牛に引かれて善光寺、あるいはPIKMINにつられて中村恭子のススメ
ちょっと前の三連休に、長野県の善光寺で実施されていた灯明祭りに行ってきた。実は灯明祭りには正直あまり関心はなかったのだけど、当日周辺で集めることのできるデコピクミンがお目当てだ。私はこの半年ほど、PIKMIN BLOOMというゲームにハマっている。PIKMIN BLOOMは、任天堂とNianticが作ったゲームで、地図情報とキャラクター、アイテムコレクションがセットになっているという意味ではポケモンGoとかと同じ構造だ。
PIKMINの何がいいの?って、聞かれたら、まずは可愛いところと答える。きっとデザイナーが優秀なのだと思う。少しずつ育成することのできるデコピクミンが絶妙に愛らしくて、ついつい集めたくなってしまう。歩くことでピクミンが成長・変身したり、PIKMINのポートフォリオが育っていく感じも農耕型の人間には響くはず。
きっと任天堂のマーケティング部門に中に頭のいい人がいて、私みたいな牧歌的な人間にはPIKMIN BLOOMを売り、もっと戦闘的なタイプにはモンハン、育成好きにはポケモンGo、などとゲームごとに訴求するセグメント分けをしているのだろう。そして私はまんまとPIKMINにはめられていくのだけど、彼らは圧倒的に可愛いから良いことにする。ありがとう、任天堂。
いずれにせよ、そんなこんなで三連休は長野県は善光寺まで行ってきた。
長野駅から善光寺や長野県立美術館までの30分くらいの距離を歩くとご当地ピクミンの苗を手に入れられるという仕組み。着実に苗(PIKMINのもと、見みたいなもの)を拾って歩く。周りを見ると、PIKMINの画面を開いた人がちらほらいるのがわかる。きっとこのコラボ企画によって動員数が10-20%はアップしていると思う。たぶん。そして灯明祭りが終わった今日あたり、年成長率比較の速報レポートを長野市と任天堂で分かち合っていることだろう。
で、話は全然変わるのだけど、そのPIKMINのおかげで(あるいはついでに)お参りした善光寺の仲店通りで、中村恭子さんという日本画家と出会った。
もんぜん千年祭と称して、善光寺の門前で、こんなに広い和室に展示をしている。
入り口のところで「中村恭子さん」と説明ボードを声に出して読んでいたら、「はい」と返事をする女性がいた。ご本人がいらっしゃるとは気が付かなかったので10秒くらい気まずい思いをしつつ、ご挨拶をする。
そして全く想定していなかったことなのだけど、この方の日本画が、実にインタレスティングでエクサイティング!!
例えばこのアサリと蜃気楼を描いた掛け軸の作品、解説を見ると「蜃気楼は貝の吐き出す気によって発生するという」という書き出し。
何その設定!!!
っていうか「という」って誰情報????ソースどこ???って思うともう心はわし掴みにされてしまう。感じるものがあるとすれば秘めたる狂気。
私はもうすっかり虜になってしまって、中村さんご本人に質問をしながら、絵の解説をしてもらう。中村さんは図書館の司書さんみたいな可憐で静かな雰囲気で笑うと可愛らしいのだけど、その中からこの意味不明な(ごめんなさい)設定が出てくるのかと思うと痛快で大好きになってしまう。
そして本当を言うとこの三部作の掛け軸が欲しいと思った。
私の金沢の家には三ヶ所の床間があるので、ちょうど3枚あるといい。「売ってくれますか」って聞こうかと思ったのだけど、いきなり出会い頭でお尋ねするのも不躾かなと思って名刺交換だけして帰ってきた。いつか金沢のプロジェクトの話を彼女にして、「だったらワカメさん、この三点を買ってください」と言ってもらえるところまで関係を作りたい。
そんなこんなで、善光寺を出てからかなり興奮して歩いていたら、うっかりPIKMIN集めの手が緩んで、長野駅で回収すべきだった苗を拾い損ねてしまう。でも、良き出会いって予期せぬもので、時間と体を使って旅に出かけて本当によかった。
ということでまとめると;
「牛に引かれて善光寺」(信心のない老婆が、牛に取られた布を取り返そうと追っかけているうちに善光寺に辿り着いて仏心に目覚めてしまう、という話)、ならぬ「PIKMINに引かれて中村恭子」の旅となった。あれから三日ほど経つけど、まだずっと胸の奥が熱い。これは恋なのかもしれない。