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『冷やし中華の終わりと、戦国A LIVE(アプリ版)の終わり』

自分でつくるのがもっともおいしい食べものランキング個人的1位、冷やし中華。
2位は同率でコロッケと餃子、3位はポテトサラダ。
すべて母のレシピ。

冷やし中華は、寿がきやの袋タイプがおいしい。

これ🌼

名古屋で生まれ育ったのでマヨネーズは必須。
具は卵焼き、ハム、きゅうり、カニカマ。
コンビニや町中華だとハムではなく焼き豚の場合があるけれど、絶対に、人類が滅亡したとしても、冷やし中華にはハム。
宇宙人が読むかもしれない文献に遺しておきたい圧倒的真実。

高校生のときに付き合っていた先輩が、

「焼き豚じゃなくてハムの冷やし中華ってなんかガッカリしん?」

などと言ってきて、(合わないなぁ)と思ったことを憶えている。
でもその時はぶりっこしていたので「焼き豚のほうがガッツリって感じですよね」とかなんとか薄っぺらい言葉を返した記憶がある。

その先輩とは基本的に本来の自分の心にも外見にも精一杯トッピングした姿で付き合っていたので、回転寿司に行った時も、普段は10皿くらい食べられるのに3皿しか食べなかった。
ごはんはいつも先輩が奢ってくれたから普通に食べるわけにはいかない気がしていた。

忘れもしない。
まぐろとえんがわとミートボールの3皿。
本当はいくらが大好きなのに、魚卵を食べる自分のビジュアルを客観視すると気持ち悪いように思えて食べられなかった。今考えると笑える。いくらって宝石のようにつやつやぴかぴかで最高にかわいくておいしいのに。

たった3皿で「おなかいっぱいです」とのたまったわたしに、「女の子って少食だよね。お寿司屋でミートボールとか食べちゃうのもかわいいよね」と嬉しそうにほくほく笑いかけた先輩……やばめの女に執着されて人生躓いてそう。でも地元のツレの力で立ち直ってなんだかんだ元気に幸せに生きていそう。

先輩はえんがわが大好きで5皿も食べていた。
お魚がおいしい海辺の町で育ったのに、名古屋の100円寿司のえんがわをうまいうまいと食べていた先輩。
100円寿司と、地元のツレがバイトしている焼肉屋が三度の飯より大好きだった先輩。
いろんな感覚が合わなかったけれど、根っこが大らかで優しくて地元のツレとご両親に大切にされ、大切にしている人って感じがあった先輩。
先輩がもし映画の登場人物だったら、優しい日常系ハートフルなオフビート邦画って感じだ。自分の創るものを信じている監督が脚本も担当する映画。配給会社はビーターズ・エンドさんとか。

そういう人と一緒にいると、自分もそういう世界の登場人物のように思える。
わたしとはまったく違う物事のとらえ方をする先輩のことがちゃんとすごく好きだったので、自分をトッピングするのもぜんぜん苦じゃなかった。
先輩との会話のなかで、1ミリも思っていない優しい言葉を口にしてみた瞬間、(あれ?意外とこういう考え方はしっくりくるな)と、新たな自分の一面を良い意味で発見できたりもした。
完全に大人になって「ありのままの自分」とやらを他人と共有する心地よさを知った今でもわたしは、恋をして背伸びしたり自分を偽ったりしてしまう人をかわいくて愛しいと思う。
幸せになってほしいって思う。

先輩のことでもうひとつ強烈に憶えているのは、先輩の車のダッシュボードに敷いてあった、変なファー。
先輩は高校在学中に免許をとりにいって、親から貰った車をせっせと改造していた。
「自分の車のインテリアは超かっこいいのに、姉ちゃんの彼氏にめちゃくちゃ馬鹿にされる。とくにファー。姉ちゃんの彼氏にいつも爆笑される」とたまに愚痴を言っていた。
わたしも内心はお姉さんの彼氏に同意だったけれど「ファーってあったかそうだし助手席にのってると楽しい。ふわふわでかわいいし」とかなんとか言った記憶がある。
乙女ゲームの3つの選択肢の中の、正解でも不正解でもないふわっとした中間回答みたいだなぁ。

