グラスとブラス


聞き間違うグラスくんのお話だったはずだけど、そんなふうにならなかった気がする(?)(時々ノートに原稿載せます。いつもとタイトルが違う感じがしたら小話かもしれません)




グラスとブラス

『……ラスさーん!』
『は、はーい!』
ラヴァ・グイードの率いる海賊船、エンプレス・アイヴィー号。そこへ転がり込んでから十日ほどが経ち、少しずつ船の雑用にも慣れてきていたグラスだが、一つだけ困ったことがあった。

『いや、おめーじゃねぇ!ブラスさんだ!』
『あ、す、すみません!』

『おい、グラス!』
『……』
『……テメェはグラスじゃねぇのか!』

この船の中で、グラスと似た名前を持つ人間がいることだ。
彼女は船長に次ぐ決定権など責任を持つ人間。彼は新人で雑用の下っ端。二人とも良く名前を呼ばれる立場である故に、グラスは日に何度も呼ばれる名前を聞き間違えては怒声を浴びていた。

『災難だな。今日は何度怒鳴られた?』
『……思い出せないくらいには』
今日の食事当番のグラスとブラスは厨房いた。シャリシャリと樽いっぱいに積まれているジャガイモ皮を一つ一つ剥きながら、二人は言葉を交わす。
今日使った薬草の種類と数、それを誰に使ったのかなどの業務報告。薬草を利用したものは少なく、報告はすぐに終わり、ブラスから振られた話題へと会話が変わる。
『おーい、グラスー!いるかー!』
『は、は』
『なんのようだ?』
『え、いや、グラスを……』
呼ばれたグラスの返事を遮ってブラスが反応した。
『これからは離れた場所からじゃなく、本人の目の前にまで来い』
お前たちの発音はわかりにくい。ジャガイモからは目を離さずにピシャリと言ってのけるブラスと、自分を呼びにきた男たちを少し青ざめた顔で見比べる。
『ちょっとしたイジりのつもりだろうが、度が過ぎれば嫌がらせだ。新入りをイビって何が楽しい。やるならラヴァにやれラヴァに』
『お、お頭に?!』
『上の人間にやれないことを新人にならすんのか?あ?』
ジャガイモの皮を剥く手がとまり、男たちに見せつけるように包丁を持つ手の位置を少し顔に寄せるブラス。勢いよく頭を下げて謝罪を告げる男たちに、ブラスは相手が違うと再びジャガイモに視線を戻した。
グラスは男たちに悪かったと頭を下げられ、あわあわと手を振っては大丈夫ですと頭を下げる。
『お前もラヴァにやっていいぞ』
厨房を出ていく男たちを見送りながら、ブラスはそうグラスに話をふった。
『なにを、ですか?』
『ん?いやがらせ』
ニタッと目を細めたブラスに、しませんよとグラスはキュッと眉を寄せた。