ついつい出てしまう声が、思いがけず役に立つこともあるのかも
夫君に「やめてくれよお〜」とよく言われる。
別にいじわるしているわけではない。
念のため。
つい、声が出ちゃうのである。
例えば、夫君の助手席に座っている時。
私は運転しているわけではないので、あっちこっちに視線がいく。
歩道で子どもが転んだ。
女子高生の持っていたアイスが落ちた。
おじいさんの帽子が風で飛んだ。
そんなものが目に入ろうものなら、
「ひゃっ!」
「うわっ!」
「おっと!」
なんて言葉が飛び出してしまう。
なんの前振りもなく、しかもまあまあな声量で、びっくりマーク付きで発させるものだから、運転に集中している夫君は驚いてしまうわけだ。
で、「なんなの?」からの冒頭の
「やめてくれよお〜」となるわけである。
咄嗟に、運転上支障のある何かを指摘されたと思うらしい。
と、言われても、こちらも意識して出している声ではないから難しい。
思ったことが声に出やすい体質なのかも、と思う。
ずうっと昔、まだ付き合い始めて間もない頃、二人で映画を見た時のこと。
冒頭大きなスクリーンに、
「岡本喜八監督作品」と仰々しく映し出された時には
「岡本喜八って誰?」
そんなに大きな声ではなかったはずなのだが、静まり返った会場からは失笑が…
当たり前である。
今考えると大穴掘って埋まりたいくらいの恥ずかしさなのだが、不勉強な当時の私は知らなかったのだな。大監督の名前を。
スーパーで買い物中、
「たっか!」←高いの短縮形(?)
「わぁ安い!けど、ある。買わない買わない」
レジの列で前の人のカゴが見えてしまい
「今夜は鍋ですねー」などなど、ついつい口に出てしまうが、これらはちゃんと自制して、周りに聞こえないくらいの独り言である。(たぶん)
ある日。
スーパーの自転車置場で山ほどの買い物をしたらしき人が、前カゴに荷物を乗せていた。
重そうだなー、私ならハンドル取られちゃいそうなんて思っていたら、ぐらり!と前輪が傾いた。
満タンのエコバッグから雪崩落ちる食品たち。
その中に高級卵『きよら』が!
本当に不思議なのだが、緊急事態ってスローモーションに見える。
見えるだけで、実際には秒の出来事なので、数台離れた私にはなすすべもなく、アスファルトに容赦なく落ちる『きよら』。
「あああああー!」←心の声
この時、息は飲んだが声は出さなかった。
出てしまいそうだったが、すんでのところで息と一緒に飲み込んだ。
よく我慢したぞ、私。
落とした本人が一番ショックなのだから、と瞬時に判断できた自分を褒めたい。
当の本人は、無言で食品たちを拾い始める。
手伝いたかったが、場所が狭く、せめて何も見なかったふうを装って、早々に帰途に着いたのだった。
そして、これはつい昨日の話。
私の街の目抜通りは、広めの歩道を植え込みで区切って、歩行者道と自転車道が設えてある。
その自転車道を走っていると、前方から前に小さい子どもを乗せ、背中に赤ちゃんをおんぶした女性の自転車が走ってくるのが見えた。
ああ、大変そうだなぁ。ママは偉いなぁ。
なんて思いながらすれ違う刹那!
スポッ!と赤ちゃんの靴が落ちた。
「ああ!靴!くつ!クツが落ちましたよおー!」
何にも考えることなく、声が出た。
大声が。
後方から、「すみませーん」と声がして、振り返ると件のママが自転車を止めたところだった。その距離7〜8mはあったか。
私も自転車から降りて小さな靴を拾い、走ってきたママさんに手渡した。
「助かりました!ありがとうございました!」
その間にも通り過ぎる後続のおばさまに、
「靴、脱げちゃうのよねぇ」と声をかけられる。
わたしの大声は、後続車にも聞こえるくらいのものだったらしい。
つい出てしまう声が、役にたつこともある。
ごく、稀にだけれど。