社会を変える技術・ブロックチェーンとは何か? ―enXrossゲストスピーカー Fracton Ventures・亀井聡彦さんインタビュー
皆さん、こんにちは。
enXross事務局です。
デジタル技術を活用した経済圏創出や、お客さまの感動体験アップデートの実現を目指す、東京ドームシティの新プロジェクトenXross(エンクロス)。
こちらのnoteでは、世界のエンターテインメントとイノベーションの交差点・enXrossに参画いただくweb3領域の有識者、協賛企業の皆さまへのインタビューなどを通じて、イベントのビジョンと魅力などをお伝えします。
今回は、enXross AWARDのゲストスピーカーである、Fracton Ventures Co-Founderの亀井聡彦さんに、ブロックチェーンとは何か、web3の基本をお聞きしました。
コンピュータサイエンスを学ぶ中でシリコンバレーへ 孫泰蔵氏と出会いスタートアップエコシステムを知る
― enXrossでweb3の専門家として登壇される亀井さんですが、まずはご自身のキャリアとweb3との出会いについて教えていただけますか。
亀井さん 早稲田大学の情報理工学部でコンピュータサイエンスを学んでいて、大学院に進学していました。当時はスタートアップという言葉もメジャーでなく、卒業後は大手のシステム会社などに就職するのが普通だったのですが、シリコンバレーに憧れがあり、そこを知らずに就職するのは嫌だなと思って休学し、2011年にサンフランシスコに行ったんです。行ってから知ったのですが、通った語学学校の近くにTwitter(現X)の本社があったり、カフェでFacebookの社員が話していたり、熱狂的にスタートアップが盛り上がっている状況を目の当たりにしました。
それで、自分でも起業したいなと思って日本に戻り、大学院を辞めて音楽系のサービス開発などをしていました。ですが、あまりうまくいかずにくすぶっていたとき、連続起業家の孫泰蔵さんが立ち上げたMOVIDA Japanでスタートアップ支援を勉強させていただくことになったんです。その後Mistletoe(ミスルトウ)のメンバーとして活動し、起業した今も泰蔵さんにはお世話になっています。
ブロックチェーンをより深く知ったのは、Slushという世界的なスタートアップのイベントでした。泰蔵さんの旗振りで、2015年は日本でSlush Asiaを開催することになったのですが、泰蔵さんが50,000ドル相当のスタートアップピッチバトルの賞金を「ビットコインにしよう」と言い出したのです。ビットコインの存在自体は留学中から知っていましたが、触ったことはなくて。
ちなみに当時のレートで1Bitcoinは3万円以下だったので、 約200Bitcoinが送られたんです。現在のレートで計算すると、大体11億円超なんですよね。優勝チームは多分、すぐに売ってしまっていると思いますけどね(笑)。
亀井さん その後、自分でもビットコインを買って触るうちに楽しくなり、趣味ベースで扱っていましたが、2018年ごろにミスルトウから離れることになったタイミングで何をするか考えたとき、web2のスタートアップエコシステムを見てきた自分には、web3がまったく違う世界線で動いていることに気づいたんです。
web2とは全く異なるweb3 ―「プロダクト」ではなく「プロトコル」をつくるとは?
― web2とweb3はそんなに違うものなのですか?
亀井さん 2011年から今にかけてスタートアップへの投資は増え、独立系のVCも増えました。若い起業家のイグジットが増えたことでエンジェル投資も増える、というエコシステムが回る環境が日本にもできてきたのですが、web3やクリプト(暗号資産)の領域では、web2の世界ではあまり知られていない投資家が台頭していて、支援の仕方も全然違う。彼らが作っているものも、いわゆる「ビジネス」とは違うんです。「これは何だ?」というときに、日本には全然支援者がいなかった。このままでは日本は何周も周回遅れになってしまうと思って、web3の支援者として起業することにしたのです。
亀井さん web2のサービスは、会社がサービスをもっていて、そのサービスの中にユーザーに紐づくデータがあります。だから、似たサービスを使いたいときはユーザーがデータをもって移動しないといけないですが、web3では、個人がデータを出す先はサービス提供者ではなくて、ブロックチェーンです。ここに「自分のデータだ」と証明された状態で出せば、それは誰も抗えません。そのデータをどうアウトプットするか、というサービスをつくっているのがweb3の起業家たちなんです。
web2時代のサービスは「プロダクト」ですが、web3時代のサービスは「プロトコル」だという点が大きな違いです。
ブロックチェーンとは「トラストレスで同期するインフラ」 ―社会に与えるインパクトとは?
