K-POP✕クラシック…サンプリング(引用)のその先へ
[前置き] 3年以上放置していたnoteに突然このように書き記すのは、どうにかこういったフックでONFの「BYE MY MONSTER」という楽曲を取り上げて頂けるメディア様がいないだろうか…という野望のためです。
●ラフマニノフをサンプリングしたONFの「BYE MY MONSTER」が2024年にスマッシュヒット
2024年4月8日に韓国でリリースされたONF(オネノプ/온앤오프)の8thミニアルバム『BEAUTIFUL SHADOW』は、メンバー6人中日本人のU(ユー/유)を除いた5人が一斉入隊→招集解除を経てリリースした2作目ミニ・アルバムで、タイトル曲の「Bye My Monster」は、デビュー7年目の彼らに歌番組(「THE SHOW」韓国SBS M)で自身2度目の1位をもたらした。
軍白期後に歌番組で1位を獲得したグループは、そう多くはない。決して大きなファンダムがあるわけでもなく、所属事務所は小さく、後ろ盾はない。
そんな状況でも「Bye My Monster」が大きくバズり話題となったのは、楽曲の力・ONFのパフォーマンス力・事務所の気概…これらが功を奏した結果だと思う。
ONFは2017年のデビューからこれまでの7年間、MonoTreeのファン・ヒョン氏が一人でアルバムのプロデューシングを担っている稀有なグループ。K-POPのなかで彼らが異彩を放っているのは、大学でクラッシックの作曲を専攻し、映画音楽のオケ編曲などもしていたというファン・ヒョン氏の音楽的な戦略(策略)によるものだ。
「Bye My Monster」では、ラフマニノフの交響曲第2番第3楽章を大胆にテーマとして引用した。そんな稀代の名曲を、新人のように練習を重ねたという見事なパフォーマンス力で披露し、歌番組初公開(「M Countdown」韓国Mnet 240411放送)の際に100人ほどのフルオーケストラを引き連れて臨んだのだ。
※韓国の歌番組の出演料は数万円程度、ヘアメイクや衣装は事務所の持ち出しだし、活動があればあるほど出費が嵩む。このオーケストラのギャランティも所属事務所の負担だと思われる。
▼'初公開' 온앤오프(ONF) - Bye My Monster Mcountdown EP.837 | Mnet 240411 放送
歌番組で、オーケストラが画面に登場するのは後半のわずか20秒程度だ。ショート動画やリールで音楽を拡散し、カバーダンスでバズることを目的にするばかりに“イージーリスニングに偏ってしまった”K-POPにおいて、この楽曲は真逆の法則をとった。重厚感があるクラシックのサウンドにバンドサウンドまで加わり、起承転結・緩急のある構成…恋愛のどん底を歌ったテーマ、ハイトーンで歌いあげるボーカル、華やかかつパワフルで歌に込めた感情を美しく表現するパフォーマンスなどなど…。なんといっても歌の内容が重い。愛する人に愛されず、感情が真っ逆さまに落ちるどころか、内面の底まで突き抜けしまう物語(歌詞の一部はこんな感じ「欲望のままモンスターにはなりたくない/僕が死にそうでも/知らないふりをして過ぎ去ってくれ/もし僕を救おうと思うなら/絶望を感じさせてくれ……さようなら」)。
これが、「俺たちの好きなK-POPてコレだったじゃん!」とかつての(第2~3世代)K-POPファンも呼び起こし、“K-POPの根本(基本)だ!“とも称される結果を生んだ。※ONFのメンバーの力量だからこそかなえられる点でもあるが、メンバーひとりひとりのバースも長い(と思えば、2拍で入れ代わり立ち代わりの部分もあったりでびっくり)。MVの重苦しさと切なさも素晴らしい。MVの世界観については長くなるのでいつの日か…
確かに、あの頃のVIXXや여자친구もクラッシックをネタ使いしていたし、INFINITEも中盤からはストリングスを多用していたと思う(INFINITEも当時の流行りのK-POPとは一線を画す差別化された音楽が特徴だった。生楽器を多用しメロディに重きをおいていた。先述のファン・ヒョン氏はINFINITEをプロデュースしていた“Sweetune”の一員で、イ・ジュヒョン氏、G-High氏のSweetune所属だった3人が新たに起こしたのが、MonoTreeという音楽制作会社)。
