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生成AIで8割くらい作ったSFサイバーバイオパンクラノベ(6)

 第六章

 驚天動地の大変貌ビッグ・インパクト
 地平線の彼方、魔方東京ルービック・トーキョーと呼ばれた都市が、異様な蠢動を見せていた。
 蒼空ピーカンの下、27の区画が巨大なパズルのピースのように、互いに軋み、衝突し、組み合わさりながら、禍々しいシルエットを形成していく。液体混凝土リキッド・コンクリがまるで溶ける蝋のように歪み、道路がうねり、霓虹ネオンが明滅する。
 区画B2ダイバは、巨大な頭部へと変貌し、無数のアンテナが、まるで触角のようにシエルに向かって伸びていた。
 区画B5オンドコロの王墓は、心臓部として、不気味な赤い妖光を脈打つように放っている。他の区画エリアは、巨大な手足や胴体となり、超巨大な人型デイダラボッチへと変形していく。
 建築物という概念ノリを超越した、異形の怪物ジャバウォック。ドン・Ωの狂気イカレトンチキが具現化した、破壊の化身。
 アタリは荒野に立ち尽くし、その光景を見つめていた。
 機蟲バグの姿をした阿修羅アスラクロウの脇にいた。
 鴉は荒れ野に横たわっていた。
 払暁の薄明かりの中、彼女の黒い姿は、まるで大地に溶け込む影のようだった。二人と村雨を安全地帯まで運ぶと、力尽きてしまった。
クロウ、しっかりしろってば」
 阿修羅アスラは、機蟲バグの体を震わせながら、クロウに呼びかけた。声は悲痛な響きを含んでいた。
 アタリは、無言でクロウを見下ろす。彼女の呼吸は、浅く、速かった。
 クロウは、皇帝たちの電子悪霊による脳髄支配ブレイン・ハックを受けた結果、急速にその生命力を失いつつあった。
「どうしようもねえ」アタリは、首を横に振った。
「まだ、何か手があるはず」
 阿修羅アスラは今までにないほど、焦った声を発した。
 クロウは、薄く目を開けた。彼女の視線は、すでに定まっておらず、空虚な闇を見つめているようだった。
「ワタシは、死ぬ……」クロウは、かすれた声を発した。「ドン・Ω。奴は戦闘兵器が完成したら、地下呪民モーロックチラすと言っていたろ……」
「ああ、言ってたけどなんだってのよ」
「ワタシの両親は、地下呪民モーロックなんだ。ああ、地下なんてもう捨てた場所のはずなのにね……」クロウは、自嘲するように笑った。「あの独裁者エイゴンは、ワタシたちを、虫けらのようにノメすつもりだ……」
 クロウは苦しそうに咳き込んで吐血した。
「頼む、彼らを助けてくれ……」
 次の刹那、彼女の目は、すでに光を失い、深い闇に閉ざされていた。
 クロウは静かに息を引き取った。
「そんな」阿修羅アスラクロウの胸元に上り、嗚咽を漏らした。
 と、同時だった。
 遠くから、鈍い地響きが聞こえてきた。
「今度はなんだ」アタリが呟く。
 荒れ野の向こうから、一台のトラックが、轟音を立てて近づいてきた。
 トラックは、彼らの前で急停車する。
 荷台から、巨大な影が飛び降りてきた。
「我、勇気の力で復活なり!」
 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドだった。スカイツリーでの戦闘で受けたダメージは、完全に修復され、以前にも増して力強いオーラを放っていた。しかし、修復の結果だろうか、一回りほど小さくなっていた。
「はー。勇気の力とかカンケーないからね」
 トラックの運転席から、ドスが降りてきた。彼女はオーバーオール姿だった。
 アタリはドスを見つめた。
勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドはまだしも。……よくあの崩壊ジェンガから逃げてこれたな」
 ドスは微笑んだ。
「まあね。嫌な予感はしてたしね。……勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドさんの修理も終わったら、崩壊ジェンガが始まる前にさっさと逃げちゃったから」
