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Spotify/AppleMusic/AmazonMusic/TIDALのビジネス戦略分析

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更新履歴

  • (2023/3/6) TIDALの施策事例を更新しました

  • (2023/2/22) Spotifyの施策事例を追加しました

  • (2023/2/13) Spotifyの戦略を編集しました


昨年11月に、Amazon Music Primeの仕様変更が話題になりました。曲数は200万曲から1億曲に増えたけど、シャッフル再生のみになって改悪された、とプチ炎上しましたね。
また、NetflixでSpotifyの創業ドラマを描く「The Playlist」も見たりして、音楽ストリーミングのプレイヤー動向が気になっています。
とりあえず、業界トップ3のSpotify, Apple Music, Amazon Music Unlimitedの最近の動きと、一時期JayZが保有していたTIDALをリサーチしてみました。
Film/TVと異なり、オリジナルコンテンツが競争軸にない音楽ストリーミングでも、よく調べてみると各サービスで戦略に違いが明確にあって面白いです。

ざっくり要約

【Spotify】
音声コンテンツフォーマット間で、テクノロジーをレバレッジとするシナジーを創出し体験を高度化
【Apple Music】
あくまで音楽体験にフォーカスし、アーティスト・ユーザー双方の観点からエンゲージメントを高める
【Amazon Music Unlimited】
アマゾンエコシステムのデバイス・サービスとのシナジーでユーザーを獲得
【TIDAL】
アーティストに魅力的なサービス作りをすることで、アーティストにロイヤリティを持つコアファンをターゲットに据える

Spotify

Spotifyがポッドキャストやオーディオブックコンテンツへの投資を拡大していることは有名です。ポッドキャストの場合、Gimlet MediaやThe Ringerなどコンテンツ面での買収と、ポッドキャストのUGCツールであるAnchorやアナリティクスツールであるPodcastsights、マネタイズツールであるMegaphoneなどテクノロジー面での買収を積極的に行っています。オーディオブックでは、2021年末に買収したFindawayがエコシステム全体に渡るサービスを提供しています。

このように、音声コンテンツフォーマットで事業領域を拡大しているSpotifyですが、Two Side Platformとして「ユーザー」「クリエイター」双方へ価値を提供しエンゲージメントを高めるために、コンテンツフォーマット間のシナジー創出を戦略的に重視しています。
特に、テクノロジー面での取り組みは重要な差別化ポイントになっています。ユーザーサイドでは、音楽ストリーミングで培ったプレイリストの自動作成アルゴリズムなどを、ポッドキャスト・オーディオブックにアプライしています(Tech Crunch)。また、アドテクにも力を入れており、Spotify Audience Networkというアドネットワークは音楽の音声広告とポッドキャスト両方に跨っており、ユーザーの趣味嗜好や年齢、性別などSpotify全体で得たデータをベースに、高精度な広告を配信することができます。また、Podcastsightsはポッドキャストの効果測定機能を手に入れる目的で買収しましたが、その機能を音声広告など他のコンテンツフォーマットにも拡張する予定といいます。もちろん、将来的にはオーディオブックもシナジー創出の対象となるでしょう(Spotify)。2023年2月22日には、競合他社に先駆けて、OpenAIの生成型AIをフル活用した「AI DJ」機能もスタートしました。2022年6月に買収したSonantic社の技術を活用して、テキストの自然な読み上げも実現しています。「The Playlist」でも、Spotifyはテクノロジーカンパニーだ、とDaniel Ekが言っていました。テクノロジーを軸にコンテンツ体験を差別化する戦略は、Spotifyの成り立ち的にも納得がいきます。

また、テクノロジーではないコンテンツ面でのシナジーも部分的に取り入れています。例えば、Spotifyのポッドキャストには、Spotifyの曲をシームレスに挿入することができ、コンテンツをより高度化することができます。

