写真旅日記∶直島観光、良かったこと3つと直島が親子1on1旅にぴったりなこと
香川県でうどんを三杯食べる旅の初日のこと。まずは東京駅から新幹線で岡山駅へで向かい、そこからは特急バスで宇野港に出て、最後にフェリーで香川県は直島へ行く。
直島について
直島は瀬戸内海に浮かぶ小さな島だ。ベネッセコーポレーションが30年以上前からアートの島として美術館や古民家ギャラリーなどを少しずつ開発している。安藤忠雄さんがほとんどの建物を設計していて、現代アート好きもしくは建築好きな人が世界中から集まってくる特別な場所だ。
宇野港での腹ごしらえはラーメン
ところで、うどんともアートとも関係ないけど直島に向かう船を待つ間に岡山側の宇野港ちかくの萬福軒というラーメン屋さんで食べたラーメンがすごく美味しかった。鯛の出汁を使っているらしく、スープに上品な旨味がある。港町なだけに、魚のアラが安く手に入るのかもしれない。
直島がアートサイトになるまで。始まりはキャンプ場。
私はてっきり、最初からアートありきの開発なのだと思い込んでいたのだけど、実は子どもたちが遊べるキャンプ場を作ろうというのが1989年に先に始まっていたようだ。モンゴルから持ってきたというパオを含むキャンプ場が当時からあって、下の当時の写真からもわかる。少し位置は変わったが、現在でもつつじ荘という宿泊所があって、相変わらずパオやトラクターもある。ベネッセハウスの綺麗なホテルに泊まるのももちろん良いけど、テント泊で低予算の旅も出来るのが直島のいいところだ。今回私たちも本当はパオに泊まりたかったのだけど、予約がいっぱいだったので本村というエリアにある民宿を選んだ。
20年ぶりの直島の様子
前回直島へ行ったのは2002年頃、大学のゼミ旅行以来なので、私にとっては20年ぶりの上陸。あの頃まだベネッセハウスはオープンしたばかりで・・・と思っていたけど年表によると1992年オープンとあるから当時すでに完成後10年だったことになり、あの時点でも別にものすごく新しかったわけではないと今更気がついて、つくづく思い出って本当にいい加減だなあと思う。地中美術館やヴァレーギャラリーを見るのは初めて。
島では韓国人を多く見かけた。西洋人もいて、彼らは日本は長期滞在らしく大きなスーツケースを抱えてバスに乗るのだけど、島内はこんな小型バスしか走っていないので車内での置き場所に苦慮していた。入り口付近に荷物を置いて通路を塞いでしまって運転手さんに叱られていたりする一幕もあり、新幹線はじめ、日本の交通は外国人の長期旅行をまだ前提としていなくて大荷物の観光客はいつも大変そうだなと思う。彼らが悪いわけじゃないのに。
直島には、三菱マテリアルの銅の精錬所が1917年に出来て、100年以上経った今でも現役で稼働しているという。多分あまり政治的に正しくないから声高には書いてないけど、そもそも高度成長期に行われたこの工場の開発で禿げてしまった自然をベネッセの福武さんや建築家の安藤さんが元の緑の姿に戻そうと思ったというのがアートサイトの動機づけだったはずだ。
民宿西村屋と居酒屋やよだ
今回宿泊した民宿、西村屋のご主人はこの精錬所で40年近く働き、定年退職したお友達に誘われて数年前にこの場所で民宿を始めたという。ベネッセの開発がある前は「この島の人はほとんど精錬所で働いていたのよ」と教えてくれた。
香川県でのうどん一杯目はあわよくば直島で、と思っていたので「近所に美味しいうどん屋さんはありますか?」とご主人に聞いた。すると一瞬静かになったあと「ちょっと前まではあってね。素晴らしいおうどんだったんだけど、店主が死んじゃった。だからもう直島にはいいおうどん屋さんはないのよ」と涙ぐんでしまった。なんだか申し訳ない気持ちになったので夜は西村さんおすすめの近所の居酒屋やよだで食事をすることに。
盛りだくさんの直島時間だったのだけど、特に良かったこと3つ。
#1. 琴弾地(ご たんぢ) 海水浴場
