【エッセイ】 私だけに効いた魔法の7文字
しまが好き。
島 ではなく、縞。
ボーダーやストライプの柄が好きなのだ。
タンスを開ければ、ボーダーのTシャツばかり、クローゼットを開ければストライプのシャツやワンピースがずらりという具合。
色味もTシャツは白黒か紺白、ときどき緑白、たまに赤白。シャツやワンピースに至っては、ほぼ青白で、縞のピッチや太さがちがうだけ。
見るたびに自分でも、どんだけ好きなんだよとセルフつっこみするほどである。
個人的には、素材が違ったり、カットが違っていたり、裾の長さや袖の形によって、それぞれに良さが語れるのだが、まあ、第三者から見れば、また同じ服着てると思われても不思議はない。
着ていれば落ち着くし、コーディネートに破綻がないのがわかっていて、安心感もあるからつい選んでしまう。
好きだから。
買い物に行っても目につくし、つい手に取ってしまう。
好きだから。
ところで、我が家からの徒歩圏内に大きめなショッピングセンターがある。
スーパーもATMもあり、一箇所で色々用事がすむので重宝している。
そのショッピングセンターに、次男と買い物に行った時の話である。
メンズもレディースもある服屋さんに寄った。
私は、例によってブルーのストライプシャツに引き寄せられた。
バンドカラーのシャツ欲しかったんだよなぁ。
あ、セールになってるじゃん!
黒のベストに合わせたいなぁ。
袖もカフスもかわいいなぁ。
なんて思いながらニヤニヤしていると、自分の服を見ているとばかり思っていた次男が、いつのまにか後ろに立っていてこう言った。
「持ってるだろう」
ぱちっと、文字通りぱちっと目が覚めた気がした。
持ってる。確かに。
似たものを、たくさん。
今まで色々な人からさんざん言われてきたはずの、たった7文字の言葉が、この時初めてストンと胸に落ちた。
結局、この時のシャツは買ってしまったのだが(←いや、買ったんかい!)この言葉がなぜかずうっと頭にある。
15キロの減量に成功した時の衣替えでは、縞模様の服を大量に処分した。
サイズアウトしたこともあるが、急に着たいと思えなくなってしまったのだった。
で、タンスとクローゼットに余裕ができた。
そうしたら、不思議と本当に着たい服がわかってしまった。
きれいな色が着たい!
自分で服を選ぶようになってからウン十年、モノトーンをベースとした地味色ばかりを選んできたことを思えば、この衝動には我ながらびっくりした。
痩せたせいなのか、年齢的なものなのか、縞模様を処分したせいなのかはわからないが、今では彩度の高い色味の服が増えた。
月曜日はライトグリーン、火曜日はカナリーイエロー、水曜日はスカイブルーというように、一週間毎日違う色の服を着ている。
そして、好きな色を着るようになったら、なんだか気持ちも明るく保てているのである。
ちなみにこの魔法の7文字は、買い物全般に有効で、安いから、セールだからと手に取った時、頭の中で息子が言うのだ。
「持ってるだろう」
すると、
「まだあるな」
「そんなにはいらないな」
「今買わなくてもいいな」
と、思い直して売り場に戻せるのだ。
セールに弱く、ついつい無駄買いをしてしまいがちだった私の、大きな進歩なんである。
老いては子に従えとは、よく言ったものだ。
言った当人は忘れ去っているに違いないのだが、今度ありがとうと言ってみようかな。
「は?なんの話?」と言う、次男のすっとんきょうな顔が目に浮かぶ。