Eスポーツビジネスは踏ん張り時 - 業界の構造的課題を打破できるか
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(2023/1/28更新)
Eスポーツは個人的に好きで、よくTwitchでプロゲーマーのストリームを見ています。2019年にグローバルでの市場規模が10億ドルを突破し、今なお成長を続けている将来有望な新市場ですが、ゲームパブリッシャーに対する弱い交渉力やターゲットオーディエンスの偏りなどがあり、構造的にスケールが難しいフェーズにきているようです。
そもそも、eスポーツには様々な企業が関係しています。この記事では、以下チャートの「大会主催者=リーグ」について、ブランドが離れ始めている理由や構造的な課題と、解決への道を解説します。
さて、Eスポーツリーグの収益源は、大きく分けて4つあります。第一に、スポンサーシップ。ブランドとEスポーツチームや選手のタイアップですね。全体の50%程度を占めており、最大の収益源です。第二に、メディア放映権。テレビ局やストリーミングサービスへの大会配信権の販売です。あとは、グッズなどのマーチャンダイズやチケット販売収入、ゲームタイトルを提供するGame PublisherからのFeeなどが続きます。
約半分を占めるスポンサーシップ収入が減ることは、Eスポーツリーグにとって大打撃であることがわかると思います。その要因はいくつか考えられますが、最大の理由はオーディエンスの極端な偏りではないかと想定されます。以下のチャートを見るとわかるように、Eスポーツファンの中心は「男性」「若者」「高収入」に極端に偏っています。この記事では、オーディエンスは徐々に多様化していくと書いていますが、それもすぐに起こるわけではないでしょう。
それに続いて、Digidayで触れられている通り、「個人のインフルエンサーと直接取引した方が安上がり」「ゲーマーと広告の相性の悪さ」などもあげられます。
もちろん、オーディエンスが偏っていることが直接的な離脱の理由ではなく、「男性」「若者」「高収入」に訴求したいブランドにとってEスポーツは魅力的なコンテンツであることは変わりありません。しかし、この偏りがなくならない限りは広告主の広がりに限界が生まれてしまい、スポンサーシップに頼っている業界としての成長は期待できないということを意味します。
ところが、ブランド離れはEスポーツリーグにとって「解決可能な」問題と考えます。それよりも、Eスポーツはゲームパブリッシャーにとってのマーケティング手段に過ぎず、パブリッシャーありきのビジネスであるため、どうしても交渉面で弱い立場に得ざるをえないという、より構造的な課題を抱えています。
サッカーや野球のような、特定の所有者がいない一般的なスポーツで成り立っているリアルのスポーツリーグと異なり、EスポーツはEAのApex LegendsやRiot GamesのLeague of Legendsなど、特定のパブリッシャーのゲームが全ての根底となって成り立っています。そのため、ゲームの仕様や大会演出のテイストなどはもちろん、そもそもパブリッシャーがそのゲームでEスポーツリーグを開くことを禁止すれば、全てのビジネスが崩壊するわけです。
そうなってくると、もはや交渉力という観点で、Eスポーツリーグは完全にパブリッシャーより弱い立場に立たされるわけです。
収益面でいうと、パブリッシャーはEスポーツリーグに関連する収益の最大50%を受け取り、リーグやチームはその後に残った収益を分配するという構造になっています。
また、リーグではありませんが、Eスポーツエコシステムに含まれる企業もパブリッシャーの強い支配下に置かれています。例えば、Overwatchのプレイヤー分析ツールを構築しようとしたPursuitやVisorは、Activision BlizzardによるAPI引き上げにより、サービス停止の危機に追い込まれました。
また、ドイツを拠点とし、Riot Gameが運営するLeague of Legendsの普及に大きく貢献した独立系Eスポーツリーグ企業であるElectronic Sports Leagueは、Riot Gamesの独自リーグ普及に際し、League of Legendsを取り扱いを禁止されてしまいました(Rift Herald)。
これは、Eスポーツという業界の成り立ち上、解決することが難しい構造的な課題でしょう。では、Eスポーツリーグはこの構造的な課題にはどう取り組んだら良いのでしょうか。私は、二つ方向性があると思います。
一つ目は、パブリッシャーサイドとの融合(もしくはパブリッシャー主体でのリーグ運営)です。これは最もわかりやすく、かつ現実にもよく起きている戦略です。例えば、世界最大の格闘ゲームリーグを運営するEVOは、2021年にPlayStationを運営するSony Interactive Entertainmentに買収されました。また、Riot Gamesは、2009年からLeague Championship Seriesというプロリーグを独自に立ち上げています。
二つ目は、変わり種ですが、リアルスポーツへの進出です。あまり事例は多くないですが、東南アジアで最も人気があるEスポーツチームであるEVOS Esportsは、EVOS Thunderという名前でインドネシアのプロバスケットボールリーグに進出しました(E Sports Insider)。
コロナ禍で、2020年に多くのプロスポーツ選手がTwitchで積極的にゲームプレイを配信したことなどが影響し、リアルスポーツとE Sportsのファンが融合しつつあることが要因として考えられます。実際、スポーツファンの26%がE Sportsを視聴しており、その数は増えて続けているというデータもあります(Digiday)。
それはリアルスポーツ側の視点でも同様で、いくつかのメジャーなチームや企業がE Sportsに進出しています。例えば、NBAは、Take-Two Interactiveと組んで、「NBA 2K League」を開催しています。また、ドイツのサッカーチームであるSchalke04は、League of LegendsのE Sports大会に参戦しています(E Sports Insider)。
Eスポーツリーグは、パブリッシャーにとってマーケティングチャネルであり、スポーツ自体であるゲームありきの存在です。そのため、これまで解説したように、ビジネス面で弱い立場に立たされざるを得なかったわけです。一方、伝統的なリアルスポーツは、スポーツ自体は所有者がいない普遍的な存在であり、リーグそのものが純粋なエンターテイメントです。そのため、リーグが稼ぐあらゆる収益(スポンサーシップ、メディアライツ、広告、グッズなど)は全てリーグの収益となります。上記の事例は、あくまでEスポーツチームのリアルスポーツ進出ですが、リーグでも同様の動きがあっても不思議ではありません。
以上、E Sports業界が直面している課題と、解決に向けた大きな方向性について書きました。個人的にもApex Legendsの大ファンでALGSも欠かさずチェックしているので、Eスポーツがもっと盛り上がったらいいなと心から思っています。
また、Eスポーツリーグを中心としたエコシステムには、チームを始めベッティングやアナリティクス、コーチングなど色々なビジネスが存在しています。本記事で触れた構造的課題により、どのビジネスも軒並み停滞気味ですが、これについてはまた別の記事で詳しく掘り下げていこうと思っていますので、お楽しみにお待ちください!