 しかし、彼女の笑顔は、すぐに消えた。
 クロウの亡骸に気づき、その場に立ち尽くした。
鴉姉さんシスター・クロウ……なんで……」
 ドスは、駆け寄り、クロウの顔に触れた。しかし、クロウの体は、すでに冷たくなっていた。
「ううっ……」
 ドスは、声を上げて泣き崩れた。
 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドも、苦しそうな呻き声を上げた。「クロウよ、やっと会えたというのに」
「……悪いが、ドス」アタリは腕を組んだ。「状況はどんな感じだ。最悪チョベリバだってのは、わかってる」
「うん」ドスは涙をぬぐう。「最悪は最悪だよ。都民の大部分は何とか脱出しているらしいの。C階層の人たちが真っ先に逃げたってさ」
「上位階層の奴らのほうがひどそうだな」
地下呪民モーロック頭領ボスであるスージーも死亡したらしいって。地下層には逃げ遅れた人たちがいっぱいいるって」
 この規模の崩壊だ。トップロープも死んだかもしれない。
 アタリは、再び変形を続ける魔方東京ルービック・トーキョーに視線を向けた。
「で、あんなもん、どうすりゃいいんだ?」
 ドスは顔を顰めた。「逃げたほうが……」
 阿修羅アスラが甲高い声を発した。
「やだってば! ぶっ壊してやんないと、気が済まないね」
「応!」勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドも同意する。「このままドン・Ωを許すことなどできぬわっ」
 アタリは腕を組む。
「でも、どうやってだ? あんな巨大バカデカな兵器を……」
「あー、くそ。ぶっしてやりたいけど」
 阿修羅アスラは呟く。
「俺だって、トリを救わなきゃいけねえ。約束チギリがあるんだ」
 その時だった。
 ドスが、静かに手を挙げた。
 彼女はアタリや阿修羅アスラ勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンド、そして村雨を見つめた。
「あの……もしかすると。……あの兵器を破壊する手なら、私が準備しちゃったかも」
 アタリは、顔をしかめた。
「マジか。どんな手だ?」

 高度七〇〇〇メートル。
 太陽スーノが燦燦と輝き、雲ひとつない青空が広がっている。眼下に広がるのは、超巨大な人型デイダラボッチに変貌していく魔方東京ルービック・トーキョーだった。
 摩天大楼群ビルディングスが折り重なり、道路がねじ曲がり、区画エリア区画エリア衝突ごっつんこし、融合ユナイトしていく。
 自動空中輸送機は、その悪夢の上空を静かに飛行していた。
 コックピットには、ドスが座り、冷静な表情ツラで操縦桿を握っている。彼女は、魔方東京ルービック・トーキョーからの脱出エクソダスの際、エクリプス・コーポの空輸システムをハッキングし、この輸送機に自動操縦で自身を追跡するように仕向けていたのだ。
準備セタップはいいかなー、アタリくん?」
 ドスの声が、貨物室に設置されたスピーカーから聞こえてきた。
 アタリは、貨物室に立ち尽くしていた。
 頬に汗が垂れていく。
「ああ、俺はいつでも行ける。クソだりぃけどな」
 アタリは、静かに答えた。
 彼の背後には阿修羅アスラが、機蟲バグの姿で張り付いていた。彼の四本の機械腕には、それぞれ高性能の拳銃チャカが装備されている。
 アタリの右腕には、ドスが調整した勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンド装着ガッチャンコされていた。巨大にして性能抜群の機械掌マジック・ハンド
 そして、その巨大な掌が握りしめているのは、三メートルを超える刀身の指向性重力刀グラヴィティショナル・ダンピラである村雨だった。安寿帝は、この事態を予測していたのだろうか。
 足元には、愛用のスケートボードが固定されている。
「突貫工事にしちゃ、上出来だ、ドス
「ええ、思ったより完璧だったよ。私の調整チューニングは、鶴立鶏群オンリーワンだからね。あとは、アタリくんが、あの化け物モンストロをぶっ壊してくれるだけ。私にはクロウの敵が取れない……」