― enXrossでは、「ブロックチェーン」がテーマです。「分散型台帳」という日本語もありますが、いまいちイメージできません。
亀井さん ブロックチェーンは一般的にデータベースのように使われるのですが、web3や暗号資産の文脈で捉えるとき、「全部が同期されているもの」と考えるといいと思います。
インターネット空間では、これまで情報が同期されるインフラ的な仕組みは作ることができていませんでした。FacebookやXは全世界で同時に見られるので同期していると思うかもしれませんが、これは一企業が提供しているだけで、万一、提供企業が手を加えれば同期をずらすこともできてしまいます。
でも、ブロックチェーンは、世界中に分散して成り立っているので、ある個人や組織が介入して変更することはできません。「時間」を考えてもらいたいのですが、時差はあるものの、みんな時間はずれないものだと認識して行動していますよね。あの感覚に近いとイメージするといいかもしれません。
時間は自然に同期されているものとして、誰も疑わずに認識しています。データベース、つまり情報の領域でも、誰かを信頼、「トラスト」せずとも全世界で正しい情報が同期されるインフラだということがブロックチェーンの本質だと言えると思います。
― ブロックチェーンというと、ビットコインなどのイメージから新しいお金のように思っていました。
亀井さん そうですね。資産的なものと認識されがちですが、僕らはブロックチェーンを「世界の公共財」という概念で捉えています。
ブロックチェーンが社会を変える技術になると言われるようになった理由の一つに、トークンの登場があります。人に送金できる、他のトークンと交換できるという、通貨的、資産的概念に加え、「自分のもの」と認識できるトークン、会員権的な使い方ができるというトークンというように、トークンという仕組みがブロックチェーンの登場により実現しました。
トークンの登場で何が変わったかというと、これまでお金で表現されなかった価値が表せるようになったことです。
資本(キャピタル)には、お金だけでなく、ナレッジ(知識)キャピタルやソーシャル(社会)キャピタルなど、さまざまな種類があります。こうした資本がトークンで表現されるようになるということが画期的な技術なのです。現状、基本的にトークンはお金に紐付いてしまっているので、お金のように見なされていますが、国が管理する通貨に似たものを誰でも作れるようになったというのは大きなイノベーションです。
先ほどブロックチェーンは公共財だと言いましたが、公共財はこれまで、国や行政が管理してきました。でも、ビットコインやイーサリアムは誰のものでもなく、非中央集権的で、みんなが平等に利用できるものとして、デジタル上の公共財であると言えると思います。
― 特定の企業や組織に頼らないから「非中央集権的」とも言われるのですね。
亀井さん ブロックチェーンの技術を使うことで、国や行政しか対応できなかった領域のことができるようになりました。そういう意味で、ブロックチェーンは公共性のあるものなんですよね。
また、トークンは、お金を稼ぐ手段ではなく、これを媒介にいろいろなコラボレーションを生み出せるということがweb3において重要だと捉えています。
「オープンソース×インセンティブ設計」と言いますが、トークンの登場で、インセンティブ設計やその調整がしやすくなりました。それでいろいろなコラボレーションの機会が増え、そのアウトプットの一つとして、DAO(自律分散型組織)という存在があるんです。
トークンを介して新しいコラボレーションが生まれる ―DAOとは何か?
― 会社など、組織のあり方も変わるということでしょうか?
亀井さん おっしゃるように、DAOの話をするとよく「新しい会社なんですか?」と言われるのですが、それよりも「新しいヒューマンコーディネーションの形」と認識した方がいいと思います。
大昔には部族、その後コミュニティとして国家が生まれ、さらにビジネスのマーケットが、そしてネットワークが国家やマーケットを超える存在になってきています。この次の新しいコーディネーションの一つとして、クリプトなどのweb3が現れた、という流れです。
今、日本で言われているDAOはコミュニティに近いもののように思います。世界で言われているDAOはブロックチェーンをベースにしています。DAOの定義を細かく議論するフェーズではないとは思いますが、この差は結構大きくて、DAOと呼ぶならば、コミュニティの内部にある資産がブロックチェーン上で管理されている状態が必要なんです。あるコミュニティのメンバーがお金を出し合って、100万円分のアセットが生まれたとします。そのアセットをメンバーの誰かの口座に入れていたら、それは口座をもつメンバーをトラストしないといけないですから、もうDAOではないですよね。資産を動かすときにはブロックチェーン上に上げて、メンバー全員がサインしたら動かせる、というようになっていればDAOです。トラストレスの仕組みが入ったうえで自律的だということが重要で、ここが日本と海外での認識の差を感じているところです。
日本のweb3業界の現在地とこの先 ―ローカルに閉じず、グローバルで勝負する
― 日本と世界で認識や取り組みに差がありそうですが、web3業界での日本の現在地はどのあたりなのでしょうか?
