見出し画像

唯一の顧客にして、最強のクレーマーへの対処法~歯列矯正している人も吹ける(?!)ファゴットリードの作り方 後編~

アンサンブルSAKURAファゴットパートによるリード作りの記事の後編です。

※前編はこちらからどうぞ

今回はリードの製作工程を特集します。工場見学の気分でご覧ください。

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

それでは、技術的な話に入ります。

用意するものは色々ありますが、多分一番大事なのは「ケチケチ魂」

完成品のリードは1本あたり1,900円~3,000円ぐらいはしますが、かかる手間と時間を考慮すると破格であるというのは間違いありません。アマチュアは週末ぐらいしか楽器を吹きませんから、お金を出して練習時間を確保するというのは極めて合理的です。

しかし、それを理解しながらも、出費を抑えたい!という思いが断ち切れないドケチな人は、きっとリード作りの適性があるに違いありません。ほかでもない、私です。家では名前をもじって「ケチマ」と呼ばれています。考えてもみてください。趣味であるファゴットのリードのために、月に家計から5,000円、10,000円が出ていくんですよ?発狂するレベルです。自作していなかったら楽器をやめてるかもしれません。

では、プロファイルドかまぼこケーンの状態からの組み立て方です。

材料はこちらです。

写真の左側1列、上から
・プロファイルドかまぼこケーン(私のものはリーガー、妻のものはリゴティです)
・針金(真鍮の0.65mmのもの。ホームセンターではあまり売ってないようです。都内だと浅草に針金のお店がありますので、そこで入手します)
・糸(綿100のもの。手芸屋で購入します。お好きな色でどうぞ!あまり細いと巻くのが大変ですので、程ほどの太さで)
・セメダインC

工具はこちらです

写真の真ん中の列の上から
・カッターナイフ
・リードナイフ(肥後守も可)
・耐水紙(400、600、800、1,000)
・ダイヤモンドヤスリ(大小違う大きさのものがあると便利)
・ラジオペンチ
・15cm定規(1/10mm単位も測れる、目が細かいものがあればなおよし)
・丸材(ホームセンターで数十円で、端材として売られてます)
・シェーパーハンドル&ティップ(私はリーガーのH2を使っています。ほかにも1a、4なんかは私好みです)
・マンドレル(丸い菜箸でも可)
・リーマー(波板切りも可。ホームセンターで安く調達できます)
・ドライングボード(かまぼこ板など、任意の木の板とゴルフのティーをセメダインでくっつけて自作します。既製品は買うと高いです)
・リードカッター(まっすぐな刃先の爪切りも可)
・プラーク(リードを削る際に使う、プラスチック製の下敷きのようなものです、写真に写ってないので後述します)

完成品のサイズ感

材料名:リーガー(W夫が使っている仕様です)

・全長:56.5mm
・振動部の長さ:29mm
・第一ワイヤ(振動部に近いワイヤ)⇔振動部:2mm
・第二ワイヤー⇔振動部:11mm
・第三ワイヤー(糸に隠れてます)⇔リードの差込口:5mm

材料名:リゴティ(W妻が使っている仕様、とにかく軽い)

・全長:55.5mm
・振動部の長さ:28mm
・第一ワイヤ(振動部に近いワイヤ)⇔振動部:2mm
・第二ワイヤー⇔振動部:11mm
・第三ワイヤー⇔リードの差込口:5mm

組立の手順

①ケーンを水につけます(2時間ぐらい)

②丸材に耐水紙を巻いて、ケーンの内側を削ってならします

ざらつきをなくす感覚です。600番の耐水紙で、軽い力で、6往復程度で十分かと思います。

③ケーンを半分に折ります

鉛筆で振動部の真ん中が分かるよう、定規やイーゼルを使って印をします。
写真のように定規を当てて目印をもとに半分に折ります。正確に、真ん中を真っ直ぐ折りましょう。

④シェーパーにセット。カッターで削ります。

こんな感じです。


セットする位置は毎回同じにするように。H2の場合、リーガーもリゴティも先端から2mm下げて(離して)セットしてます。
削ります。撮影のため手を離してますが、このようなことはせず、削り出す幅は少しずつ、刃は一気呵成に動かして切り出してください。あまりに大胆に切り出すと不必要なくらい材に食い込みます。刃を当てる角度はケーンにたいして垂直(=シェーパのサイドの面に対して垂直)です。

⑤不必要な差し込み口はカットして、全長の長さを決定します

爪切り型のリードカッターで、根本(表皮が残っている部分)を完成品のサイズに仕上げます

⑥サイドのバリを粗めのヤスリで削り、上下を揃えます

ここで上下を揃えることは大切です。粗めの番手の耐水ペーパーで上下をきれいに揃えてください。振動面にたいして垂直に当ててください。つまり、シェーパーでの削り出しと同様です。この行程をサボると息漏れの原因となります。美意識をもって丁寧に作業願いします。やりすぎるとリードの形が変わりますので注意。