●K-POPアイドル文化黎明期から続く、クラシック音楽の引用
第2世代もこんな感じだったよね…とはいっても、K-POPにおいては「アイドル文化黎明期」からクラシックのサンプリング・引用は実践されてきており、それがこの数年で、またかなり増えているなーという印象で、引用自体は珍しいことではない(ただし、方法はさまざま)。
自分が最初にそれを認識したのは、SHINHWA (신화/神話)の 『T.O.P. (Twinkling Of Paradise)』(1999年4月リリース)だった。チャイコフスキーの「白鳥の湖」をいわゆる「ネタ使い」し、歌メロでも裏メロでも引用していた。この曲でSHINHWAは当時初の1位を獲得していたと思う。同年にリリースされたH.O.T. の『아이야! (I yah!)』は、モーツァルト「交響曲第25番」をネタ使いしていた(こちらは“ハードロックなギター✕ラップ✕クラシック”という、当時のK-POPらしい…まぁS.M.Pです)。両者ともにS.M.ENTERTAINMENT(以下SM)のグループで、1998年にリリースされたH.O.Tの『HOPE』(今となってはKWANGYAの社歌では…)から、それは始まっていたのだ(たぶん)。
SMでは、続いてTVXQ!や少女時代もクラシック楽曲の引用し、近年ではNCTやRed Velvetにも受け継がれ、この手法は“SMの十八番”と言っても過言ではないと思う。
※TAEYANGやBLACKPINK、(G)IDOL、ToppDoggなどなどなどなど、色んな会社の色んなグループもやってはおりますが。
●なぜ?K-POPはこんなにもクラシックをネタ使いするのか…?
世界中のポップミュージックシーンで、これほどまでにクラシックをサンプリング・引用している国はあるだろうか???
大好きな「ReacttotheK(@ReacttotheK)」のYouTubeチャンネルは、ニューヨーク州ロチェスターにあるEastman School of Musicの学生や卒業生(クラッシックやJAZZを専攻している方たち)のK-POP MVなどのリアクション動画を配信しているが、とてもありがたいことに「クラシックが引用されているK-POP」のリストがある。※楽曲ごとのリアクションなどもたくさんUPされえおり、音楽的な解釈で楽曲の深みを知ることができるので、本当にありがたいのです(もう大感謝)。
Classical Music in K-Pop Songs
┗クラッシック楽曲が引用されているK-POP楽曲のプレイリスト
Classical Music in K-Pop MVs (Classical Pieces + K-Pop Songs)
┗クラッシックの元ネタも含むリスト
※さらに、同チャンネルにはMonoTreeのお三方のインタビューが2本あります、本当にありがたいが過ぎる… (① https://youtu.be/5h94twyblM0?si=df4IrjOhbC35VSm-/②https://youtu.be/3bjmyI4qjSM?si=Chkolj6TEYxCuAlP)
これほどまでに、クラシック楽曲をサンプリング・引用されている“理由”を確認する術はないのだが、単純に想像してみると…
●曲がとにかくダイナミックでドラマチック、ロマンチックで印象的な旋律ばかり
●重厚なものから途方もなく軽やかで華やかなものまで多種多様なジャンル(管弦楽曲、協奏曲、室内楽曲、独奏曲、声楽曲、歌劇…オペラ、 宗教音楽などなど…)が存在
●何世紀もの間に人々の評価を経て勝ち残った「優れた楽曲たち」なので、大抵の人の心をくすぐるエバーグリーンな音楽そのもののパワーと価値が確立されている音楽
●西洋音楽の「古典」=あらゆる現代音楽の基礎・基盤になっている音楽
●そして、これらは「著作権フリー」!
