毛沢東の大飢饉(フランク・ディケーター、中川治子訳、草思社文庫)
大躍進運動をご存知だろうか。
毛沢東存命時に中国を大混乱と、悲惨な飢饉を招いた政策である。
死者4500万人。
社会主義、共産主義の失敗を語る上で、避けられないテーマだ。
この大躍進運動が、社会に凄惨な禍根を残し、やがて、文化大革命へと連なる。
内容に関しては、豊富な公文書の引用を中心とした極めて実証的な一冊だ。
本書を出版した草思社の矜持に、まずは賞賛を述べたい。
一在野の歴史学徒として、もはや「草思社文庫」から出ている一連の現代史関連書籍の存在は欠く事が出来ない。
その位に、意義深い書籍群を出している意欲的な出版社である。
さて、少し根源的な問いとなるが、歴史を学び、理解するとはどういう事か考えてみたい。
本書の「資料について」に、以下のような記述がある。
(QUOTE)
われわれは、普段の生活の様子を知るにも、国のプリズムを通してみるしかないということだ。これは国の公文書保管所の特性でもあり、ヒットラー時代のドイツやスターリン時代のソ連にもいえることだ。
(UNQUOTE)
このプリズムという表現、渡辺惣樹先生も自書「戦争を始めるのは誰か」(文春新書)の「おわりに」で、プリズムという表現で、以下のような文章を書かれている。
(QUOTE)
現代では多くの人々の心に、この時期にはまだ顕在化していないホロコーストのイメージが染みついている。曇った心のプリズムを通して、ヒトラーやナチスドイツを見てしまう。
(UNQUOTE)
プリズムの例えは言い得て妙だ。
いわば歴史の事実を曲げてしまう先入観の様な意味だろうか。
考察が深まったら、また稿を改めることとする。