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松本で草間彌生を見に行ったつもりが須藤康花で胸がいっぱいになる

一昨日、東京から日帰りで長野県の松本まで行ってきた。松本は草間彌生の出身地で、松本市美術館にコレクションがあるため。草間彌生はルイ・ヴィトンとのコラボレーションなど、あまりにもポップになってしまった感じもあるけれど、でもやっぱり好き。99年に東京都現代美術館で巨大な個展をやられた時が私の草間彌生初体験で、以来その狂気はリスペクトしている。

美術館だと空間全体を埋め尽くせるからカボチャにすっぽり包まれる

一通り展示を楽しんで、渡米前の作品を初めてみる。カンジンスキーのような油絵だったり、全然作風が違って驚く。ああ、この人はアメリカに行ったことで本当に人生が変わったんだなぁ、きっと救いがあったんだなぁ、と思う。NYがそこにあって、良かった良かった。

草間彌生の展示の量は想定していたより少なくて、あれ?もう終わり?という感じだったのだけど、同じ美術館の中で、須藤康花さんという人の展示もあった。せっかくなので見ることに。

このかた、(すどうやすかさん、と読みます)私と同じ年に生まれているのだけど、30歳で夭逝されている。子供の頃から重たい病気があって、最後は癌が原因で命を奪われてしまう。しかも、ご自身が幼い頃に弟さんが亡くなったり、14歳の頃にお母さんが亡くなったり。普通の人からしたら不運が詰め込まれすぎた人生を送られている。

ああ、私が大学に入って浮かれ気分でお化粧品を買いに行っていたあの97年に、彼女は美術学校に入学しつつも、すでに病気と共に生きて死を覚悟していたのか!とか、12歳の時点ででこんなに緻密な絵を描いていたのか!とか、別に芸術家と自分を比べる必要なんてないしむしろ失礼な話なのだけど同じ年に生まれたというだけでちょっと比べてしまって、あちこちでびっくりする。

彼女の絵のテーマは、終始、生きることと死ぬことだ。カエルや爛れた皮膚などが何か(がん細胞?)のモチーフとして出てくる。お母さんとの別離の痛みも大きくて、自分のせいでお母さんが死んだのではないか、と自責の表現も見られる。もう、最初から最後まで、その表現もテーマも重たくて圧倒される。しかも作品の数がものすごく多い。きっと外出もあまりできなくてずっと制作に打ち込んでいたのだろう。

普段私は生きることや死ぬことについて、たまには考えるけれども基本的には朝が来ると目の前のことで頭をいっぱいにしてしまう。余暇ができると最近ハマっているピクミンのことや、トットちゃんの人生、おでんの大根に味が染みるのはどういう理屈かとか、子供がこのままおバカなまま大人になったらどうしよう、などといったしょーもないことで脳みそを満たして生きている。

須藤康花さんは、物心ついてから亡くなるまで、多分毎日、ずっと、死をヒリヒリと感じながら生きていたのだろう。そしてそのエネルギーを全部絵画に注ぎ込んでいて、その20年分くらいが一気に空間に並べられている。

なにに注意をはらうかで世界が決まるものだな、ということを改めて感じる。

展覧会には長野在住の高校の同級生と待ち合わせをして一緒に行っていて、「なんかさー、草間彌生が吹っ飛ぶくらい腹に響いたね、ちゃんと私たちも生きようぜ」なんて言いながら出てきたのに、松本ローカルな居酒屋で日本酒をしこたま飲み、お互いの家族や仕事の話をするうちに、死についてはすっかり忘れていた。しかも私は東京に帰る電車の時間ギリギリになってしまい、お会計をしてくれている友人を居酒屋に残して一人で駅に向かってダッシュ。我ながら、45歳にしてはよく走れるなワカメ、ヤッホー、なんて思いながら改札を抜けて電車に無事に間に合う。心拍数が上がったり、ハラハラすると生きている実感が湧くから不思議だ。お恥ずかしながら。

そして、ちょっと嬉しかったこと。

松本駅20時10分発の新宿へ向かう特急あずさは、一両に4−5人くらいしか客がいないほどガラガラ。数列前に座った70歳くらいのおばあちゃんが荷物をガサゴソしているうちにSuicaを床に落としてしまったのが聞こえる。自分で気がつくかな・・・と思って、見るともなく見ていると、5分くらいしても全然気がつく様子がない。このまま落としたまま電車を降りたら困るだろうと思って、席まで歩いていって屈んで拾い上げ、手元に渡してあげた。

「わぁ!!ありがとうございます!!助かったわぁーーー」と大きな声で感謝を伝えてくれて、一日一善と思って満足していたら、しばらくしておばあちゃんが私の席までやって来た。それで、洋梨を差し出してくる。お礼に、と。

長野の洋梨

「他人から食べ物をもらってはいけません」という親の声が頭の中で一瞬聞こえたけど、おばあちゃんがあまりにニコニコしているのを見て、遠慮せずにいただくことにした。

死について、考えなくていい人は、考えなくていいよね。

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