「ああ、任せといてくれ。トリを救うついでに、あの愚図ボケをぶっ飛ばしてやるよ」
「……さあ、予定降下ポイントに到着した。作戦は、わかってるよね」
「ああクソ単純で、一発勝負」
「はー」阿修羅アスラが、不安そうに呟いた。「アタリ、うまくいったらアンタの体貸してね」
「ふん。考えとくよ」
 貨物室の鋼鉄のハッチが、ゆっくりと開いていく。
 轟轟と吹き荒れる風が、貨物室に流れ込んできた。
 眼下に広がるのは、混沌ハオソとした光景。
 アタリは、深呼吸をする。
 そして、輸送機からドロップした。

 風を切る音。
 アタリは、急降下しながら、眼下の混沌ハオソを見つめていた。
 巨大な人型へと変形しつつある魔方東京ルービック・トーキョー。その頭部ドタマである区画A5ダイバが、徐々にアタリに向かって迫ってくる。
「あー、東京防衛システムの砲台が正常に稼働してんじゃないの!」
 背中に憑依ポゼッションした阿修羅アスラが警告を発した。
 言葉通り。
 区画A5ダイバの各所から砲口が姿を現し、一斉に砲撃を開始。轟音と共に、光弾がアタリに向かって放たれる。
「ああ、だりぃなァ!」
 アタリは、右腕に装着した勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドで、村雨を振りかぶった。重力制御を最大限に高めた刀。空気を切り裂き、空間を曲げ、飛来する光弾を次々と斬り飛ばしていく。
 爆発の閃光が、空気を震わせ、黒煙が舞い上がった。
 アタリは、怯むことなく、区画A5ダイバに向かって降下を続ける。
「まだ終わんないよ! ヒャハァ」
 と、区画A5ダイバ摩天大楼群ビルディングスから、複数の飛行体が出現した。
 プロップスの空駆兵たちだ。
 彼らはジェットパックを背負い、高速でアタリに襲いかかってくる。その顔は、狂信的な笑みを浮かべており、死を恐れる様子は微塵もなかった。
「こいつら、笑ってやがるぞ!」
「洗脳されているってば! ドン・Ω! ますます気に入らないね!」
 ドン・Ωの洗脳によって、彼らは、忠実な殺人兵器キラーマシーンと化している。
「雑魚は任せな、アタリちゃん」
 阿修羅アスラは四本の機械腕を稼働。各腕が自動小銃アサルト・ライフルの銃口を向け、空駆兵たちに射撃を開始する。
 正確無比な射撃によって、空駆兵たちのジェットパックが次々と撃ち抜かれ、彼らは笑みを浮かべたまま地上へと落下していく。
 その時だった。
「なんだ! YOUたちは!」
 空気を震わせるような、激怒ゲキオコの声が響き渡った。
 ドン・Ω。
「うっせえんだよ、馬鹿社長ボンクラが!」
 アタリは叫び返す。
「ドン・Ω! 我らがお前を成敗してくれよう」勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドが咆哮。「勇気の力、今一つに!」
「僕ちゃんを裏切ったかァ! 阿修羅アスラ! 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンド!」
 阿修羅アスラが不敵に答える。
「あんたのやり方、気に入らないんでねえ!」
廃棄物ゴミが集まって何を言う! 僕ちゃんの邪魔をする奴には、グッバイを!」。
 魔方東京ルービック・トーキョーの各所から、ミサイルがさらに飛んできた。
 アタリはスケートボードで空気抵抗を調整し、右へ左へ動き相手を翻弄する。
「アタリ、攻撃量が増えたってば!」
 阿修羅アスラが、アタリの背中で叫んだ。
「問題ねえって!」
 アタリは村雨を自在に操り、飛来する攻撃を次々と迎撃していく。
 背中の阿修羅アスラも、四本の機械腕を駆使し、正確無比な射撃で敵を撃ち落としていく。
 その時だった。
「我、勇敢な分析を完了したぞ!」
 右腕に装着された勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドが、熱のこもった声で告げる。
「なんだ、オッサン」
