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Progressive & Popularity 「クリエイティヴィティとポピュラリティのバランス」

僕のルーツにあるリズム&ブルースにシンクロするように、二面性の表裏としてあるのがプログレッシヴ・メタルだ。現在リリースされている作品の中に、そのカラーの楽曲がいくつもある。ヘヴィなサウンド、トリッキーな変拍子、コンセプト、そしてこのサブスクリプション・サービス時代のシングル・フォーマットの逆を行く長尺の楽曲。自分のソロでは12分にも及ぶ三部構成の「Rhythmusical Pt.Ⅰ」(Pt.Ⅰという事は、その続編が今後リリースされます)、Entertainergy the Bandでは「Move-Ment」,「Greek Trick Star」といったナンバーだ。ヴァースやコーラスだけでなく、いくつものセクションがある。それは時に唄だけでなくInstrumentalでも表現する。この手法は、自分が最も影響を受けた偉大なるプログレッシヴ・バンド達から学んだ手法だ。Dream Theater,Pink Floyd,King Crimson,Yes,Genesisといったバンド達から学んだ。いつの時代も長い楽曲は一部の層からは嫌われる傾向にある。現代ではイントロさえ聴く事のできない、ギター・ソロは嫌われる傾向にあるといった声を耳にする。そういったナンバーはすぐにボタンを押してスキップされるそうだ。かつて突然キツネの仮面とドレスを身に纏ってステージに現れたシンガーは、オーディエンスの顔が引きつっているのを目にしたそうだ。しかしそれを観てもそのシンガーはドレスを脱ぐ所か「面白い、もっとやろう。」と思ったそうだ。僕の考えるプログレッシヴとはこういう事にある。売れてもいないのにいきなりそういったナンバーを書きそのような演出をする事はリスクがあるし、自身のクリエイティヴィティよりもそういった売れる事に自分の音楽をフォーカスさせているビジネス・ミュージシャンはそう考えるのも当然だと思う。しかし、アーティスト・ミュージシャンである僕達はそういった事に自身のクリエイティヴィティは左右されないし、僕が今まで読んできた何十冊ものビジネス書達はリスクを冒さなければ成功はないと皆が口を揃えて言っていた。上記に上げたバンド達もスープを求められているのにステーキを出してくるようなバンドであり、自身の信念とクリエイティヴィティを貫き通して成功したバンドであり、僕達もそういった成功の仕方があるのだと現代でも強く信じている。

2012~2013年、2014年にソロ・アーティストになった僕はまずソロ・アーティストとしてふたつのタイプの曲を書いた。ひとつは10分を超える大作で、このナンバーは今年リメイクして再リリースする僕のⅠst Albumに収録されます。そしてもうひとつのナンバーが、現在リリースされているⅠst TP「The Entertainergy」に収録され昨年先攻リリースしていた「The Bleu World」というナンバーだった。このナンバーは5分程度に収まっており、ここで自分が挑戦したのはこのフォーマットでもプログレッシヴらしさを維持する事にあった。そこで大いに参考にしたのが、僕がDream Theaterと同レヴェルくらいに影響を受けた(そしてDream Theaterのメンバー達も大いに影響を受けた)カナダの英雄Rushだった。