Apple Music

最近少し値上げしたみたいですが、基本は1プランの中にDolby Atmos, 空間音響, ロスレスハイレゾなど、音楽体験を高度にするテクノロジーを詰め込みまくっています。提供楽曲数もSpotifyより多いです(Apple Music: 9000万、Spotify: 7000万)。
クリエイターへの還元率も業界No1です。Spotifyより2倍近く高いそうです。また、ちょっと前に買収したShazamの音楽検知テクノロジーを活用して、リミックスに使われた曲のクリエイターへの還元にもトライしているらしいです(Tech Crunch)。
Apple Music Singは、ユーザーサイドにおける音楽体験高度化の施策の一つと位置付けると、戦略的位置付けとしては納得できます。もちろん、追加料金を支払わず、従来プランの中で楽しめます。
あくまで音楽にフォーカスしながら、ユーザーとクリエイター双方の体験を高めていく戦略ですね。

Amazon Music 

もはやエコシステムとのシナジーは、アマゾンのお家芸ですよね。Twitchのライブ配信をAmazon Music上で見る事ができたり(IT Media News)、アプリ上からアーティストの独占限定グッズを買えたり(Musically)、Echoユーザーなら安くUnlimitedに加入できたり。。。たくさんありすぎて事例調べきれないですが、非常にわかりやすい戦略かなと思います。
ちなみに、先日発表されたAmazon Music Primeの仕様変更も、PrimeからUnlimitedへの誘導を強化する施策として捉えると納得がいきます。200万曲に制限されていた旧プランと比べると、「聞きたい曲はあるのにシャッフルのせいで辿り着けない」というのは、Unlimitedへサインアップする動機としてより強いと想像できます。

TIDAL

TIDALは、2014年に創業された音楽配信プラットフォームで、JayZが所有する投資会社に買収された後、Twitter創業者のジャックドーシーへ売却されました(JayZは現在も株式の20%を保有しています)。マーケットシェアは2021年時点で2%とかなり小規模ですが、「アーティスト中心主義」という確固たる戦略が見えてとれます。
まず、一部プランのロイヤリティの支払いシステムが、SpotifyやAppleMusic, Amazon Musicと異なる「User Centric Payment System」を採用しています。これは、各ユーザー毎に、アーティストを聞いた回数・時間のシェアを集計し、そのユーザーのサブスク料金を直接分配する方式です。Spotifyなどのプラットフォームでは、一部の超人気アーティストに収益が集まってしまう傾向にありますが、UCPSであればその不均衡を解消できます(Deezer)。ちなみに、TIDALだけでなく、DeezerやSoundcloudなど他のストリーミングサービスでも採用されています。
TIDALの場合、月額$19.99のHiFi Plusプランに入っている場合だけUCPSが適応されるため、アーティストを愛するコアファンであれば、HiFi Plusに加入する強い動機になるでしょう。

2023年3月に、TIDALはUCPSであるDirect Artist Program(DAP)の中止を発表しました。DAPには、7万人のアーティストが参加し50万ドルの支払いが行われたが、目標には遠く及ばなかったそうです。DAPに使っていた資金を今後は新興アーティストの発掘プログラムである「TIDAL RISING」に振り向けるそうです。その意味で、アーティスト中心という基本戦略に変化はなさそうですね(Music Business Worldwide)。

また、Apple Music同様、ロスレスオーディオの提供も行っています。しかしTIDALの場合、これをユーザー向きではなく、「アーティストが意図した通りに配信できる」とアーティスト向けに訴求しています。

Tidal markets itself as a service that helps artists share their music “precisely as the artist intended” (i.e. with extremely good audio quality).

techcrunch

冒頭のMBWの記事でも、Universalと共同で「ファンのエンゲージメントを活用」することによってアーティスト中心のモデルを追求すると発表されています。どんなモデルが出てくるのか、非常に楽しみです。

以上、簡単にですが、Spotify/AppleMusic/AmazonMusic/TIDALの戦略を分析してみました。ニュースを追いつつ、引き続きアップデートしていきたいと思います。

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