物理学と数学の歩み: 歴史的視点から学ぶ
高校生の間では毛嫌いされがちな物理と数学。
これらの学問は数世紀にわたって科学を支える基盤となっています。
物理学の課題が微分積分等の新たな数学的手法を創造し、逆に数学的理論が物理学に応用されることによって新たな発見が生まれるというふうに二人三脚で歩みを進めてきました。
ここでは具体的な歴史的事例を挙げつつ、物理学と数学の歴史的歩みについてまとめていきたいと思います。
17世紀:古典力学と微分積分学の誕生
ニュートンとライプニッツの功績
1687年にイングランドの科学者であるニュートンは『プリンキピア』(自然哲学の数学的諸原理)にて運動の3法則を提唱しました。
よく勘違いされることですが、ニュートンはプリンキピアで微分積分学の手法を使用していません。極力ユークリッド幾何学を用いた記述を用いて記述されており、この段階では微分記号のようなものは一度も記載されていなかったのです。
※結果、超大作になってしまったということ
その後同17世紀後半にドイツの学者であるライプニッツが$${d/dx}$$というような今現在でも使われている記法を編み出し、それから進んで研究が進められ現在の微分積分学が完成しました。
高校生の中でも微積を使って力学を学んでいると、
こんな簡単に記述できるのか
と感動する場面が少なくないはずです。
ニュートンによって定式化された運動の3法則は、その後微分積分学、延いては解析学の発展を触発し、今現在は微分積分の基礎は高校で学ぶ範囲になっています。(だからこそ、物理で使用しないのは勿体無いと思ってしまうわけですが、これはまた別の話)
参考図書: 古典力学の形成:ニュートンからラグランジュへ
この上ない名著です。
18-19世紀:電磁気学とベクトル解析
マクスウェル方程式とベクトル解析
1864年イギリス人のマクスウェルは電磁気学を統一するために4つの微分方程式を用いて「マクスウェル方程式」を導き出しました。
このアインシュタインの特殊相対性理論を生み出すきっかけにもなったこの方程式は電場と磁場の変化がどのように連動するかを記述するものであり、電磁波の存在を予言しました。(後の研究により存在が確認され、マクスウェル方程式の正確性が確たるものとなりました)
マクスウェル方程式ではベクトル解析という数学的手法が使用されており、理系大学生の最初の難関となっています。
参考図書:物理学レクチャーコース 電磁気学入門
ベクトル解析から学び始めたいならこれを選んでおけば間違いありません。
20世紀: 現代物理学の芽生え
量子力学と線形代数
実験が電子のようなミクロのものに対しても精密に行われるようになってくると、それまでの物理学では説明できない現象が起こってきます。これを説明するために作られたのが量子力学。
1905年アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した「光電効果」の研究を皮切りに発展していくことになります。
量子力学ではハイゼンベルクの行列力学、シュレーディンガーの波動方程式が同時期に作り出されましたが、のちにこれらは数学的に同等なものであることがわかりました。
行列という名前が出た通り、量子力学は当時研究の進んでいた線形代数学により記述されますが、ハイゼンベルクの時代には線形代数は数学科の人だけが学ぶような数学であり、物理学者が学ぶべきものとはされてませんでした。
今現在では線形代数学は数学科どころか、物理学科はもちろんほぼ全ての理系学部で大学1回生で学ぶようになっており、これは数学理論が物理学で日の目を見るようになったと言って差し支えない事例でしょう。
一般相対性理論と非ユークリッド幾何学
アインシュタインの一般相対性理論は、重力をリーマン幾何学という非ユークリッド幾何学の概念を用いて記述しました。この新しい幾何学を使うことで、アインシュタインは重力が時空の曲率として解釈されるという革新的な視点を生み出しました。
21世紀:物理学と数学のさらなる協奏
弦理論やトポロジカル量子場理論等、新しい物理学の理論はさらに複雑な数学的構造を必要としています。
これまでの歴史のように今後も数学と物理学は相互に影響しつつ発展していくことでしょう。