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デジタルの活用で広がるエンタメの可能性。吉本興業・FANYの取り組みに見るエンタメの未来 ―enXrossゲストスピーカー・玉澤友海さんインタビュー
皆さん、こんにちは。
enXross事務局です。
日本最大級のエンターテインメントシティ・東京ドームシティの新プロジェクトenXross(エンクロス)は、デジタル技術を活用した経済圏創出や、お客さまの感動体験アップデートの実現を目指す取り組みです。
こちらのnoteでは、世界のエンターテインメントとイノベーションの交差点・enXrossのプロジェクトに携わるスタッフや、web3・ブロックチェーン領域の有識者、協賛企業の皆さまへのインタビューを通じて、イベントのビジョンと魅力などをお伝えします。
今回は、enXross AWARDのゲストスピーカーで、吉本興業の子会社でファンコミュニティの運営などを手がける株式会社FANYの玉澤友海さんに、「お笑い×テクノロジー」の取り組みをお聞きしました。
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吉本興業株式会社 FANY事業本部 プラットフォーム開発部
2018年に慶應義塾大学大学院卒業後、吉本興業入社。大阪にてシャンプーハット・スーパーマラドーナ・ラニーノーズを担当。2020年、B2Cエンタメプラットフォーム「FANY」を命名し、翌2021年に吉本興業 FANY事業本部配属。ファンクラブやクラウドファンディングを中心にFANYサービス全体を担当。
コロナ禍の取り組みからオンラインコンテンツのプラットフォーム「FANY」が誕生
― 吉本興業さんは、芸人さん・タレントさんの事務所として多くの人に知られています。玉澤さんは子会社の株式会社FANYに所属されていますが、もともと芸能界やお笑いに興味があって入社したのですか。
玉澤さん 実は、芸能界にもお笑いにもあまり興味はありませんでした。企画をつくることが好きで、PR・広告関連で就職先を探していて、吉本興業はその中の1社でした。
入社後は大阪で3組の芸人のマネージャーを経験しました。2年経ったとき、新しくデジタル関連の新規事業開発の部署ができるからと誘われて、東京に移ったんです。
ちょうど新型コロナがまん延しはじめたときで、劇場でのライブや舞台は中止になっていた時期でした。リアルな場所に行かなくてもファンの皆さんと芸人が毎日でもつながれる場として、ファンクラブやオンラインコミュニティを活用したサービスを作りたいねという話になり、「そのプラットフォームの名称を考えよ」というお題を私がいただき、『FANY』(ファニー)という名前に決まりました。
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部署に移って、FANYを担当することに
― 玉澤さんがFANYの名付け親なのですね。どんな意味を込めたのですか。
玉澤さん 同じ音のfunnyには「おもしろい」という意味がありますよね。それをFAN=ファンの皆さんと、Y=吉本のYにして、ファンの皆さんと吉本は一緒という気持ちを表現しました。あとは、芸人が言葉にする場面は多くなると思ったので、言い易さも意識しました。
その頃、チケットやグッズ販売、クラウドファンディング、ゲームなど吉本興業がもっているB to Cサービスをひとつにまとめようという動きもあって、FANYはそのブランド名に採用されました。
現在は新規事業部が発展して、吉本興業の子会社の株式会社FANYになりました。私はファンコミュニティの企画・運営と、500万人近くいるFANYの会員のUI/UX(ユーザー・インターフェース/ユーザー・エクスペリエンス)を担当しています。
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エンターテインメントにデジタルが入ることで進化する、ファンとの「関係性」
― エンターテインメントへのデジタル技術の導入を、玉澤さんはどう見ていらっしゃいますか。
玉澤さん ずっと、劇場でリアルのお笑いを届けるのが当然だと考えてきたので、デジタル化やDXとは程遠い業界だと思ってきました。ですが、コロナ禍で劇場でのリアル公演ができなくなり、2カ月ぐらいの突貫工事で配信サービスをリリースしてみると、大きな可能性を感じるようになりました。
それまでは劇場のキャパシティ=ライブを見られる人数でした。
でも、配信にしたことで、地方に住む方、劇場に行くほどではないけど配信なら見ようかなと思う方などを取り込めるようになり、10倍近くチケットが売れるようになったんです。私たちが想像もしてこなかった需要があることに驚きました。