⑦面取

差し込み口の内側のサイドの部分を落とします。1/10mm、太めの髪の毛(犬や猫のヒゲよりは細い)1本分程度です

⑧割れ目をいれます

丸材にケーンを置いて、その上からカッターで刃をいれる。ここでしっかり割って下さい。片方に5本~6本程度いれればいいです。
便利な道具もあります。リード割り機。私は普段こちらを使用してます。

⑨第一ワイヤーを巻く


巻きはじめの面の裏でクロスさせます


巻きはじめの面に持ってきます。写真のようなクロスの場合、反時計回りに引っ張りつつ回します


引っ張りながら巻く



余った針金は切り取ります。


第一ワイヤーを巻いて下さい。振動部の端から2mmです。割れ目が振動部に向かわないよう、しっかり巻き上げます。引っ張りながら巻くのがコツです。第一ワイヤーは一度巻いたら触りません。その後、この写真のようにマンドレルを差し込みます。
少しずつ、割れ目をいれながら、マンドレルを差し込みます。第一ワイヤーより先に割れ目が行かないよう、各割れ目を均等に少しずついれていきます。
徐々にマンドレルを差し込みます。リーガーのF5なら、マンドレルの線から4mm程度深くリードを差します。要するに、差し込み口(リードの尻)の円がきれいに仕上がる深さまでということです。

⑩第二、第三ワイヤーを巻く

第二、第三ワイヤーの順にワイヤーを巻きます。第2ワイヤーは振動部から1.1cm、第3ワイヤーは差し込み口(リードの尻とも言いますかね)から5mmです。引きながら、巻く。しっかりと巻いて下さい。巻いた針金をつまんで動かしてもぐらつかないくらいです。しっかり締めます。
第一、第二、第三ワイヤーは、向きが交互になるよう巻きましょう。
第三ワイヤーを巻いた後は第二ワイヤーより下の部分を複数箇所(できるだけ多数)押さえて、ペンチで形を整えてください。

⑪一晩干して乾かす

ドライングボードに立てて干します。しっかり差し込んでください。乾く過程で差し込み口の円の形が安定します。この状態なら作り置きができるので、時間があるときにこの状態(プッぺ)を沢山作ってストックにするといいです。

⑫糸巻き

まずは干すことで緩んだ針金を締めます。引っ張りながら巻いてください。ペンチで根本を押さえつつ、第2ワイヤーから下の部分の形を整えます。セメダインを第二ワイヤーから下の部分に塗ります。薄く塗ります
まずは第三ワイヤーのあたりで糸を結びます。予め輪を作ってからリードを通して結ぶとやりやすいかと。余った糸はハサミで切ります。
庭の水やりのホースを巻き取る要領でまずは針金の頭がおおよそ隠れるぐらいまで巻きます。写真のようなイメージです。この状態から、糸を一定間隔でずらしながら巻きます。
半周して巻いた糸の上側、また半周して巻いた糸の下側、となるよう巻きます。写真は上側に寄せた際のものです。1mm~2mm程度(好みです。最初は今吹いているリードの糸玉に合わせるのがいいかと思います)、等間隔にずらしながら巻きます。最近は、この写真のものよりも間隔を取って巻いてます。
このように、最初に水やりのホースを巻き取る要領で巻いた部分が隠れれば(写真の状態からですと、あと1~2周巻きます。)
第二ワイヤーに向かって1重となるよう巻いていきます。
第二ワイヤーまで到達したら最後は結んで、
余った糸は切ります。

⑬セメダインを塗る

重ね塗りの必要は無いです。全体に薄く塗ります。
一晩放置

削り

生憎、我が家にはキャリパー、硬度計などが無いため、ここから先は感覚論になってしまいます。申し訳ございません。

①リーマーでリードの差し込み口を整えます。

糸玉のある方にリーマー、もしくは波板切りを入れて、回しながら削ってください。時々、ボーカルに差して刺さり具合を調整下さい。目安は、糸玉の振動部に近い方の端に、ボーカルの先端が到達するぐらいてす。

※乾いた状態で削るようお願いします。濡れてる状態でリーマーをかけると、リードの内側にささくれができます。

②先端をカット

リードカッターで、振動部の先端をカットします。写真の押しきり型リードカッターで先端をカットした後に、爪切り型のリードカッターで、角を45度に切っておくのがいいかと思います。
基本的に私は発音を重視するので45°でカットします。30°でカットする人もいます。

③カッターで先端を削る
絶対に削り落とすであろう、リードの振動部の先端2mmを、カッターで削ります。

④ダイヤモンドヤスリでならす

③で削って出来た段差を解消します。

⑤リードナイフで先端から1センチぐらいを削ります。河川の扇状地のような形をイメージしてください。

まずは、完成品の倍ぐらいの厚みぐらいになるよう削ります。
つい最近、メーキングマシンを買いました。これによって③~⑤の工程を楽に行うことが出来ます。細かな設定等をまとめてまた記事にします。

調整

念頭におくべきことは、

アンブシュアもそこそこに、なにも考えずにmfの息で吹いて、下から2つ目のCは素直で正確な音程で鳴らせるか?