…つまり、最高に良質で大衆的な音楽であるわけで、そんな音楽の力を借りるために引用、サンプリングをしているのかな、と。しかも著作権はフリーだし!高尚な印象も与えられるし!…ということかなと思っている(あくまで個人の想像)。
●クラッシックを引用やサンプリング以上の領域へ…
「BYE MY MONSTER」がスマッシュヒットとなったONFは、アイドルの隠れた名曲について韓国ネット上で語られる時、必ずといっていいほど名前が挙がるグループだった。どのアルバムを聴いても良い曲しか出てこない(プロデュースを務めるファン・ヒョン氏はメンバーに「音楽面では絶対に恥をかかせない」と約束しているそう)。そのうちに【名曲の宝庫(명곡 맛집:名曲ばかりのグルメ店)】と称されるようになった。
ONFの楽曲でも特にファン・ヒョン氏が作曲したトラックは、音数がかなり多く感じるし、その中でも生楽器やストリングスが果たす役割は見事なものばかりだ。曲の構成・音の重ね方が独特なのは、やはり…クラシック作曲を専攻し、映画音楽のオケ編曲などを経験されてきたからだからなのか…※この辺を語りだすとキリがないので…※。
「クラシックが引用されているK-POP」を聴いてみると、ただメロディラインを引用しているだけのものや、オケっぽい音をMIDIやパッドで鳴らしているものもある。
が、ONFの場合は楽器による演奏が基本。さらに、彼らにはピアノとオーケストラだけを伴奏としている曲すらある。2022年8月16日、軍白期間中にリリースした『Storege of ONF』というアルバムに収録の「My Song」だ。
また、ピアノとストリングスだけで演奏される「I.T.I.L.U」(2021年2月24日リリース『ONF: MY NAME』Track9)や、ピアノとチェロだけで奏でられる「Breath, Haze & Shadow」(2024年4月8日リリース『BEAUTIFUL SHADOW』Track3) も。
ハウスダンス曲調の『RUNAWAY』(2022年8月16日リリース『Storege of ONF』Track2)では後半ブリッジで突然ドラマチックなストリングスが登場して世界を変えてしまうし、『신세계(NEW WORLD)』(2020年6月12日に韓国Mnetで放送されたサバイバル番組「Road to KINGDOM(로드 투 킹덤)」の最終決戦曲として音源リリース、のちに2020年8月10日リリース『SPIN OFF』に別Ver.として収録)は、EDMなのか…なんというジャンルにくくっていいかわからないが(しいて言えばアニソン)、1曲中で目まぐるしくサウンドもリズムやテンポまで変わる曲で、ここでもストリングスがイントロから重要な音を担う。
このように、ONFはクラッシックの代表的な「音(楽器の音)」を、楽曲の肝としてかなり多く取り入れている。ファンの間ではインストだけのアルバムが欲しいというリクエストがあり、デビュー7周年の記念日作として、インストゥルメンタルアルバム『INFUSE』を2024年8月2日にリリースした(もちろん、インスト用に全曲再ミックスされており、さらにアナログ盤とCD・配信とで収録曲も変えている。アナログで聴いた方が適しているい曲は、アナログに…という拘りぶりだ)。
ONFに限らず…目まぐるしく流行が変わるK-POPのなかで、クラッシックの音楽やサウンドは、単純な引用やサンプリングだけにとどまらず、アーティストの個性(差別化)という役割も担っているのかもしれない。
ONFの「BYE MY MONSTER」は…リリースから3カ月と19日後に、さらに別のクラッシック音楽を引用する。「2024 SBS 가요대전: Summer(2024 歌謡大祭典 SUMMER)」(2024年7月21 韓国インスパイア・アリーナにて収録[有料オンライン配信]、7月26日・27日に韓国SBSにて放送)に出演して同曲を披露した際には、新たにプロコフィエフのロミオとジュリエットのバレエ組曲「モンタギュー家とキャピュレット家」をダンスブレイク部分で引用した(もう出だしから完全に別ミックス…)。悲劇的な愛と憎しみの代表格を、BYE MY MONSTERにかけ合わせるとは…優秀な作家陣ならば、クラッシックの元曲にもオマージュを捧げるように自曲にミックスさせ、クラッシックを再解釈させることもできてしまうのだろう。
●Classicsのレーベルの設立したS.M.Entertainment
SMがソウル市立交響楽団とMOUを締結し、SMの傘下に設立したクラシックレーベル「SM Classics」は、2022年からSM STATIONで配信を始め、「SM Classics」っとしてYouTubeチャンネルも開設。
SMアーティストの楽曲をオーケストラが演奏したり、曲によってはJazz アレンジ(Jazz Trioだけの場合も)、オーケストラと歌手が共しているものもある(今のところはリョウクだけ)。今年は、同レーベルからピアニストやジャズ・トリオがデビューも果たした。
クラッシックやジャズにアレンジするとこうなるのかぁーという新しい発見と感動を与えてくれるし、シンプルに楽曲としてのすばらしさを再認識させてくれる。(さらに元曲は…と元曲をまた聴くことにもなるので自社コンテンツの超有効活用だなぁーとも思う)。
さらに、視覚にも訴える映像=MVをきちんと作っているところだ。原曲のストーリーにリンクしてそうなものもあり、ただこれを見るだけでも楽しめる。
※SM Classics 一覧(再生リスト)はコチラ☟
音楽のファストファッション化が進行するなかでも、こういったコンテンツを制作できるカンパニーが“カルチャー”作っていくのだろうと思う…。