Rushは1974年にデビューし、Led Zeppelinといったハード・ロック・サウンドと合わせてYesやPink FLoydといったプログレッシブな要素も取り入れていた。そして、自分達が何者なのか?を常に理解していた。そういった要素を導入して3rd ALBUMでセールスが落ち始め、次のアルバムで成功しなければレーベルと契約を切られる状況になっても、自分達の信念を決して曲げなかった。妥協はしなかった。権力には屈しなかった。失敗したらそれでいい、父親の配管工の仕事を手伝う、実家の農業器具のお店を継ぐ。外部からの干渉、圧力は彼らが最も嫌う事であった。そうして最後のチャンスで「20分のSF映画」を制作して大成功をし、世界的に有名なバンドになった。同時期に悪徳マネジメントの金の浪費により解散直前まで追い込まれていたQueenも「6分のオペラ・ソング」を書いて大成功した。その数十年後に同じ状況に立たされていたDream Theaterも自身達に大きな影響を与えたRushのように自分達の信念を曲げず、ドラマーのマイク・ポートノイはレーベルの圧力とそれに屈しそうになっていたメンバーを見て苛立ち、バンドを脱退するとまで言った。そして自分達の主張を通して「80分のサスペンス映画」を制作して大成功した。僕が理想とする成功の形は、札束の数ではなくこういった自身の信念を貫く事にある。このエピソードは自分にとって、良質なビジネス書を読んだように多くの学びを得た事だった。初期のRushは大作ナンバーをいくつも書いたが、中期になるとそういった大作主義にピリオドを打ち当時姿を表していたニューウェイヴ・サウンド(メンバーが好きだと公言していたThe Police,Ultravoxなど)を取り入れて新しい方向へと向かっていった。この時期のRushはファンの中でも賛否両論別れるが、それでもバンドらしさは決して失われなかったと僕は思っている。新しいサウンドを求める事こそプログレッシヴ・ミュージックだ。このジャンルの象徴的存在とも言えるムーグやメロトロンだって当時最新のシンセサイザーだったのだから。楽曲には引き続き変拍子があったし、ニール・パートの知的な歌詞は健在だった。そこでこのフォーマットを自分でもやってみようと思い、僕は「The Bleu World」を書いた。5分のフォーマットでもヘヴィなサウンドがあるし、変拍子があるし、自分の信念を変える事はなかった。Entertainergy the Bandの「MUSICIANSPIRIT」に収録されているCo Founder T.T.作曲の「Take Off」もこのフォーマットが適応されているナンバーだと思う。5分間のフォーマットの中にギター・ソロだけでなく、ピアノとベースのソロもあるし、20年間変拍子のナンバーをプレイしてきた自分でさえ背筋が凍るほどの変拍子が次々と迫ってくる。サブスクリプション時代は悪い部分だけでなくいい部分もあると思う。U2のボノが言っていたが、リトル・リチャード時代のように1枚のシングルで成功するチャンスがある。うちのチームのMakoto Sibasakiも言っているが、そういった7インチ・レコード時代の音楽が好きなのか?、サブスクリプション時代だから楽曲をラジオ時代のように3分にしなければいけないのかと考えるのでは大きな違いがある。前者はクリエイターの意志であるが、後者はクリエイティヴィティとは関係のないビジネス寄りの話だ。その間で、バランスを保ちつつ自身のクリエイティヴィティを妥協しないで作品を創造する方法もあるという事を僕はRushから学んだ。Rushがその時期に書いた「Limelight」というナンバーは、過剰な成功が自分を見失っていく事を皮肉ったナンバーである。バンドらしさは健在だった。

近年物価の高騰により僕の好きならぁめん屋さんが次々と値上げをしているが、それは引き続き味のクオリティに妥協をしたくないからだと思う。そしてそこで働く社員さんやアルバイトさんに引き続き正当な給料を支払う為にも(同時に早朝から仕込みを行うヘヴィ・ワークをしている職人さん達にそれに見合う対価を支払うべきだと僕は思っている)。値段をそのままにして密かに量を減らしたりクオリティを下げる事は(この時代値段をそのままにしている事は何処かで何かや誰かが犠牲になっている、そして量を減らす事は顧客が損をしている)、上文にもあげたクリエイティヴィティを妥協する事でありそれは僕が最も嫌うやり方でもある。だから僕はサブスクリプション時代になっても自分の好きなアーティストの作品はBlu-rayでもレコードでも同時に買うし、大好きなソウル・フードであるらぁめんにも数年前から1,000円以上使うようにしている。

そして、この「Bleu」とは自分のコンセプト・カラーである。Princeが「Purple」ならば僕は「Bleu」だ。Blueではない、Bleuだ。僕の楽曲や映像には至る所でこのカラーが登場する。日本語では「蒼」だ。そのはじめとなったのが、このナンバーだった。そのきっかけは僕が愛用しているフレグランスである「Bleu de CHANEL」だった。僕と同い年であり、哀しくも2022年に事故で亡くなってしまった大好きな俳優ギャスパー・ウリエル。ギャスパーが主演し、マーティン・スコセッシが監督したCMは100回以上観た。キャッチ・フレーズである「あなたの期待通りにはならない」。これぞまさに僕が理想とするアーティストの形であった。このナンバーを今回リメイクした時も(ギャスパーの追悼の意を込めてフレンチなアンティーク・ピアノを新しく取り入れた)、これからステージでこのナンバーをプレイする時も、僕がBleuのドレスを身に纏う時は必ずギャスパーの事を思い出すようにしている。僕はギャスパー・ウリエルを決して忘れはしない。

YEG




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