です。ここで息の圧力をエイヤと調整しないと音程が安定しないリードは、先端を切って短くするなり、削るなり調整した方がいいかと思います。調整してもしきれないものは、さっさと捨てて次へ行きましょう。

①中音域のD、Esが低い

先端を0.5mmずつ切りながら先端を削ってください。振動部の長さが長いです。カットすると必然的に先端の厚みが増すので、併せて削りましょう

②抵抗があるので全体に軽くしたい

振動部の根本1/3の範囲を削りましょう。ただし、リードは先端に向かって段々薄くなるものですので、それは崩さないように。

大きめのダイヤモンドヤスリが役に立ちます

③音色を柔らかくしたい

中心付近だと先端3mm、サイドだと1cmの範囲を薄くします。先程のべた「扇状地」を意識して、大きな段差ができないよう、なだらかに、先端に向かって薄くなるよう削ってください。真ん中はサイドに比べて厚いです。

④息を入りやすくしたい

リードの先端から1cmの真ん中付近を削ります。やりすぎ注意。

⑤落ち着いた音色にしたい

リードの振動部の根本から1/3ぐらいのところから、リードのサイドに近い振動面を削ります。ここでも、リードは先端に向かって段々薄くなりますので、途中を削って凹ますことがないよう注意です。リードを削ってて迷ったらここを削ると良くなる、ということがよくあります。大きめのダイヤモンドヤスリを使うといいです。

ヤスリをワイヤーに対して70°にして、先端の方に向けて押し出す動きをするといいです。写真よりもヤスリを時計回りに回して角度をつけてください

仕上げの行程は、複数日に分けて行いましょう。

ワイヤーの調整

まず、調整の前にリードを1分ほど水に漬けます。完成リードは日々気圧や湿度で調子が変わりますので、まずはワイヤーでリードは調整しましょう。

①第一ワイヤー(先端に近いワイヤー)

左右からペンチで挟む:先端が開きます。
上下から挟む:先端が閉じます。

冬場など、水に浸けてもリードが収縮し針金が緩い時は、第一ワイヤーを締めます。締めすぎ注意。逆に、なんだかきつくて音が出づらいというときはワイヤーを緩めます。1/8回転ぐらいです。

②第二ワイヤー

ペンチで挟むところは①の逆です。

③第三ワイヤー

処置なし。糸を巻く前にちゃんと完成品の状態にするようお願いします。

上記のような過程を経て、リードが完成します。

リード自給率を高めよう

リードの自作は手間がかかるのは確かですが、楽器店のリードの在庫、制作者の都合という外的要因に左右されず、自分自身のパフォーマンスを一定に保つためにも、習得した方がいい技術と言えるでしょう。

リードを自作できれば、気に入ったものが出来るまで、時間を捻出して新しく作り続ければいい。軌道に乗ってくると、困難な楽曲に相対するときの余裕が明確に異なります。私も、完成品リードを使っていたのでは先日の演奏会で「本日、天気晴朗ナレドモ浪高シ」とはならなかったでしょう。コントロールしやすいリードが手元にあったからこそ、士気の高い状態でチャイコフスキーの作品に対峙することが出来ました。


コロナ禍もあり、楽器店における試奏の本数が制限されています。社会保険料の高騰に伴い、サラリーマンの手取り収入が伸び悩んでいるのも事実。限られた本数、時間、お金の中で、お気に入りの1本、銘柄を見つけ出すのは至難の技です。

アマチュアだからと遠慮をする必要はありません。ファゴット奏者各位におかれましては、ぜひお気軽にリードの自作にチャレンジいただければと思います。より深く、楽しく、楽器と音楽に向き合うことが出来ます。

最後に、大事なことを。

質は量から生まれます

数をこなさないことには、いいものは出来ません。上手くいかないからと諦めず、納得の行くものが出来るようになるまでリードを作り続けることは、当たり前ですが最も大切です。
そして、出来ることなら、リードに対して他人からのフィードバックを受ける環境に身を置くことです。事実を受け止め改良を加えることで、磨きがかかります。逃げ足は、遅い方がいい。

ご質問等ございましたら、アンサンブルSAKURAの各種媒体へご一報ください。私の知りうる範囲で情報をお伝えします。このファゴットという楽器で、技術面で苦しむ人を少しでも減らし、一人でも多くの方が楽しく演奏できる、その手助けが出来れば本望です。

【面白かった!と思われましたら下にある❤️をタップして頂けると幸いです!よろしくおねがいします!】

【弦楽器、バストロンボーン団員募集中】

♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬
アンサンブルSAKURA第39回定期演奏会
日時:2023/3/19(日)昼公演
会場:浅草公会堂
指揮:高石治
曲目:
ビゼー/カルメン組曲
久石譲/オーケストラストーリーズ組曲「となりのトトロ」ほか

公式HPhttp://www.portwave.gr.jp/sakura/

公式notehttps://note.com/ensemblesakura

公式Facebookhttps://www.facebook.com/profile.php?id=100057414580557

公式Twitterhttps://twitter.com/sakuraoke?t=xZ9PrGeCp4WgLrkQEBKgkA&s=09

♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