NEW MAP(DANIEL YERGIN, PENGUIN BOOKS)を読み解く。-第五講。

DANIEL YERGINの”NEW MAP”(ペーパーバック版)を読み始めたので、本欄を用いて少しづつピックアップしながら、自分の思考の整理することを目的としている。

第五講となる今回は、Chaper3”IF YOU HAD TOLD ME TEN YEARS AGO":THE MANUFACTURING RENAISSANCEに関してポイントを述べてみたい。

本章では、シェールガス革命が米国内の産業に与えたインパクトについて言及されている。「革命」と言われることが多いがその内実を平たく言うと、「"異次元の"天然ガス生産を可能にし、石ころ同然と言える程まで原料天然ガスの価格破壊を起こし、”異次元の”利ザヤを稼ぐ。さらにそこから、投資や雇用を生み出す」、さらには、「地政学的に天然ガス外交で実質東欧地域までほぼ支配しているロシアのプーチン大統領をも飛び上がらせる」というある意味、恐ろしい手法である。

前回までの話の少しおさらいしておく。

米国の技術革新を起点としたシェール革命が、
①米国を石油輸出国のポジションへと上げた事
②ヨーロッパへのLNG(液化天然ガス)の輸出によって、ロシアの国際的地位が相対的に下がったことを述べた。

その事実はプーチン大統領にロシアがもはや天然ガスを武器としたヨーロッパへの政治的介入にも等しい外交的地位を喪失する程の地政学的インパクトを与えた。特に、(ロシアの影響が色濃い)東欧にシェールガス革命の余波が到来することは何としても避けたかった。

これがロシアの侵攻を生んだ…までは断言できない。

本章は、米国内事情にフォーカスしている。

ルイジアナ州の田舎町St.Jamesに中国の資本家が(日本円にして)1900億円相当に及ぶ化学工場の第一期工事の商談を持ち込んだことに始まる。この中国人資本家は、サトウキビ畑を買い占めるのみでなく、セレモニーを行った隣接する高校を新しい校舎に作り替えた。

この事業は実現し、多くの雇用と収入を生んだ。

その計画を実現せしめたのは、実に岩石と同様とも言える程に安価なシェール由来の天然ガスであった。2019年工事は60%の進捗を迎え、米中対立の渦中にも関わらず第二期工事が計画されている。

非在来型資源革命は、予測よりも2,3年早く米国のエネルギー情勢に革命をもたらした。同様の事は石油にも言えることである。石油の輸入は急速に減退している。しかし、米国の貿易赤字を補填する程の米国経済におけるシェール革命のインパクトははるかにそいれを上回るものだった。

2014年ちょうど引退の時期を迎えていたFRBのバーナンキ議長は、2008年から2009年にかけての金融危機以来の米国の経済発展の中で最も米国に利益をもたらした解の最大なものでなくとも少なくともその一つであると述べた。
2012年から2025年までの累積額の予想額は日本円換算にして160兆円にも上る。

非在来型資源革命は280万人もの雇用を創出し、石油ガス開発界隈の収入増に繋がった。

シェールがもたらしたものは利益のみではない。その発展が顕著になるにつれて、環境問題に関する論争をもたらしている。Fracking技術しのものが油井より発生する汚染水の廃棄を招いた。環境問題は米国内でも議論の対象となり、ニューヨーク州のような環境活動家や政治家が水圧破砕法の禁止や新規ガスパイプラインの建設の妨害に成功する事ともなった。

メタンガスの漏洩による温室効果が関心を集めている。

シェールガス革命が貿易赤字に及ぼした影響も大きい。シェールガス革命が無かった場合に比すると、貿易赤字が(日本円にして)三兆円も低くなった。シェール無くしては世界屈指の石油輸出国であり続けることは不可能であった。

これまでの新設工事、既設拡張工事に伴うシェール由来の化学工場への投資は累積20兆円である。

これらを可能にしているのは、安価で溢れるように豊穣な天然ガス資源であり、結果として電力価格の低減にもつながっている。

そして米国はLNGの巨大輸出国となり、中国や日本、その他の国々への供給を増加させた。

ダウケミカル社の投資先は何年もの間、安価な天然ガスを原料として用いることが可能な、中東地域であった。しかしながら、米国の低廉なガス価格が、ダウケミカル社の国内回帰を可能にした。
ダウは米国内の新規の石油化学設備への数千億規模の既設増強並びに新設建設の約束をした。2012年の(日本円にして)4000億円規模にも上るテキサスでの拡張工事を発表した。
ダウのアンドリュー・リベリス氏は、2012年以下のように述べた。
「状況は変わるものである。我々は非常に素早く決断を転換した。」そして
こう加えた。
「もしこれが10年前に、この演台に立って(こんな気前の良い)
発表をしているなど、(私ですら)信じることはできなかったであろう」と。

"Things change. We pipvoted very fast," He added, "If you had
told me ten years ago I'd be standing up on this podium making
this announcement, I would not have believed you."

これは米国内のみではなく、ヨーロッパ域内の高いエネルギーコストからの投資を実現せしめると同時に、中国企業がルイジアナのサトウキビ畑の広がる地域に巨額の投資を開始せしめる程だったのである。

安価なエネルギー源であるという点は無論唯一の理由ではない。

しかし、米国あるいは米国外の国々とってもこの豊富で、低コストな天然ガスが、長期間続くことは決定的となった。シェールガスが、米国の「製造業ルネッサンス」、あるいは劇的な競争力とでも呼べるが如き立場を得るのに貢献したのである。

筆者が個人的に感じたのは、もしかすると日本国でもこのシェール革命のような製造業革命のような事を経産省あたりが仕込んでいるのではないかと
想像させられる。米国の異次元の(?)成功例を見ると、日本でも可能なのでは
ないかと考える人が出てきても不思議ではない。

ちょっと投げやりな結論になったが、やはり改めて米国の底力を感じさせられる章であった。

本稿は以上。

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