AV女優によるエロ無しの舞台『無慈悲な光』を観てきました。
AV女優がまったくエロ要素の無い、そしてメッセージ性の強い、ガチの演劇をするという新しい試み。期待に腹を…いえ、胸をふくらませて小劇場公演のメッカ下北沢へ。
私が一番興味をそそられたのは、いつもAVの中で見ているお馴染みの女優さん達が板の上でどんな演技を見せてくれるのか?その次に気になったのは、一体“無慈悲な光”とはどの様な光のことを指すのか?
したり顔で辛口のレビューをしようと思えばそれなりに有識者的なカッコ良さを演出できるでしょう。でも、そんなつもりは更々ありませぬ。ただただ幼い頃から舞台が大好きで、小さな箱から大劇場まで通いまくり、果てに舞台女優の付き人時代もあったという…そんな舞台狂いの私の興奮を書き記しておきたいだけですので、あしからず。
そう。興奮したのです。
舞台女優に比べればそりゃ発声などはまだまだかもしれないけれど(失礼)、客席最上部にいた私にも余裕で“伝わる”熱演でした。全ての出演者の思いと熱がまっすぐ届く素敵な舞台でした。
(敬称略で参ります。そしてネタバレ満載です。)
M01-加藤あやの 実は開演して暫くの間、一番違和感を感じていたのは彼女に対してだった。「今日は調子悪いのかな?」そんな風に思っていた。が、途中「もしかして…」と思う流れがあり、最終的に「なるほど!」という自分の中のフラグ回収ができた。「なんのこっちゃ?」と思われるでしょうから軽く説明をしますと、、この舞台は実験用マウスとして誕生した人型の実験動物が役目を果たした後、命短く亡くなっていく…その最期の数日を描いた物語。その実験用マウス達の中で唯一元々は普通の人間であったのに、貧乏ゆえに売られ実験用マウスとして育ち短い生涯を終えるという、、そんな悲劇の中でも一番と言える悲しい運命を背負った子を演じたのが、加藤あやのだったのだ。要するに説明がついた時にとって付けた様な流れにならず、「やっぱりか!」と見る側に感じさせる人間臭さを滲ませながらマウスを演じていたということ。これは終演後に直接彼女にも伝えたけれど、役に寄せる役者と役を寄せる役者で言うと彼女は前者タイプの役作りの人。自ら作品にのめり込んで引き込む熱演だった。素晴らしかった!
M02-あべみかこ ちょいと知能が低めだが知識欲とあらゆることへの意欲が旺盛で、どこまでもイノセント。非常にキャラが立っていて一番ウザくなりがちな役所をギリギリのラインでクスッと笑える可愛い子的に好演していた印象。出演者の中で「この役をやるなら確かにあべみかこだよね!」というハマり役だった。悲劇を悲劇として、より際立たせるエッセンスの役割をキチンと果たしていた。なんとなく、子役時代を経た役者的なニオイのする演技だった。素晴らしかった!
M03-山岸逢花 控えめで優しく空気の読める子。何故かいつもあやとりをしている。個性の強い役ばかりの中、ともすると印象が薄くなりがちな役柄をメリハリのある演技で上手く立ち回っていた。演じ手によっては添え物や箸休めになってしまったかもしれないけれど、彼女はしっかりと印象に残るメインとして協調性のある良い子を演じきった。この中で一番最初に命を終わらせるのだが、その感情表現と長くは続かない命のリレー(あやとりの受け渡し)に泣かされた。素晴らしかった!
M04-AIKA メガネをかけた優等生キャラというギャップ萌えが個人的にホームランだった、という無駄話はさて置き、、知識が抱負で知能も高くとてもクール。難しめな言葉を多用していく役柄だが、セリフとして言うだけにならずキッチリ血肉として身に着け客席に伝えきったAIKA。どれだけ練習して自分の物にしたのだろうと考えるだけで胸が熱くなった。マウスとしての運命を頭では理解し、勿論従順にも振舞うが…最期の時を察し、刹那、スパークした本音で泣かせた。必死に見つけようとあがいた希望の光。でも、意識の無い彼女が最期に見たモノは無慈悲な光であった。ともすると説明になりがち系なセリフを胸をつく言葉として投げかける演技。素晴らしかった!
M05-本庄鈴 この中で一番の問題児。我も欲も強く非常に反抗的。小劇場のコンパクトなスペースの中では彼女が一番恵まれた体躯の持ち主に見えた。強めの役柄にも合ったしっかりとした発声で存在感が際立っていた。立ち姿だけでも目を引くし、動きにつれて発するオーラも強い。しっかり基礎を身に着ければ大劇場のミュージカル向きの子だなぁという印象。協調性のない我儘な子が仲間によって丸くなり、でも最期はやっぱり…という流れを分かりやすく演じ、悲劇的な運命を受けとめ切れない稚拙さを切なく魅せてくれた。素晴らしかった!
科学者-つぼみ 役割を終えたのに、異端として寿命が長く、生き続けてしまっている実験用マウスの最期を司る研究者。実は元々人間だったM01の姉でもある。(その事実はM01が実は人間だったというネタバレと共に終盤に発覚するのであるが。)終始淡々と感情を見せずに職務を全うする役柄。抑え目な演技と時に強めに感情を剥きだしにする演技のメリハリがグッときた。どちらかというと控えめで小声で話す人というイメージだったけれど、冷徹な科学者を憎まれ役にしない鮮やかな感情の切り替えで堂々と演じた。序盤、「もしかすると役負けしてしまいそうな配役か?」と思ったのだが、なんのなんの。こんなに演技ができる人だったのかと(すみません)驚かされる好演だった。素晴らしかった!
実験用マウスが夢見る希望の光。もしかして自分は人間として生きることが出来るのではないか…。だが、無情にも息絶えた彼女らの瞳に映った光は瞳孔を確認するドクターライトの“無慈悲な光”だったのだ。
長編のジブリアニメを見終わった様なメッセージが胸に刺さる舞台だった。きっと観劇した人の数だけメッセージの説明があると思う。そういう含みのある内容だった。
実は先週仕事でお会いした時に、全員が揃っての稽古は二度しかなかったとカジさんから伺った時にはとても驚いた。それであの完成度だったのかと。きっと彼女達も演出した坊屋さんもカジさんも自分の中でダメ出しがいっぱいあるのだろうなとは思う。それはどんな商業演劇で評価が高い作品でもそうなのだから当たり前のことだ。でも、私達観客はみな心を打たれ涙したのです。終演後に素晴らしかったと感想を言い合ったのです。そんな素晴らしい舞台でした。
「実はボク2015年位からこの構想があって…」先週この舞台の話をしていた時にカジさんはそうも仰っていた。去年弊社のオフ会に遊びに来てくださった時にはこの話が進行していて、「幾らが妥当だと思いますか?」とチケット代の相談を受け、「そんな凄い企画がそんなに具体的に進行しているのか!」と心が震えたことを思い出す。
成功しましたね!そして関わった人達すべてが力を出し切って一石を投じましたね!!この素晴らしい企画がこの一回で終わることなく続きます様に…そう願いながら、筆を置きます。
駄文の長文、失礼致しました。
不肖の広報 円水。