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【小説】「夢の中の夢の出来事」02

「ここは……どこだろう?」

何の音もしない真っ暗闇の中で、夏巳がパチっと目を開くとーー、そこは夏巳がいつもイヤイヤ通っていた大嫌いな小学校の廊下だった。

​「ここ学校!? オレ……なんで学校にいるんだろう?」周りをキョロキョロと不思議そうに見る夏巳。

​「パジャマ姿のままだし……コレっていつもの変な夢?」変な夢。嫌な夢。怖い夢を見ることは、最近よくあった。けど、小学校の廊下をパジャマ姿で一人歩くのは、何だか気恥ずかしいような、心細いような……変な感じがした。

​​

「誰かに見つかったらなんかヤダなぁ……」

周りの景色が全部灰色で、朝なのか夜なのかもわからない。でもきっと自分の夢なんだろうと、夏巳はそう思った。

​パジャマ姿のまま、冷たい廊下を裸足でぺたぺたと歩いて行くと……

​【三年一組】の教室を見つけた。

​教室のドアをそーっと開けて「お、おじゃましまーす……」小さな声でそう言うと、室内に掛けてある時計を見て時間を確認した。教室の中はガランとしていて誰もいなかった。

​「夕方の四時か…… なんだ、もうみんな家に帰ってる時間じゃん【三年二組】自分の勉強机がある教室の前に来ると

​「うっわぁ、いつもの教室……」恐る恐る、教室の中をそーっと覗いた。

「ゔっ!眩しい……」室内の窓からは、目がくらむほどの西日がさしてきた。逆光で顔はよく見えないが、四人の男の子たちが教室の中で激しく口論するような声が聞こる。


​「あ、アイツら……下校時間はとっくに過ぎてんのに、何してんだろ?」


灰色だった周りの色も段々変わり始めて、三年二組の教室内は少しずつ鮮明に映っていった。
教室の中では一人の子供が、机の角っこに片足をかけるようにして机の上に座り。

その隣の机では、椅子に座っているもう一人の大人しそうな子供を、二人の子供が囲んで逃げられないようにしていた。


「お前さぁ オレのゲーム取っただろ?」


机の上に座っている子供が、椅子に座っている大人しそうな子供に問い詰めるように言うと

「はぁ……そんなことするわけないだろ?」と椅子に座ってる、大人しそうな子供が小さな声で言い返した。

「嘘つくなよ。一昨日お前がオレの家に来てからなくなったんだぞ?盗めるのお前しかいないだろ?」

「オレは何も盗んでない。嘘つき呼ばわりするな! 」

「お母さんが言ってたんだ!お前の家 父親が出て行ったきり帰って来ないから すげー貧乏でさ」

「……」

「ゲームもお菓子も 欲しいモノなにも買ってもらえないだってな?」


問い詰めてきた子はそう言いながら机からおりて、大人しく椅子に座っている子供の顔に、自分の顔を近づけて睨みつけた。


「だから何だよ……それ関係ないだろ!」


椅子に座っている大人しそうな子供は、怒りで強く言い返すが問い詰めてきた子供は大人しそうな子供の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らした!


「だから盗んだんだろ! 早く返せよ! このドロボウ!」


すると。椅子に座っている子供の後ろを囲っていた二人の子供が、手を叩いて怒鳴られた子供を囃したてはじめる。


「ドロボウ!」「ドロボウ!」「ドロボウ!」

── な、なに喧嘩?

夏巳は教室の中で喧嘩している子供たちを、隠れてこっそり見ることにした。

「早く返せよな!」胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に放し。椅子に座っている子供の左足に、強く蹴りを入れると。囃し立てていた二人の子供たちが、足を蹴られた子供の顔を見て馬鹿にするように笑った。


「取ってないものをどうやって返すんだよ…… オレは何も盗んでない!」大人しく椅子に座っていた子供は、また強く言い返すと椅子から立ち上がり。


左足に蹴りを入れてきた子供の顔を、いきなり拳で強くブン殴った!


「うわぁー!」


殴られた子供は驚いて机ごと、床に倒れてしまい。後頭部を強く打ち付ける!

