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電気鉄道趣味者のための電気用語


Ver. B

これってどういう意味?

皆さんこんにちは、ensen-yです。
最初の自己紹介で書いた通り、少しずつ電気鉄道に関する技術解説コラムを書いていこうと思います。

電気鉄道趣味者の皆さんにとって、車両は最も好奇心くすぐられる対象なのではないでしょうか。新型車両がデビューすると、すぐさま鉄道雑誌等で車両紹介記事が掲載されることからも、多くの人の興味を惹く対象なのは明らかです。

そんな、車両紹介記事を読むと、ほぼ必ず車両の仕様について書かれていたり、それをまとめた表が出てきます。そしてそこに書かれているのは…

VVVFインバータ、IGBT、三相かご型誘導電動機、SiC、PMSM、PWM…

およそ通常暮らしていて聞くことはないであろう意味不明な単語やアルファベットが氾濫しています。
これを普通の鉄道趣味者の人たちに理解しろというのは中々酷なものです。しかし、それは分かっていても知りたくなるのがオタクの性。新車紹介記事に出てくる難しい単語をとにかく覚えて、調べて何とか理解しようとするのです。
この記事はとりあえず鉄道雑誌の車両紹介記事に出てくるレベルの用語をなんとなく理解できるようになることを目的としています。
プラスでどこかの誰かが理系や電気の勉強を始めるきっかけとなれば良いなくらいの感じです。
なので基本的に細かいことは書きません。あまり気を張らずになんとなく雰囲気をつかんでもらえればと思います。
なお本記事で解説する範囲は、最近の電車で一般的なインバータ制御電車で出てくる用語を基本とします。

インバータ制御電車って?

インバータ制御電車について簡単に説明します。
インバータとは、直流を交流に変換する装置のことを指します。直流や交流の意味が曖昧な人は「電気 直流 交流 違い」などで調べてみてください。
参考にNHK高校講座のリンクを張っておきます。
(電車が動く仕組みは高校物理くらいの知識があると結構分かるようになります)

大都市圏の通勤電車等では一般的に架線に直流の電気が流れています。この直流の電気をうまく調節して電車を動かすモータに流すことで、なめらかに電車を加速させることができるのです。
最近の電車は交流モータと呼ばれる交流で回るモータが一般的に用いられます。なので、架線の直流を交流に変換する装置が必要になります。そこで使うのがインバータです。
このインバータを使ってモータを制御している電車のことをインバータ制御電車などと呼びます。
とりあえず、インバータに関する理解はこれくらいでOKです。

電車で出てくる電気用語の大まかな分類

車両の記事紹介に出てくるレベルの電気用語はおおまかに以下の種類に分けられます。

  • インバータの制御や動作に関する用語
    例:VVVF、PWM

  • インバータに使われるスイッチング素子の名前
    例:IGBT、GTO、MOSFET

  • インバータに使われるスイッチング素子の材料の名前
    例:SiC

  • インバータで駆動するモータの名前
    例:かご型三相誘導電動機(IM)、永久磁石同期電動機 (PMSM)

これらの用語の分類について分かっただけでも大きな前進ですが、一応それぞれの用語についても簡単に解説します。

インバータの制御や動作に関する用語

VVVF(可変電圧可変周波数:Variable Voltage Variable Frequency)

図1 電鉄用VVVFインバータの外観 (京急1000形 1890番台)

VVVFは鉄道趣味者にとって一番有名な電気用語と言っても良いでしょう。VVVFはインバータをどのように動かして、モータの回転を制御しているか、を指しています。
電車を動かしているモータを滑らかに制御するには、実はモータにかける電圧と周波数(1秒間に交流のプラスマイナスが入れ替わる回数)を制御する必要があります。
詳しいことはさておき、実際の電車では停止状態から徐々に電圧と周波数を上げていっています。これを実現するにはインバータの出す電圧周波数可変である必要があります。この制御のことを可変電圧可変周波数(Variable Voltage Variable Frequency)制御と呼び英単語の頭文字をとってVVVFと呼んでいるわけです。
つまりVVVFは電車を滑らかに加速させるためにインバータが電圧・周波数を可変制御していますよ、ということ表している単語ということになります。

PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)

VVVFと比べるとPWMはあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、こちらも車両紹介記事に割と書かれていることが多いので簡単に解説します。
PWMはパルス幅変調(Pulse Width Modulation)の頭文字をとったものです。PWMは先ほど説明したVVVFの「可変電圧」制御に使われています。
インバータでは電圧を制御するためにスイッチ(半導体スイッチング素子)をオンオフさせています。
よく使われる例が、部屋のライトのスイッチを素早くオンオフさせると薄暗くなったように見えるというものです。
1秒間のうち0.5秒オンして0.5秒オフすれば平均すると元の電圧の半分になっていますよね、といった具合です。
スイッチを一回オンオフする間(スイッチング周期)におけるオンとオフの時間の幅(=パルス幅)の割合を制御することで、平均電圧を制御しようというのがPWMの考え方です。
ちなみに、電鉄用インバータでは1秒間に数百~数千回くらいスイッチをオンオフしています。このスピードでオンオフすると普通のスイッチは壊れてしまうので、半導体スイッチング素子と呼ばれる半導体でできた可動部のないスイッチを使います。
つまりPWMとはVVVFインバータの出す電圧を制御する方法について表した単語ということになります。

