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江崎文武さんのソロコンサート「はじまりの夜」に行ってみたら陰翳礼讃ワールドだったのと、貧乏性で世界を覆っちゃいけないって思い出したこと

都内は今日も熱中症警報が出るほどの暑さの中、目黒のパーシモンホールへ江崎文武さんのコンサート「はじまりの夜」に出かけてきて、外の明るさや気温とは打って変わってひんやりして静かな時間を体験してきてすごく良かった。江崎さんは、WONKという実験的ソウルバンドのキーボーディストとして活躍する方で、最近30歳になったばかりだそう。30歳になったこと、ソロ活動を本格的に始めたことでこれから自分の音楽人生の「はじまり」を感じる「夜のコンサート」、という位置付けだという解説だった。

江崎文武さん

江崎さんのことをそれまであまりよく知らなかったのだけど(ごめんなさい)、King Gnuや米津玄師のレコーディングに参加されてたりするすごい人らしい。ちなみに江崎さんは芸大と東大の両方を出ていて右脳も左脳も高性能っぽい。福岡出身とあるからきっと九州の名家なのだろうと勝手に想像してしまうのだけど、お金持ちがふんだんに時間とお金をかけてこういう芸術家を育ててくれてこうして数千円のチケット代を払えば私達もその仕事にアクセスできるっって素敵な世界で、平安時代はこうはいかなかったよねって毎回思う。もちろん、庶民がアーティストになることもあるのだけど、例えば宮廷音楽みたいにお金持ちだけで芸術が消費されていたら私たちは毎日こんなに楽しくないですよね。ありがとう田中角栄、ありがとうSPOTIFY。

今回のコンサートの土台にあるコンセプト・アルバムのテーマは谷崎潤一郎の陰翳礼讃だという。陰翳礼讃は学生のころに私も夢中で読んで日本建築の光と影の設計のエロさが全部入ってると思うので嬉しいチョイス!谷崎曰く、ピカピカした光より陰の中にこそ美しさはあるのよ、ということが語られていて今読んでも面白いのでおすすめです。痴人の愛もいいけどあれはもはや官能小説。

コンサートでは、谷崎よろしく前半の江崎さんのソロパートがほぼ真っ暗な中で行われてそれが終わると舞台上の設備が転換されて後半に切り替わる。後半は、夕暮れ時をイメージした薄暗いライティングから、一曲を経るごとにちょっとずつ漆黒の暗さ(深夜)に向かっていって、最後はまたぼんやりと光が増えて明け方の光で終わる。コンサート全体で日没から日の出を経験する。その間10曲程度、江崎さんだけは常にピアノを弾く中でストリングスや歌手などの演者が入れ替わり立ち替わり現れてステージが進んでいく構成。主役がピアノになったり、歌手になったりと、中心がシフトしながら夜明けに向かう。

例えば影絵芝居のような設定で草をひらひらしながら男性が語りながら踊る民踊ぽいシーンがあったかと思えば、クラリネット奏者が登場してその音色がイルカの声に聞こえたり、荒城の月のメロディが使われたり、夜明けの頃の女性の歌声には本当に朝日を感じたりで盛りだくさんだった。(記憶が曖昧でこれは順番が混乱してるかも)

最後に少しだけご本人がお話ししてくれた。陰翳礼讃のテーマに合わせて、和蝋燭と、ご実家近くの小城羊羹を特別パッケージで白黒のセットにしてグッズ販売にしていたり、コンサートもご本人も全般的に知能指数の高さが行き渡る。コンサートでは誰もシャウトすることもなく、メッセージにファックもビッチもない(当たり前)。暑い日の夕方に乱れた心を沈めるには本当にぴったりのコンサートだった。

肝心の音楽、コンサートと同タイトルのアルバム「はじまりの夜」はこちら↓ 夏の午後にぴったり。普段Wonkのポップスに慣れていて江崎さんを知った人からしたら静かすぎる・・・ってなるのかもしれないけど私は好き。音楽はよくわからないので語彙力が足りなさすぎるのだけど、クラシックとか童謡とか色々なものが含まれている感じがします。

ところで音楽とは全然関係ないのだけど、開始から終わりのアンコールのリクエストに答えてマイクを持つまで、主催者側が誰も、一度も、話さなかった。江崎さん本人も、会場アナウンスも。舞台の転換の時に休憩時間のアナウンスもなあんにもなくて、それでみんな席を立っていいのかわからず15分くらいほとんどの人は舞台を眺めていたほど。最後のアンコール前のトークで江崎さんが「大変だ、お客さんが舞台の転換を見ている!」っていって裏ではその時、焦っていたのだと明してくれたけど、もしアンコールに呼ばれなかったらどうしたんだろう?無言でコンサートを終えたのだろうか?とか、休憩のアナウンス入れようって誰も思いつかなかったのか?とか考えると、段取りが緩くて企画者のゆとりを感じた。私は日頃、神経質な世界で働いているから「お客さん誘導してあげないと迷子になるよね」「お客さんは最初から江崎さんの声で解説聞きたいでしょ」とかオペレーションを円滑するためにものすごく細かいところまで考える習慣で生きているけど、芸術なんだから本質さえ押さえてさえれば、あれくらいでいいんだったって思い出させてもらった。貧乏性で世界を覆っては行けない。嫌味とかじゃなくて。

そして、江崎さんがお話が上手なのにも驚いた。ステージ上では蝋燭のようなライトが使われていたのだけど、それも和蝋燭(日本の蝋燭?)をイメージしているという。そして和蝋燭が西洋の蝋燭よりも火が不安定でチラチラすることを表現するのに使っていた「明滅」なんて言葉、久々に聞いたし。きっと江崎さんは音楽だけじゃなくてたくさんの言葉も持っている方なのだろう。惚れる。

WONK?なにそれという方は試しにこちらのUnbrellaからどうぞ。Flowersもいいです。本来どうでもいいことですが、ボーカルの長塚さんがイケメソで眼福。9月に池上本門寺ミニフェスがあるみたいなので行ってみようかな。


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