 アタリは、勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドに尋ねた。
「王墓の中心部コアに、ありえないほどの高エネルギー反応と情報処理量が集中しているのを確認した! ドン・Ωは、王墓の中心部に陣取っているに違いないぞ!」
「やっぱ、そこにいるか。行くぞ、阿修羅アスラ!!」
了解OK!」
「やらせるかよ! YOUたちには死を死を死をァ!」
 再び、ドン・Ωの狂声。
 魔方東京ルービック・トーキョーの巨大な右腕が、ゆっくりと動き始めた。元々、区画B2ロンドンの部分だ。
「げげ! ガチなの!」
 阿修羅アスラは悲鳴を上げた。
 アタリは、深呼吸をした。
 落ち着け、アタリ。
 魔方東京ルービック・トーキョーの人化はまだ完成はしていない。
 叩くなら今だ。
 自分に言い聞かせる。お前ならできる。
 息を吸ってから、大声を張り上げた。
「トリ、聞こえるかああ!」
 眼前に迫る、魔方東京ルービック・トーキョー超巨大な拳ビッグ・インパクト
 高層ビルや道路の塊。圧倒的バチクソな質量。
 巨拳が、轟轟と風を巻き起こしながら、下から突き上げてくる。風圧で空駆兵たちが舞っていく。
 アタリは構わない。恐れはないノー・フィアー
「トリ! お前との約束チギリを果たさせろ!」
 再び、アタリは叫んだ。
 アタリは、右腕の巨大な掌型ロボットで、村雨を握りしめた。
 その時だった。
「やばっ!」
 背中にいる阿修羅アスラの悲鳴。
阿修羅アスラ!」
 振り返る間もなく、背中に張り付いていた阿修羅アスラが、弾き飛ばされるのがわかった。
 四本の機械腕のうち二本が、根元から撃ち抜かれ火花を散らしていた。
「あとは任せたってば、アタリ!」
 阿修羅アスラの声が、悲痛な響きと共に風にかき消されていく。
 しかし、今は阿修羅アスラを助けに戻っている時間はない。
 多くの命が失われた。
 狗蜂イヌハチクロウ、そして弾丸坊主バレット・モンク
 この騒乱に巻き込まれ散っていった。
 やるべきことがある。それによりすべてを終わらせる。
 覚悟を決めているアタリはトリに向かって、心の底から叫んだ。
「お前を、お前が望む場所まで運ぶのが、俺の役目だ!」
 その時だった。
「……アタリ……」
 微かな声が、アタリの耳に響いてきた。
 トリの声だった。
「今からいくぞ、トリ!」
 アタリは吠え、村雨を高く掲げた。
 いよいよ。
 ドン・Ωが操る魔方東京ルービック・トーキョーの巨大な拳が、アタリに迫る。
 スケートボードの上で姿勢を整えたアタリは、全身の力を込めて、村雨を振り下ろす。
 巨大な刀身が魔方東京ルービック・トーキョーの拳と激突ガツン
 凄まじい衝撃波が、周囲に広がった。
「うおら!」
 アタリは、咆哮と共に村雨を拳の表面に突き立てた。
 村雨の刀身が、まずは黒曜石でできた摩天大楼ビルを切り裂く。
 轟轟と地響きが轟き、火花が飛び散る。
 アタリは衝撃に耐えながら、スケートボードに乗り、拳の上を高速マッハ滑走スケーティングしていく。ウィールは加速。
「うおおおおおお!」
 アタリは、唸り声を上げながら、村雨で巨大な鉄拳の表面を切り裂いていく。
 切れ口からは、黒煙が噴き出し、内部に張り巡らされたコードやパイプが、まるで血管のように露わになる。
「これこそ、勇気! いや、ガチ人間の力ガチンコ!」
 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドは、アタリの右腕から感嘆の声を上げた。
「うぉおおおおおおお!」
 アタリは、慟哭にも似た叫び声を上げながら突き進む。
 スケートボードの車輪が、火花を散らしながら、右腕の上を疾走する。アタリは、その速度を落とすことなく、胴体に到達。
 摩天大楼に道路、広告版、支柱に排管。
 幾枚もの物理的障害をぶち抜き、アタリは魔方東京ルービック・トーキョーの心臓部、王墓へと到達した。
 黒曜石でできた巨大なピラミッド。
「止まれ、この運び屋風情ドサンピンが!」
