GTOの電車はなぜ生まれた?
この記事は、著者の平凡な知識を淡々とまとめたものです。
過度な期待はしないでください。
あと、部屋は明るくして
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はじめに
「あぁ〜! 日立GTOの音ォ〜!!」
皆さんこんにちは。ensen-yです。
特徴的な加速音で鉄道趣味者からの人気も根強いGTO(自己消弧型 : Gate Turn Off)サイリスタを使用したインバータ。
京急のドレミファインバーターや白い悪魔と呼ばれた都交5300形などが有名ですね。
この2車種は既に更新や廃車で姿を消しており、近年新たに新造される電車でも使われなくなってしまいました。
これから、2~3本程度の記事でGTOサイリスタ適用インバータの栄枯盛衰について概説していきたいと思います。
今回の記事ではまず「なぜGTOサイリスタが鉄道用インバータに使われるようになったのか」までを説明していきます。
なお、今回の記事では基本的に高校物理(4単位)程度の知識を前提に説明していきます。
また、三相交流やインバータ回路の基本的な解説はここでは割愛します。
必要に応じて他の動画や記事を参考にしてください。
併せて不安な方は以前の記事にも目を通しておいて頂けると幸いです。
それでは本題に入っていきます。
GTOサイリスタの特徴
何故GTOサイリスタ適用インバータが電車に使われるようになり、使われなくなっていったのか。
その理由は、GTOサイリスタの半導体スイッチング素子としての強み・弱みに要因があります。
GTOサイリスタの強み
- サイリスタと違いターンオフ(スイッチがオフ)できる
- 大容量化(高電圧・大電流化)が得意GTOサイリスタの弱み
- IGBTと比べて動作が遅い
- IGBTを使ったインバータより回路が複雑でデカい
- IGBTと比べて制御が難しい
最初に書いた通り、今回の記事ではまずGTOサイリスタの強みに着目し、「なぜ電鉄用インバータにGTOサイリスタが使われるようになっていったのか」について説明していきます。
GTOインバータが電車に使われた訳
GTOサイリスタ登場前夜 -サイリスタとの比較-
GTOサイリスタが電鉄用インバータに使われるようになったのは1980年代、まだ昭和の時代のことです。
それ以前の時代、実用的な半導体スイッチング素子はサイリスタと呼ばれる素子しかありませんでした。
ここでサイリスタとGTOサイリスタの回路記号を確認してみましょう。
この回路記号見覚えがありますよね。そうダイオードです。
ダイオードはアノードからカソードに向かって電気を一方向(順方向)にしか流せないという素子でした。
サイリスタはこのダイオードにゲートと呼ばれる端子が付いています。
ゲートにオン信号を入れるまでは、電気が流れないというのがダイオードとの違いです。そうダイオードと違ってスイッチオンを制御できるんですね。
じゃあオフするときはどうするのかな?って思いますよね。
「サイリスタは自分でオフできませんでした」
なんと、オンはできてもオフはできないとは困りました。
ゲートにオン信号を入れて順方向に電気を流し始めたサイリスタはダイオードと同じ状態で、制御できなくなってしまうんですね。
じゃあ、オフするにはどうするか。
ダイオードは逆方向に電気を流そうとしても流れないという特性がありました。サイリスタも同じ特性を持っていて、逆電圧をかけると電気が流れなくなる、つまりスイッチをオフにできます。
サイリスタに逆の電圧をかけてスイッチをオフするために使われたのが転流回路と呼ばれる回路です。ここでは詳しく説明しませんが、この転流回路は結構デカい回路で、スイッチの入り切りのスピードという点でもあまり褒められたものではありませんでした。
このサイリスタを使ってインバータを作った例もありましたが、大きさや性能の点で問題がありました。
ちなみに、電機子チョッパ制御や界磁チョッパ制御の電車たちは主にサイリスタを使って作られていました。
自己消弧型素子 -GTOサイリスタ- の登場
そんな時代にGTO(自己消弧型 : Gate Turn Off)サイリスタは颯爽と登場します。
このGTOサイリスタはなんと「自己消弧型すなわち自分でスイッチオフ可能」な画期的な半導体スイッチング素子でした。
このGTOサイリスタの登場によって電鉄車両におけるインバータを用いた交流電動機駆動化が加速していきます。
なお何故インバータ化による交流電動機駆動を目指したのかついては今回の記事では詳しく触れませんが、従来の直流電動機が有しているブラシ・整流子に起因する保守性の低さ、高速回転化の難しさ等が理由として挙げられます。
このGTOサイリスタの登場によって転流回路が無くてもスイッチがオフできるようになりました。
装置一台あたりに必要なスイッチの数が電機子チョッパ制御や界磁チョッパ制御(せいぜい1〜2個程度が相場)よりも多い三相インバータ(6個以上)においてこれは非常に大きなメリットです。
兎にも角にもGTOサイリスタの登場によって電車の床下に搭載できる現実的な大きさで三相インバータが作れるようになりました。
大容量素子 GTOサイリスタの強み
GTOサイリスタでは自分でスイッチオフできるようになりましたが、このような素子はパワートランジスタ(PTr : Power Transistor)など他にも存在しました。では、なぜ電鉄用インバータではGTOサイリスタがよく使われたのでしょうか。
それはGTOサイリスタが「高い電圧に耐えられ且つ大きな電流を流せる」という特徴を持っていたからです。
電車の架線には直流1500Vという高い電圧が加わっています。そのためインバータに使われるGTOサイリスタは4500Vという高い電圧に耐えられるものが主に使われていました。また、電車を駆動するにはモータに大きな電流を流す必要があり、これについてもGTOサイリスタは大きな優位性を持っていました。
そのため、黎明期の電鉄用インバータではGTOサイリスタが主に使われたんですね。
ちなみにJR西日本の207系電車のインバータにはPTrが使われましたが、高い電圧に耐えることができないため、架線の電圧を落とすためチョッパ装置(GTOサイリスタ適用)というものをインバータの手前に入れる構成になっています。
また、インバータ自体も3レベル回路と呼ばれる素子に加わる電圧が低くなるような構造になっています。
おそらく207系に使われたPTrが耐えられる電圧は1200V程度と推測され、当時電鉄用に使われていたGTOサイリスタ(4500V)の約1/4程度と低くなっています。
出典 : 三菱電機技報, Vol65, No.6, 1991, p.25-27
まとめ
今回の記事では、GTOサイリスタを使った電鉄用インバータが何故使われるようになっていったのか、GTOサイリスタ登場前夜からの流れを追いながら説明していきました。
簡潔にまとめると、サイリスタよりも使い勝手が良くて(自分でスイッチオフできる)、高い電圧と大きな電流に耐えられることから、電鉄駆動用インバータに適していたということになります。
さて、GTOサイリスタの登場により鉄道はインバータ化・交流電動機駆動化という現代にもつながる大きな転換点を迎えました。
次の記事では、そんなGTOサイリスタを使ったインバータが何故急速に廃れていったのかについて説明していきたいと思います。
それではまたいつの日か。
変更記録
令和7年1月13日 Ver. A 発行