脊髄注射「イナズマボルツ」
”2012年にexGILLZGLOWのWAT@LINにより結成、都内のライブハウスを中心に活動開始。初期は80's JAPANESE HARDCOREや90's JAPANESE SKINHEADSからの影響を多大に受けた音楽性・スタイルだったが、幾度かのメンバーチェンジを経てメンバー個々が崇拝するNYHCやEMO・激情ハードコアからも新たな音楽性を吸収。急成長を遂げる「脊髄注射」が待望のファーストアルバムをリリース!瞬く間に完売した自主製作デモ等に収録されていた初期楽曲も現行メンバーにて再編・再収録し、彼らの今までの軌跡とこれからの展望を楽しめる内容。同内容のLPも今作のジャケットデザイン、そして多数の現行JAPANESE SKINHEADSのジャケットデザインや再発を手掛けるMuna氏のレーベル、Under Watchful Eyesからリリース予定!
悪夢蹴散らす我らがSxCxCREW
反撃を恐れず進む先に栄光あれ!”
(レーベルインフォより)
前作EPからの縁もあって、今作もちょろっとリリースを手伝わせていただきました。といっても、ほぼ出来上がったデータを右から左に流すようなことだったんですが、まー慣れないことで初日はデータを眺めて一日終わった時にはどうなることかと(汗)無事にリリースされてホッとしております。
バンドの知名度として決して高くはないのだけれども、これまで脈々と受け継がれてきたアンダーグラウンドの音楽に対して、20代の若者による気合いの入った解答がアルバム単位でリリースされることも珍しく、前から知り合いとはいえ今後無視されるには惜しいくらいの熱量を持った一枚なので、ちょっとちゃんとしたレビューしようと思います。
現在のメンバーになって初音源となった前作EP「TOKYO FIGHT SOUND」の勢いを、さらに加速させて一気に駆け抜けてまた最初に繋がっていくプロローグ~エピローグで構成された曲順は、ざっくり今作用に新しく作られた曲から現体制前のDEMO曲の新録という並び(だと思う)。プロローグに次いで始まる「甦れ火花」Japanese Hardcore独特のドラマティックな曲展開と力強く歌い上げるVoの掛け合いは、いきなり前作越えを確信するような仕上がり。ラストのコーラスパートでの脊注合唱団(ゲスト陣。いま勝手に命名したw)の働きも素晴らしく盛り上がる。実質一曲目にしてエンディングっぽい展開をぶち壊すようにタイトルトラック「イナズマボルツ」へと雪崩れ込む。ザクザクのギターリフにVoのメロディラインが並走し、シンガロングなサビへの王道パターンは、否が応でも盛り上がる。続く「もの言わぬ愚者」はミッドテンポな曲で、派手さはないけど各パートのグルーヴ感の効いた佳曲。個人的には、2曲入りの7インチのB面に入ってそうなw印象。「沈む群青」~「ぬるい雨」と再びテンポアップな曲調に戻るが、「ぬるい雨」A・Bパートの後半に盛り上がるベースラインの高揚感と、エモーショナルなサビ冒頭にVoに被さるコーラスが女性のみ(まなちゅちゃんかな?)とその後の全体コーラスとのコントラストは今までにない感じで、曲の世界観がパッと拓けるのが個人的に非常に印象に残っていて、今作の個人的ベストトラック。
単純に曲数で区切ればここから後半、アナログならばB面(今年中リリース予定のアナログ盤は曲順変わるかもしれませんが)冒頭の「タフ!」~「脊髄注射」~「道刻」とDEMO作の新録曲で、Japanese Hardcore要素の強かった頃の楽曲に今のVoスタイルになると印象はガラリと変わるし、WAT@LINと同じくオリジナルメンバーのGu524君の演奏・コーラスの上達振りの素晴らしさもあって、さらにパンクにハードコアに聴かせてくれる。DEMO期の荒々しさや、一本調子気味なVoスタイルのままオブスキュアな方向に進化しても面白い存在になっていたとも思ってはいたけども、今作を聴くと杞憂だったなぁ、と。「扶桑へ」は今作で一番SKINS寄りの歌詞にミッドテンポが合いまった、中盤のギターソロからラストへの流れがいかにもな、ルーツに対しての敬意を感じる曲。そして実質ラスト「正義の行方」は再びDEMO曲の再録。初っ端のAパートでGu音無しでVoが引っ張っていくダイナミックなアレンジ変更はその後の曲展開にさらなる説得力を持たせていて、ここまでのバンドの成長が最も集約された部分だと感じました。「甦れ火花」に匹敵するドラマティックさで、この後のエピローグへ。曲順としても最高の流れだと思います。