 ドン・Ωの怒号ぷっつんが、空気を震わせた。
「ドン・Ω、てめえにゃ用はねえ!」
 アタリは叫びながら、王墓の壁に村雨を突き刺し、破壊する。
 もう少し。
 アタリは、超速のまま王墓の中心部コアへと向かって突貫ドン
「トリィィィィィ!!」
 アタリの叫び声が、王墓内部にこだまする。
 いよいよ最後の壁をぶち抜いた。
 刹那だった。
 村雨の刀身が音を立てて折れてしまった。
「よくもった!」
 アタリは、村雨を投げ捨てた。
 ついに、王墓の中心部へ。
 そこは、巨大な円形の空間だった。
 天井からは、不気味な赤い光が降り注ぎ、壁には、複雑な機械装置が設置されている。中央には、巨大な球体が浮かび上がっていた。
 感謝ダンケだ。
 周囲には、捕らえられた九体の検体——オルフェンス・シリーズ——たちがチューブに入れられ並んでいた。彼らは、皆、虚ろな目で一点を見つめている。
 トリは中央のチューブに収まっていた。
 それだけではない。感謝ダンケの上部には、何本もの管に接続された老人の肉体が吊るされていた。
 白縫帝ハク・ヌ・テイ遺体ホトケ。素体のオリジナル。
 感謝ダンケとオルフェンス・シリーズの安定的な接続のためにハブとして使われているのだ。
 なんという哀れな最期。
「YOUが!」
 アタリたちの前にドン・Ωが立ちふさがる。感謝ダンケの前に立ち、ナノマシンで構成された超最新鋭パワードアーマーを身に纏っていた。
「ボクちゃんこそが、世界モンドを制する! なのに、YOUはなんだ! なんだってんだ!」
 迎え撃つドン・Ωは、咆哮した。
「アタリよ! 勇気は十分か!」
 右腕の勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドが、指を折り拳の形態となる。
準備万端バッチコイだ! オッサン! だけどな、俺は怒ってんだよ!」
「それもよし! いくぞ、勇気炸裂の!」
 アタリは、勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドを振りかぶり、ドン・Ωに向かって突進した。
必殺鉄拳フィニッシュ・ブローだ、この野郎ボケ!」
 最高潮に高まり、速度は限界カンストを超えていた。
「受けて立つ!」迎え撃つドン・Ω。
 二つの影が、心臓部の中心で交わった。
 激突音と衝撃。
 勝利したのは、ドン・Ω。
 アタリの鉄拳はドン・Ωのパワードアーマーを抉っていたが、動きは止められていた。
 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドの二つの指は潰滅ぐちゃりしてしまった。
南無阿弥陀仏テクマクマヤコン! YOUの負けだ!」
 ドン・Ωは左腕でアタリたちを吹き飛ばした。
 さらなる衝撃。
 アタリたちは部品を飛ばしながら、地面に転がった。勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドが腕から外れてしまった。
「くそが……」
 うずくまるアタリは地面に吐血した。骨が折れたのか、全身に痛みが奔る。
「なぜ僕ちゃんに挑んだ、特攻野郎ダイアン・ヤングが! 勝てると思ったか、下郎カス! 所詮、YOUのようなゴミ屑は地面に転がっているのがお似合いなんだよ」
「はっ」アタリは莞爾ニコリ。「俺みたいな運び屋が、お前に勝てるだなんて万が一にも思っちゃいねえよ、山猿ボケ
「なに?」
「お前は勘違いしてんだよ、すべてのことで」
「何を言っている、クソが」
 アタリはドン・Ωを真っすぐ見据えた。
「俺の仕事シノギはよ、運び屋なんだよ。つまり届けるのが仕事だ」
「な……。なにを!」
「いい加減気づけよ。俺は運んだんだよ、ここに」
 アタリの言葉を聞き、ドン・Ωの顔色が青ざめていった。
「しまった!」
 ドン・Ωが振り向く。
 だが。
 時すでに遅し。
「あー、やっと肉体を手に入れたってのに、こんな老体ポンコツじゃあ残念ぴえん
 広間に響く阿修羅アスラの声。
 それを発していたのは、感謝ダンケの上に接続された白縫帝ハク・ヌ・テイ遺体ホトケだった。