「痛ってぇな……何すんだよ! この野郎!うわぁーー!」


倒れた机からは道具箱の中の教科書、図工で使う為のハサミやカッターナイフ。いろんな筆記用具が床に散乱した。

大人しかった子供は、自分が座っていた椅子を持ち上げ。倒れた子供に向かって思いっきり投げつけた。


「あっぶねぇな!」殴られた子供の耳元に、椅子の背もたれ部分が掠ったが、ギリギリ避けることできた。


「そっちが先に喧嘩売ってきたんだろ!」

「ひ、人の物を盗んだお前が悪いんだろ!」

​「オレは盗んでない!」椅子を投げつけた子供は、床に倒れた子供の上に馬乗りになり、取っ組み合いの大喧嘩が勃発した!

「なんかヤバイってこれ……オレちょっと先生呼んでくる!」「ちょっと待て! ボクも行くよー!」


囃し立てていた二人の子供は、その場から逃げるように三年二組の教室を飛び出して行った。


「おい。お前ら逃げるなよ! ──うわぁあ!」


顔面をブン殴られて床に倒れた子供も逃げようとしたが、殴った方の子供は倒れた子供を押さえつけ絶対に逃そうとはしなかった。


まるで何かに取り憑かれたような目で睨みつけ。床に落ちていたカッターナイフを手探りで片手に取り、馬乗りになって押さえつけた子供の顔に、カッターナイフを思いっきり突き刺した!


「うわぁあー!」


傷つけられた子供の悲鳴が教室中に響くと、教室から出て行った二人の子供たちが、先生を連れて走って戻って来た。若い男の先生だ。


「何をしているんだ! お前たちは!」

カッターナイフで顔を刺された子供はあまりの痛さに泣きじゃくり、その頬は血みどろになっていた。


「わあぁあー! 先生 痛い! 痛いよぉー」

「なんてことを……すぐ保健室に!いや救急車だ! すぐ救急車を呼ぶからな!」先生はあまりの激痛で泣き叫ぶ子供をすぐに抱え、その場から走り去っていった。

先生の着ていた真っ白なシャツは血で染り、二人の子供たちも怖くなって先生の後をすぐ追いかけて行った!

​「…… 」

血まみれの子供を抱えた先生と二人の子供たちがその場からいなくなると……

刺した子供は、握りしめていた血のついたカッターナイフを、床に叩きつけるようにして投げ捨てた。

夏巳はその一部始終を隠れて見ていた、恐怖でどんどん動悸が速くなり。

三年二組の教室の中で起きた、あまりにも衝撃的な出来事にその場から一歩も動く事が出来なくなっていた。

── ああ、なんなんだよ。この夢は……


カッターナイフを投げ捨てた子供は、まるで夏巳のことが見えていないかの様に、その場を黙って通り過ぎようとした。

​── その瞬間。 

夏巳はさらに驚愕する事になる。すれ違い様にその子供の顔を近くでよく見ると。

その子供の顔は自分とそっくり同じ顔をしていたからだ。


​「「「「うっあっあぁ……!!」」」」

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「「「「うわぁあーー!!」」」


夏巳は自分の叫び声に驚いて目を覚ますと、そこは段ボールだらけの物置小屋のような、自分の部屋だった。


「ハァハァ……起きた。あれ やっぱり夢か……あぁ、よかったぁ〜」怖い夢から覚めることができて安堵する夏巳。

暑さのせいなのか、恐怖の冷や汗なのか、敷いてある布団がじっとり湿っているように感じた。動悸も徐々に落ち着いく。


「夏巳ー起きたのー? 早く起きて朝ごはん食べちゃいなさーい」


台所から聞こえる、いつもなら鬱陶しく感じる母親の呼ぶ声も、今は救いの女神の声に聞こえた。

床に置いてある時計を見ると、時刻は六時をすぎていた。


「夏巳ー? 」

「もう起きた……今行くよ! もうっ!」夏巳は、イライラしながら自分が包まっていたタオルケットシーツを足で宙に蹴り上げ、やっと寝床から起き上がった。

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