生きるために食べる
「美味しいご飯はどこから食べるのかな?お耳かな?お鼻かな?」
保育園の小さな子供たちに問いかけると
「お口~!」元気な答えが返ってくる。
口から食べること、それは当たり前なことではない。
私は長い間、口から食べられない方や、好きな物を思うように食べられない方達を多く見てきた歯科衛生士だ。
美味しく食べて栄養を摂るために、歯が無くては嚙めない事、唇の筋力が無ければ食べ物が口からこぼれ落ちブクブクうがいもできない事、舌の筋力が
落ち動きが悪くなると飲み込むのが難しくなること・・・
加齢に伴って、身体の筋力と共に食べる為の口の筋力も低下し始めることを
オーラルフレイルと言うのだが、あまり知られていないのが現実だ。
運動して身体を鍛えること、栄養バランスの良い食事を摂ることは
みんな知っているが、健康な口がまず大切だとは知らないのだ。
私の母はアルツハイマーで長く施設にお世話になっているが、1割負担で1か月に12万円ほどの利用料が掛かっている。10割にすると1か月に約120万円だ。9割が税金だと考えると恐ろしくなる。
以前、訪問診療の医師が「今まで頑張って来たんだから、高齢者にお金をかけて良いんだ」と言われたが、まだ母は元気だったので必要のない訪問診療は税金の無駄と断った。医療にビジネスの臭いがしたのを思い出す。
満足に食事がとれていない子供たちや、働いても生活が苦しいシングルマザーの女性たちが居る。食べることがままならなくては良い教育はできない。この先の未来、高齢者が自分の口から美味しく食べて、元気に自立した生活がおくれ、誰かのために働くことができたならどんなに幸せなことだろう。住み馴れた家で暮らし続け、最期の数か月だけ介護保険のお世話になるとしたらどうだろう。未来ある子供たちに残すものができるはずだ。
この間、私に介護保険証が届いた。とうとうきたかと少し驚いた。
明日はどうなるかわからない人生、歯科衛生士として伝えたいことは
沢山ある。講演会をやっても、若い頃と違い自分も老いてきているので
説得力が増してきているし、エピソードも頭の引き出しから溢れるほどになった。日本中いろんなところで話してみたい。口の健康の大切さを伝え、元気になってもらいたい。自分の健康を守ることで周りのみんなも幸せになるというメッセージも込めて。
生きるために食べる。私達の未来はそこから広がるのだ。