「貴様ァ!」ドン・Ωが吠えた。
 しかし。
 次の刹那。ドン・Ωのパワードアーマーが強制解除パージした。
「な!」
 アタリは立ち上がった。
「……お前の負けだ、ドン・Ω」
「うるせえ、餓鬼が」
感謝ダンケに接続したのが運の尽きだったな。こっちが白縫帝ハク・ヌ・テイ遺体ホトケさえ手に入れりゃあ、お前は丸裸すっぽんぽんも同然」
 ドン・Ωの肉体は、ナノマシンによる超高速再生能力を失い、急速に崩壊していく。人工皮膚が剥がれ落ち、血と肉が飛び散る。
「はー」阿修羅アスラがぼやく。「これって愉悦極楽アビバノンノンすぎて、つまんないかも」
 血反吐を吐いたドン・Ωは膝から崩れ落ちた。
「ボ、ボクちゃんこそが、世界モンドを制するはずだったのに……ううっ……」
 ドン・Ωの目は、光を失い、虚ろな闇を見つめていた。
 終わった。
 しかし、アタリは、勝利に浸っている暇はなかった。
「トリ!」
 アタリは素体が入ったチューブに駆け寄りながら叫んだ。
 チューブは、透明な強化ガラスでできており、その中には、捕らえられた素体たちが、まるで標本のように並べられていた。
 アタリはトリが入ったチューブの前に立ち表面を掌で叩いた。
「おい、起きろ」
 反応はない。
「トリ! おい、助けに来たんだぞ」
「ううむ」阿修羅アスラが呟く。「手遅れだったのかしら……」
 アタリはあきらめない。
「そんなわけねえ! 俺に約束チギリを果たさせろよ! トリ!」
 その時だった。
 トリが目を開く。
 その瞳には、いつもの力強さが宿っていた。
「トリ……」
「名前呼びすぎ。うるせえんだよ、アタリ」
 液体に入っているトリはチューブの強化ガラスを、自らの拳で叩き割った。ガラスの破片が、鋭利な刃物のように飛び散る。
 彼女は、よろめきながら、チューブから這い出てきた。彼女の体は、弱々しく、歩くこともままならないようだった。
 アタリは、トリの腕を掴んだ。
「大丈夫か、トリ!」
「アタリ……」トリは、かすれた声で、アタリのツラを見た。「なんか怪我しすぎじゃないの?」
「うるせえな。助けに来たんだよ」
「わーってんよ」
 トリは、いつもの乱暴な口調で答えた。しかし、その声には、安堵と喜びが込められていた。
 二人は、顔を見合わせて、笑い合った。
「ふざけんなあ!」
 怒りに満ちた声が響いた。
 ドン・Ωだった。
 彼は全身から血を噴出しつつ、よろめきながら立ち上がっていた。
 アタリは、ドン・Ωの姿を見て、呆れたように言った。
「まだ、生きてやがったのか」
YYDSゴッドたる僕ちゃんが、こんなところで死ぬわけがない!」
 ドン・Ωは、怒号を上げた。しかし彼の声は弱々しく、もはやかつての威圧感はなかった。
「YOUたち……絶対に許さない……」
 その時だった。
 トリがドン・Ωに向かって、右手を突き出した。
「さんざん、しやがってよ! このクソジジイ!」
 トリの叫び声が、王墓内部に響き渡った。
 と、ドン・Ωは、苦痛に顔を歪めた。
「ぐああああああ!!」
 彼の体は、激しく痙攣し、急速に崩壊していく。ナノマシンによる再生能力も、もはや、限界を超えていた。
 トリは神速計算処理能力で、ドン・Ωの弱体化した肉体を直接操作し、とどめを刺したのだ。
 ドン・Ωは断末魔の叫びを上げながら、塵と化して消えていった。
「終わった……」
 アタリは、呟いた。
「ああ、終わった」
 トリも、静かに答えた。
「で」
 アタリは、トリの顔を見た。
「なんだってんの」
 トリは、アタリの視線に気づき、少しだけ顔を赤らめた。
「お前が行きたい場所は、決まったか?」
 アタリは、真剣な表情で尋ねた。
 トリは、静かに頷いた。
「うん」
 彼女は、アタリの目を見つめながら、答えた。
「でも……」
 トリは、言葉を詰まらせた。
 彼女は、振り向くと、チューブに入れられたままの他の素体たちを見た。
「みんなも、一緒に連れていく」
 トリは、静かに、しかし、強い決意を持って、そう言った。
「どこだ?」
 アタリは、笑顔で尋ねた。