この曲はまだbandcampで聴けるので、アルバムを聴いてDEMOを持ってない方々は、是非とも聞き比べて欲しい。
https://sekizuityuusya.bandcamp.com/album/-
今作は何より、WAT@LINのVoとしての表現力が一段階二段階上がっていて、Voライン取りを予想以上に越えてくる。「え?そっちは苦しいんじゃないか?」と思う方向に音程に伸びて、きっちり歌い上げる「力技」が見事。言葉をメロディに乗せるやり方が、例えば、ガンフロンティアやギロチンテラーのような「歌心」(さすがにあそこまでは及ばないけれども)に近いそれを感じました、これまで以上に。支える演奏も、各パートそれぞれスキルアップしていて、例えばFIREBIRDGASSのようなFASTパートMIDパート共にフックのあるメリハリの効いた演奏力で、ハードであっても聴きやすい印象を受けます。コーラスワークもよく練られていて、WAT@LINのVoの力量に引けを取らない掛け合いは、時折ツインボーカル・トリプルボーカルのようで、そこも聴きどころになっています。その割にレコーディング時間は思いのほか短くてビックリしますが、今作の制作の為にライブ活動を半年止め、曲作りと練習に専念していたことで、各自がイメージを練り上げて共有してきたことが今作の完成度の高さなのかと改めて思います。
COBRAのメジャーデビューを機に一度ポピュラリティを得た後に、さらに音や言葉に重きを置いてさらに進化を遂げたOi/SKIN HEADS MUSICと、鉄アレイやJUDGEMENTなどの90年代以降に完成したJapanese Hardcoreの要素が存分に感じられる楽曲と、日々の不満や鬱憤・自身の考え・未来への覚悟を言葉にしっかりと乗せた歌詞。先述のジャンルの正当後継としての充分な聴きごたえがありつつも、歌詞は言葉のチョイスに重さは感じられども特に右だ左だといった思想の強さではなく、割とどの若者にも当てはまるような等身大さが感じられたり、楽曲もこれまでパンク・ハードコアを聴いてこなかった、ロキノン系好きの方々にも受け入れてもらえるようなキャッチーさも随所に感じられます。
メンバーと話すと、音源から強く感じられるパンク・ハードコア・スキンズについて熱心に聴いてきたのはVoのWAT@LINだけで、他のメンバーのルーツとは意外とバラけていて、WAT@LINがパンクを聴く以前に好きだったJ-ROCKが他のメンバーとの共通点であったりすることを踏まえると、今の音楽性を各々で解釈して再構築している過程があるのかな?と想像できます。その過程の中で、多様な音楽の方向性を持つパンクというジャンルにおいて、シンガロングしやすいキャッチーさに長けたOiパンクの要素を、巧く現代風に落とし込んでいるんじゃなかろうかと。そこが、黎明期のバンドには無かったような、キャッチーさを感じる要因なのかと思います。
JUDGEMENT・鉄アレイ・SLANGなどのJapanese HardcoreやGROWL STRIKE・鐵槌などSKIN HEADS MUSICが好きな方は勿論、90年代YouthCrewやマキシマムザホルモン・BRAHMAN・CROSSFAITH・SiMなどの日本のラウドロック/J-ROCKが好きな方々にも気に入ってもらえるような要素は多くあると思います。あと、メンバー間で共通の好みであるヌンチャク(ギター524君は柏出身)やkamomekamomeが好きな方々も是非にw
ちょっと聴いてみようかな?といった方々にも聴きやすく今作はspotify/apple musicといったストリーミングにも発売と同時に対応してくれているので、是非とも一度耳にしてもらえればと思います。
イナズマボルツ (Official Trailer)
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