たくさんの人に笑いを届けられる嬉しさはあるものの、配信ならではの難しさもあり、私たちは芸人たちと試行錯誤しました。例えば、劇場だと、お客さんの笑いが収まったタイミングで次の一言を話し出すなど、間をうまく取るのですが、配信だと芸人とお客さんとの間に10秒程度のタイムラグができるので、間のとり方がなかなかつかめなかったんです。
また、ファンクラブの配信でファンの方からの質問やコメントを読むときには、届いてすぐではなく、一呼吸置くといいなど、デジタルとの付き合い方は徐々にわかってきました。
― 配信によって、芸人さんとファンの皆さんとのつながりの量や質が上がっているようですね。玉澤さんはじめ、運営側もファンの方々とつながることはありますか。
玉澤さん はい、あります。コミュニティは私たちプラットフォーム開発部と各芸人のマネージャーで運営していて、グッズをつくるときなどに私たちがファンの皆さんに意見を聞いたりします。「一緒に取り組む」ことができるようになったのはおもしろいですね。
ファンの方同士の交流も生まれています。先日、コミュニティで「この芸人のYouTube、どれが面白いですか?」というやりとりが自然にはじまったんです。ファンの皆さんがどういうことを考えているのかがわかったし、私たちが想像していたよりも芸人のことを思ってくれている、時間を費やしてくれていると気づくこともできました。
呼びかけはSNSなどでもできますが、コミュニティができているわけではないので賛同する人を集めるのは簡単ではありませんよね。ですがコミュニティ上だと、同じ「好き」をもっている人たちの集まりなので、「みんなで楽しもう」という雰囲気が生まれやすいのは強みだなと感じました。
届けるのは「体験」。テクノロジーを加えることでその幅はより広がる
― 玉澤さんはenXross EXHIBITIONのゲストスピーカーとして登壇されます。イベントのテーマであるブロックチェーンに対して、どんな可能性を感じていますか。
玉澤さん ブロックチェーンという技術はお笑いとは縁遠いものと感じてきましたが、そうでもないかもと思うようになってきました。
芸人は、小さな劇場がスカスカなころから応援してくださっているファンの方たちに支えられています。でも、売れて、チケットの競争率が高まって抽選をするようになると、ファン歴の長い方たちが外れてしまうことが起こり得ます。抽選は平等ですが、歯がゆい。限られたお小遣いや時間を費やして応援し続けてくれているお子さんや学生さんもいます。ブロックチェーンを使い、長年応援してくれる人たちとの関係性やつながりを可視化できたら、「ありがとう」と伝えていく方法が何か見つかりそうだなと期待しています。
― テクノロジーを使うことで「人と人のつながり」を強めることができるのは素敵ですね。このほかには、どんなことができそうでしょうか。
玉澤さん メタバースを活用し、2022年の夏に「月面劇場」をオープンしました。今、吉本は13カ所にリアルの劇場をもっていて、「14カ所目は月につくろう」という計画からはじまった企画です。アバターを通じたライブ視聴やアバター芸人との交流、芸人をキャラクターにしたゲームなどができます。
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操作してゲームができるほか、芸人とスタンプやチャットで交流することもできる
― エンターテインメントとデジタル技術の掛け合わせは今後も広がっていきそうですね。そうした中で何が重要になっていくと考えますか。
玉澤さん 新しい技術だから取り入れる、というのは違うかなと思っています。最終的には「面白いか、面白くないか」の2択が大きくて、エンターテインメントで第一に重要なのは企画だと考えています。それを実現するための技術を選び、使っていきたいです。
それから、芸人の個性や世界観はそれぞれ違っていて、大事にしたいものなので、ある技術と組み合わさったとき、どうなるか、どう伝わるかも考えないといけません。
もちろん、ファンの方々のことも考えたい。例えば、DAO(分散型自律組織)でのコミュニティも考えられますが、現状ではファンの方々には少しハードルが高いかも。ファンの皆さんに今よりも絶対にもイイと思える体験を届ける、芸人にとっても今よりも絶対にイイと言えるサービスを提案する、ここにこだわっていきます。
― 最後に、enXrossで楽しみにしていることを教えてください。
玉澤さん 私たちは「お笑い×テクノロジー」で考えがちです。他業界の方々のアイデアや取り組みには、私たちが気づけない発想が隠れていると思うんです。それに出会えることを楽しみにしています。
―「おもしろい」の感性を第一に、企画ファーストで考えることが重要ですね。吉本興業さんの今後の企画も楽しみです。本日はありがとうございました。
東京ドームシティの新プロジェクトenXrossについてはhttps://www.tokyo-dome.co.jp/enxross/をご覧ください!