亀井さん 少し世界に遅れをとってしまっているという印象です。
もともと、日本にweb3 / Cryptoが入るのは早かったんです。2009年にビットコインが誕生してビットコイナーと呼ばれる人が現れ、日本に住む外国人がビットコインの取引を盛んにしていました。ビットコインの誕生後、2015年にイーサリアムが登場するというブロックチェーンの歴史があり、当初、日本は世界でも熱いエリアだったのですが、2018年に仮想通貨取引所のコインチェックで大規模な不正流出事件があったことも相まって、その熱が急速に引いてしまいました。
その後、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)のムーブメントが起きますが、これについていけませんでした。こうしたムーブメントが起こるということは、数年前から水面下で開発が始まっていたということです。でも、情報の少なさや支援体制の弱さなどもあり、当時日本にはweb3の起業家が全くいないという状況になっていたのです。
最近、徐々にweb3に向けた動きが起きており、日本独自のエコシステムができ始めています。これはいいことなのか悪いことなのか、ちょっと悩んでいるのですが、先ほどのDAOの理解のように、世界の認識と少しずれている面があります。そもそも、ブロックチェーンやクリプトのエコシステムは、現状ではグローバルニッチに近いものです。それなのに、日本独自というローカルを掛け算してしまうと、もっとニッチになってしまいます。日本の市場でヒットしたところでたかが知れているので、グローバルでやらないとダメだということを、もっと声高に言わないといけないと感じています。
エンターテインメントがイノベーションを先導する
― 今後、日本にweb3を根付かせ、盛り上げるにはどうしたらよいでしょうか。
亀井さん 実は最近、日本のエコシステムは海外から注目されているんです。
日本は昔からソーシャルゲームなどが盛んで、開発会社がIP(知的財産)などをもっていますし、個人投資家も多い。潜在的なマーケットは大きいと期待されています。一方で、起業家などビジネスを仕掛ける側は少ないんですよね。
今回のenXrossは、エンターテイメントを長く手がけてきた東京ドームさんがブロックチェーンをテーマに主催するという点が大きいなと思っています。社会課題の解決など重いテーマもありますが、人って、楽しくないと新しいものを使いませんよね。インターネットもですが、イノベーションはエンターテイメントから起きていると言えるかもしれません。
そういう観点では、僕らもエンターテイメントを切り口にweb3を広げようとしてきました。例えば、きゃりーぱみゅぱみゅさんや新しい学校のリーダーズが所属しているアソビシステムと一緒に、ジャパニーズカルチャーをメタバース空間にプロデュースしていく「MetaTokyo(メタトーキョー)」を始めたり、サカナクションを輩出した音楽事務所のHIP LAND MUSICと一緒に共創型コミュニティ「FRIENDSHIP. DAO(フレンドシップ・ダオ)」を立ち上げています。
― 日本のコンテンツは世界中で人気ですから、世界で勝負できる視点の一つですね。
亀井さん そうですね。それから、今後web3を発展させるためには若い世代の存在がとても重要だと思っています。暗号資産などの概念は上の世代の方とはかなり違う価値観ですし、この業界に起業家としてチャレンジするとしたら、情報と動きが早すぎて、忙しいビジネスパーソンでは追いつけないレベルになっています。時間がある若い人の方がキャッチアップしやすいという点でも有利です。
若い世代に伝えたいという意味でも、音楽ライブなどで若い方が集まる東京ドームシティとenXrossが、若い世代と新しい時代のデジタルテクノロジーをつなぐコネクターの役割を果たしてくれるのではないかと期待しています。
― 若い世代を含めて多様な人がweb3に触れ、チャレンジをしていくことが大切になりそうですね。当日の亀井さんの講演も楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
東京ドームシティの新プロジェクトenXrossについてはhttps://www.tokyo-dome.co.jp/enxross/をご覧ください!
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