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指先からの、祈り。 〜コラボレーションムービーの制作現場より、音のこと〜

映像より終始流れる、クラヴィーコードの音の色

立夏が過ぎ、夏の二番目の節気「小満」の候となりました。そろそろ「衣更」という言葉が頭をよぎります。

令和元年五月一日、クリエイティブディレクターである湯川篤毅氏の全面協力により制作され公開いたしました、New Balanceとのコラボレーションムービー、ご覧いただけましたでしょうか。

この映像には、終始美しい音楽が流れています。これは内田輝氏の演奏によるクラヴィーコードの音色。このコラボレーションムービーのために作曲していただいた完全オリジナルです。
今回はそっと優しく寄り添ってくれていたこの音色について、ご紹介してまいります。

14世紀に考案されたピアノの原型、クラヴィーコード。
音楽家である内田輝氏はこの楽器に出会い惹かれ、自ら製作し調律まで行い、音楽を奏でています。

内田 輝氏「製作していて感じたこととして、人に聞いてもらうというよりも、人間の身体感覚に無理なく届くための楽器という在り方もあったのでは、と感じます。

何百人もの聴衆に届けるため、最大限に音を出さなくてはならない楽器とは違い、大きな音量は必要なかったのではないでしょうか。

むしろタンジェントと呼ばれる、弦を弾くハンマー部分を革で包み、より小さな音であり続けることを求めたりしていました。

修道院で修道士が作ったクラヴィーコードもあります。残っている文献の一部には、

『小さき音色を、耳をすませて聴くことによって、やがて天上の音楽が聞こえてくる』

と書かれているんです」


クラヴィーコード、よろづの音とともに

皆様にお届けした映像は音量を思いのままに調整して聞いていただけますが、実際の撮影現場で奏でられたクラヴィーコードの音色は想像よりも優しく儚いものでした。

現場では伊藤仁美が着物をまとい、それを見守るかのようにして内田氏が感じるままにその場で生まれた音を奏でました。

そして撮影の合間に内田氏が別録した虫の声、雨や風の音。そして着物の衣擦れの音。聞こえていなかった、でも確実にそこに在ったよろづの音です。クラヴィーコードがそれらすべてを包み込み、一体となって重奏のオリジナル楽曲が完成いたしました。

ぜひ音楽を主役にしてもう一度、映像をご覧ください。

耳をすませ、音を聞くことだけに集中して。

吸って吐く、自らの呼吸とともに、あるがままに。

指先からの、祈り。

着物をまとう姿もまた、祈りの舞のように。


「Classic meets Modern」古代麻の復活

〜着用の衣装について〜


内田氏が着用する着物もまた、誉田屋源兵衛10代目である山口源兵衛氏にご提供いただきました。


縄文時代、私たちの祖先は古代麻を生活の中に取り入れていたことは現存する遺跡からもわかっています。一度、古代麻の紡績の技術は途絶えてしまいましたが、山口氏により現代に甦らせたのがこの「麻世妙(まよたえ)」の着物です。

淡く薄い水色の藍染に、彦根藩井伊家の紋でもある井桁紋の抜き紋が配された着物には、糸芭蕉の繊維で織り上げられた芭蕉布の角帯を合わせました。

また、古代麻には速乾性、抗菌・脱臭効果に優れているという特長が。

Classic meets Modern.

太古の昔に先祖たちが日常的に親しんでいた古代麻は、行動的な毎日の現代に適したファブリックだったのです。


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