映画レビュー:海獣の子供
五十嵐大介の描く漫画は、野生児のような自然的感性とダイナミックな絵柄に惹かれますね。映像化のニュースを聞いたときには、果たしてあの絵柄を映像で再現できるのだろうか…と思っていました。制作は松本大洋の鉄コン筋クリートを映像化したSTUDIO4℃です。鉄コン筋クリートと海獣の子供の共通点は、大胆な絵柄、スケールの大きいストーリー、映像化が非常に困難である、と言ったところでしょうか。
原作の絵柄を映像で再現出来ているか、という点では全く問題ありませんでした。原作の魅力の一つでもある海洋学やオカルトの蘊蓄が省かれているのは尺を考えれば致し方ない事かと思います。より多くの客に観られる事を意識して、という理由もありそうです。しかしながら、目まぐるしく動く膨大なストーリーをよくぞ美しく纏め上げました!個人的にはSARUの映像作品を観てみたいという欲求が押さえられませんが、その場合、観客は原作のファン、オカルトマニアや宗教に明るい方々、文化について深い造詣のある好事家に限られそうです。
映画はどうしても費用の面から観客動員数がモノを言うので、マニアックなつくりにすると人を呼べません。して、映画ではこれが最適解かと思います。多少、蘊蓄を織り混ぜてくれても良かったかな、とは思わなくもありませんが。原作付きのジレンマはそこですね。
デデとメインキャラクターとの絡みが薄いのも少し気になりました。三部作にして掘り下げるというのもアリですが、勢いが失われる危険も孕んでいるので、そこは避けたかったのかと。
細かい部分はともかく、大胆な絵柄と濃密なストーリーを楽しめるので、蘊蓄が無い!と怒る原作ファン以外の全ての方におすすめできる作品かと思います。