なにしろカノジョはドジなのです【 エッセイ 】
「 排水口が忙しい 」
歩いているだけで鼻先が冷たくなる。とても寒い日だった。
スーパーで食材を買った帰り道。「 今日はシャワーだけじゃなくてお湯につかる 」カノジョは宣言した。
帰宅すると、カノジョはバスルームへ直行し、お湯をひねった。
これから30分ほどで、いい頃合いになる。
カノジョは「 のぼせるまで浸かって、出たら飲む 」そう言いながら缶ビールを冷蔵庫にしまった。
お楽しみができて上機嫌だ。ハミングをしながらお米を研いでいる。
キッチンタイマーが鳴り、カノジョはバスルームへ向かった。
「 あぁっ! しまった! 」大声の割に、切迫感が薄まるマンガチックな言葉が飛んできた。カノジョのリアクションはいつも大袈裟なのだ。
これはまた何かやらかしたに違いない。問題はそれがなんなのか? 湯煙の立ち込めるバスルームを覗いてみた。
程よい量のお湯があるはずのバスタブには、くるぶしさえ隠れないほどの量のお湯が、頑張って湯気をあげている。
一体なにが起こったのか? 理由はいたってシンプルだ。したはずの栓が抜けていたらしい。
「 なにやってんだよ 」苦笑いを含んだ声が出た。
「 だって…… 」カノジョは頬を膨らませた。
その後、まな板の上では不格好に切られた食材が量産された。
しばらくすると、カノジョはお風呂にダッシュした。
本日二回目の悲鳴がとどろく。
仕方ないからバスルームにいくと、今度は湯舟からお湯があふれ出ていた。
キッチンタイマーをセットし忘れ、料理に没頭していたらしい。
覆水盆に返らず――――。
水道の蛇口からポタっとおちる水滴をペットボトルに溜めたり、トイレのタンクに瓶を二本入れたりして節水に励んでいたカノジョ。そんな努力が水の泡である。
そう言おうとして口をつぐんだ。余計な事は言わないに限る。
それにしても、不機嫌になりたいのはわたしである。
ここはわたしの部屋。水道代を払うのは、なにを隠そうわたしなのだ。
エージロー
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