インバータに使われるスイッチング素子の名前

インバータには半導体スイッチング素子を使っていると説明しましたが、この半導体スイッチング素子にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。
この特徴についての説明はまた別の機会にしたいと思います。
電車のインバータに使われているスイッチング素子は主に以下の3種類です。

  • GTO (自己消弧型:Gate Turn Off) サイリスタ
    よくGTOと呼ばれますね。初期に実用化されていたサイリスタと呼ばれる素子はオンはできてもオフはできないという、なかなか尖ったヤツでした。それが自分でもオフできるようになったのがGTOサイリスタです。すごい画期的な素子でしたが、色々な理由からここ最近に新規で製造される電鉄用インバータには採用されていません。

  • IGBT (絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolar Transistor)
    今の電車のインバータで最も一般的に用いられる半導体スイッチング素子です。

  • MOSFET (金属酸化被膜半導体電界効果トランジスタ:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)
    後述する新しい半導体材料、SiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)の実用化により使われるようになりました。

ここではGTOやIGBTというのはインバータを構成する主要な部品である半導体スイッチング素子の名前を指しているということが分かればOKです。

インバータに使われるスイッチング素子の材料の名前

最近よく聞くSiCってやつ。これはインバータに入っている半導体スイッチング素子の材料を指しています。
私たちが普段使っているスマホの中に入っている半導体や今までのインバータに使われていた半導体スイッチング素子はシリコン(Si)で出来ていました。IGBTやGTOサイリスタも材料はシリコンです。
図2がシリコンインゴットと呼ばれる半導体の元になる材料です。これを薄くスライスしたものが図3に示すシリコンウエハと呼ばれるものです。この丸いシリコンウエハに半導体素子を作りこんでいき、最後にダイシングと呼ばれる過程で四角くカットしたら半導体の出来上がりです。ぱっと見だと半導体スイッチング素子もパソコンとかに入っている半導体と大きく変わらない見た目をしています。

図2 シリコンインゴット
図3 シリコンウエハ

最近インバータをもっとエコにするために材料をシリコンからSiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)に変えた半導体スイッチング素子が現れました。
ちなみに今のところ電車では、SiC材料を使ったものではMOSFETが、Si材料を使ったものではIGBTやGTOサイリスタといった具合にある程度材料と素子の種類が紐づいた状態になっています。
これにも、色々と理由がありますがここでは割愛します。
また、フルSiCやハイブリッドSiCといった単語もよく見かけますが、こちらについても別の機会で説明しようと思います。
とりあえず、SiCというのはインバータの主要部品である半導体スイッチング素子の材料の名前ということだけ分かればOKです。


SiCのスペルについての補足

みなさん理科で周期表というのを覚えたかもしれません。元素の名前や元素記号が沢山書いてある表です。
それを見るとケイ素はSi、炭素は大文字のCと書いてあると思います。
だから炭化ケイ素はSiCと書くわけですね。
なので、SICとかsicとかSicなどといった表記は全て誤記で化学のテストで書くとバツになります。組成式の書き方のルールは高校化学の解説等に書いてあります。復習したい方はこの機会に是非。

インバータで駆動するモータの名前

かご型三相誘導電動機(Incution Motor)PMSM(永久磁石同期電動機:Permanent Magnet Synchronous Motor)は電車を動かすために使っているモータと呼ばれる機械の種類を指しています。今、電鉄用主電動機で一般的なのは誘導電動機です。安価で堅牢なのが売りでまさに電鉄駆動用にピッタリな存在です。
PMSMはモータの回る部分に永久磁石を用いていて、エコなのが売りですが使用する永久磁石が非常に高価なので東京メトロや阪急以外の事業者でまとまった数は採用されていません。
最近、福岡市営地下鉄の新型車両に誘導電動機とPMSMのいいとこ取りのようなSynRM(同期リラクタンスモータ:Synchronous Reluctance Motor)が世界で初めて量産採用されましたがまだまだマイナーな存在です。
とりあえず、PMSMや誘導電動機というのはモータの種類の名前で、インバータ自体とは全く関係のない単語であるということだけ分かればOKです。

まとめ

はじめての記事なので、簡単に書いてみました。
なんとなく、電車について調べていたら聞いたことのある電気に関する用語について内容を理解まではできなくとも、とりあえずそれが何を指している言葉なのかくらいは説明できたかなと思います。

本当は図とかもたくさん作って貼りたかったのですが、最初に完璧を目指すよりとりあえず書いてみたという感じです。追加で編集もできるみたいなので、気が向いたら図を足したり加筆したりしていきます。
今回の記事ではあえて専門的なことについて書きませんでしたが、次回以降は、GTOサイリスタ適用インバータから順に色々書いていこうと思います。
基本的な原理が分かっている前提になるので難易度はかなり上がるかもしれませんが、入り口は簡単にして詳しく知りたい人向けに専門的なこともかければよいなと思ってます。

それでは、またいつの日か。

令和7年1月7日


変更記録


令和7年1月7日  Ver. A 発行

令和7年1月8日  Ver. B 発行 
一部誤記修正。パルス幅変調の説明を加筆修正。
SiCのスペルに関する説明を追記。
モータの名前に関する解説に一部追記。




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