 トリは、シエルを見上げた。
「私たちが幸せになれる場所って、いう感じ」
「そっか」
 アタリも、トリの視線の先を見つめた。
「宇宙……か」
 アタリは、つぶやくように言った。
 トリは、静かに頷いた。
「ああ、私たち素体は、元々は、宇宙で生まれた存在なんだ。だから、帰るべき場所は、宇宙しかない」
 アタリは、複雑な表情でトリを見つめた。
 彼女は、少しだけ寂しそうな顔をした。
「なんだよ、辛気くせーな。もっと、明るく別れようぜ」
 アタリは、いつものように、おどけた口調で言った。
「はっ、ここまでやったんだ。あたりめえだろが」
 トリは、アタリの言葉に、つられて笑った。彼女は、アタリから少し距離を置くと、深呼吸をした。
「アタリ、ありがとう」
 彼女は、アタリの目をまっすぐに見つめながら、言った。
「お前のおかげで、私は、自由になることができたんだ」
 アタリは笑む。
「……もう二度とこんな依頼オファーは受けねえさ」
「じゃあ、サヨナラ」
 トリは、小さく呟いた。
 その瞬間、トリの体が、光り始めた。
 淡く、しかし、力強い光だった。彼女の銀色の髪が、輝き、紅い目が、まるで宝石のようにきらめく。他の素体たちの体も、トリの光に呼応するように、輝き始めた。
 同時に、王墓全体が、再び激しく揺れ始めた。天井から、さらに多くの黒曜石の破片が崩れ落ち、壁の亀裂は、音を立てて広がっていく。
 トリと他の素体たちの光は、さらに強さを増し、王墓全体を包み込んでいった。
 感謝ダンケの巨大な球体も、激しく光り輝き、王墓の壁や天井が、まるで溶けるように変形し始めた。
「さあ、行きましょ」
 アタリの傍らに来たのは、再び蟲の姿に戻った阿修羅アスラだった。
「お前、体はいいのか」
「あんな老体ポンコツ、私の美意識が許さない」
 アタリは微笑む。
「だろうな」
「さっさと勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドを連れて脱出しましょ」
「ああ」
 アタリは踵を返し、床に転がっている勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドに向かった。

 夕暮れ時の薄暗がりの中、巨大都市メトロポリスの残骸が、不気味なシルエットを大地に映し出していた。
 見る影もなく崩壊し、瓦礫の山と化した区画群が、無残な姿をさらけ出していた。
 丘の上には、四人の姿があった。
 アタリ、ドス阿修羅アスラ、そして勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンド
 彼らは、丘の上から、宇宙へ打ちあがった巨大な宇宙船を見つめていた。
 黒曜石のピラミッドが変形したその船は、光を放ちながら、ゆっくりと上昇し、やがて、星空へと消えていった。
 トリと他の素体たちは、宇宙へと旅立ったのだ。
「宇宙ってマジなの?」阿修羅アスラは、機蟲バグの体で、アタリの肩に留まりながら、言った。「まー素体の能力を生かすには、地球じゃちょっと狭かったってことかな」
「俺は、俺の約束チギリを果たしただけだって。あー、めんどかった」
「……我、勘違いしておったわ」
 勇気爆発ブレイヴ・ザ・ハンドが、深く低い声で言った。
「何が?」
「ねー」阿修羅アスラが、茶化すように言った。「アタリとトリちゃんって、相思相愛カップルだと思ってたのに。タマかけるとかさあ」
「えー、そうなんですかー」ドスが、呑気な声で言った。
 アタリは顔を顰めた。
「ちげーし。いや、途中までそういう展開ノリかなと思ってたけどよ。……実際、俺ってそういうんじゃねえし。約束チギリを果たすのが俺なの。あー、めんどい」
 四人は笑い合った。
 宇宙船が消えていったシエルには、スターロが輝き始めていた。
 アタリは、新たな旅立ちの時を迎えていた。
「さ、どうすっかな、これから」
 アタリは、微笑みながら、呟いた。

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