当初、直島で泳ぐつもりはなかったのだけど、1日目にシャトルバスを待っている時にバス停の横にビーチがあった。30分ほどの待ち時間で、靴と靴下を脱いで太ももまで海水に浸して炎天下でほてった体を冷やしたらひんやりしてすごく気持ちよい。ビーチサンダルを履いてこなかったこと、水着を持ってきていないことが悔やまれる。きちんと水着を着た外国人女性が夕暮れを眺めながら海水につかっていてそこだけ見るとまるでエーゲ海だ。当たり前だけど子供達はそんな膝までの水遊びでは物足りなさそうだったので、翌朝7時に水着で同じ場所に戻ってきてちゃんと海水浴をすることにした。海水は透き通っているし、小さなお魚がいたり、波もほとんどなくてすごく穏やかに過ごせる。朝ごはんは宇野港で買ったドーナッツとバナナブレッドを持っていってビーチで食べた。ビーチの横には200円を入れると温水の出るシャワーもあってタオルなどの準備さえしていけば至極快適なので、直島に行く時は皆様もぜひ水着をお忘れなきよう。
#2. ウォルター・デ・マリアの展示室
直島といえば草間彌生、というくらいあの黄色いカボチャはもう直島のアイコンになっていて有名だけれど、今回私が行ってみて特に良かったと思ったのはウォルター・デ・マリア。
これは、地中美術館の中。写真で見るとただの広い部屋の中の上の方に黒い玉があって、周りに金色の金属がある・・・だけ・・・に見えるのに、いざこの空間に入ってみると、まるで神様が降りてくるような、神聖な体験が出来るのでおどろく。サウナじゃないけど、すごく整う感じがするというか。
完全な曲率を持った球体(正円ならぬ正球?)や、左右対称や、天空から降りてくる光はやはり仏教的というよりはキリスト教的な神様を想起させるのだと思う。安藤さんの設計は左右対称、幾何学が多い。だからギリシャ神殿だったりキリスト教会のような天に大いなる力がある、っていう前提の空間と相性がいいのだなと思う。
ウォルター・デ・マリアについては今日まで全然知らなかったのだけど、いつかアメリカにある雷を鑑賞する作品も見に行ってみたい。(このイトケンさんの解説がわかりやすいので貼付け)
#3. 息子と南寺のジェームス・タレルを見学できたこと
ジェームス・タレルの光の作品は20年前からあった。これは安藤さんの設計した建物の中でも数少ない木造建築で、かつ、丸ごとジェームス・タレルの光の作品を体験するための特別な空間になっている。目の「暗順応」を利用した作品で、真っ暗闇でひんやりした部屋の中で10分ほど静かに過ごしていると、教室の黒板くらいの大きさの青白い光が部屋の反対側に見えるようになるという仕掛け。その10分間に起きる内省・瞑想体験を含めてアートになっている。そしてこの部屋に入るときは壁伝いでないと歩けないのに、帰りは暗がりの中をスタスタと進めるようになって出てくる進化感も面白い。
そのアートの体験は覚えていたものの、今回は息子の手を引いて一緒に暗がりの中を進み、ベンチで10分くらい一緒に隣り合って座って過ごしたというのが新しかった。暗がりの中で、20年前に来た時のザワザワした気持ちを思い出す。でも今は、私の手には大人になり始めている息子の手がある。思えば遠くへ来たものだ、と節をつけて歌いたいくらいの気持ちが湧いてきた。20年間、よく頑張ったもんだよ、ワカメちゃん。とジェームスタレル言ってくれた。(多分)
実は、今回行きたいと思っていた豊島には時間切れで辿り着けなかった。あと、燃え殻さんのエッセイに出てきた男木島にも行けずで心残りはそれなりにあるのだけど、子連れで移動するってそんなものなのでまた次の機会を狙いたい。
直島は親子1on1旅にぴったり
今回得たもう一つの気づきとしては、直島はわざわざ「キッズ・フレンドリー」うたっていないものの、当初の福武さんや市長の「子供達が集える場所を作りたい」という願いは根底に流れているということ。アート作品はほとんどインスタレーション型で子供達もその体験を楽しめるものばかりになっている。ある程度いうことを聞ける子供なら(建物の中で叫ばない、走らない、触らない、くらいでOK)周りにも迷惑をかけずに済むし、退屈もしない。いまの直島豊島周辺は二泊でやっと回れるくらい見どころがあるので、アート見学の合間に泳いだりして、海を見ながら話したりするときっと親子でも普段と違う質の会話ができる。そういう意味では家族旅行よりむしろ、親子二人の1:1旅に向いていると思う。私も今回は息子しか連れていけなかったので、次回は娘と計画しよう。(あれ?夫は?)
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