの影響、半導体不足の影響がモロに来たのだから厳しい。
加え、高尾は若社長の殺害、メインコンテンツの凋落(カイジ4騒動)が重なってしまったわけですね。
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?