しかしやっぱり冷やし中華に焼き豚が合うなんて感覚の男は、車のダッシュボードにファーを敷きつめてしまうんだ。
冷やし中華の焼き豚は車のダッシュボードのファーなのだ。

何度でも書くけれど、冷やし中華にはハム。
それも分厚いやつじゃなくて、スーパーで数百円で売っているぺらぺらつやつやのハム。それを細切り。
焼き豚の冷やし中華を食べるか死ぬかの2択だったら、……さすがに焼き豚の冷やし中華食べるけどでもやっぱり冷やし中華にはハムなのだ。

冷やし中華は家でしか食べないので、誰の目を気にするでもなくしっかりと混ぜて食べる。
ひとくちの具材のバランスが大切。
ひんやりつるしこ麺、ハム、玉子、かにかま、きゅうりが同じくらい一気に口のなかに入るのがおいしい。
シャキシャキのきゅうり。
ちょっと焼きすぎた卵のぎゅむっとした感じとかも。
いろんな食感が楽しい。
口のなかが忙しいから、わたしはごはんをせっせと食べている、って感じられるところも冷やし中華の好きなところだ。
暑い夏の、日常のご褒美。

ぐつぐつ湯を沸かし、キュウリを洗って、刻む。ハムも切る。かにかまは割く。卵を焼いて、切る。
母は卵が熱いままで冷やし中華がぬるくならないよう早めに焼いて切って冷蔵庫にしまっていた。
そこまではわたしにはできない…。母は偉大。
まあ、そこまでしなくともつくる工程に手間がかかるし、そのわりに難しさはないので完成度が高い。
マヨネーズでお好み焼きにするがごとく綺麗な網掛け模様を完成させた時の達成感はすごい。

写真はそんな手作り冷やし中華の、今年最後の一食。
今年はいっぱい食べた。
全部おいしかった。
冷やし中華の味ってブレがない。安定。
来年もよろしくお願いします。


おいしい🌼

2024年最後の冷やし中華を作りながら、今年の夏はもうひとつ終わってしまったものがあることを考えたりしていた。
メインストーリーを担当している『戦国A LIVE』という音ゲーアプリだ。
会社は10ANTZ様。
戦国武将が現代にタイプスリップしてきて歌で天下をとる──
というストーリー。

戦アラさんの1部を書いていた時期。
別件で、ちょっともうこの仕事は無理かもな、と思うほど悲しいことがあった。
あの年の夏は人生で1番しんどかったかもしれない。
ごはんもろくに食べられなくなり、冷やし中華も1度も食べなかった。
正直どう日々をすごしていたかあんまり思い出せない。
でも、ぼーっとしていると苦しい考えばかりが頭のなかに際限なく沸き出てくる状態だったので、仕事だけは粛々とやっていた。
過去や未来を思い悩まず目の前のことに集中しようとはよくいったもので、戦アラさんの1部を書いていると、ほんとうにそれだけに集中できたので、苦しいことをずっと考えなくてよい時間を強制的に作れたのは、わたしにとってはかなりの救いになっていたと思う。
戦アラさんのキャラクターたちも、ストーリーの内容も、しんどい気持ちを抱えつつもなにひとつ上手に放棄できないという状況のわたしにとても澄明な活力を与えてくれるものだった。

その時期はほんとうに辛くて。
でも戦国武将たちのことを調べていると、彼らが当たり前にもつ生きることへの肯定に息を呑む瞬間があった。
彼らにとって生命は当然肯定されるべきことなので、何かを証明したり切に訴求したりするとき、自らそれを断ち切る切腹などの価値も重いのではないだろうか。

音ゲーアプリとしては終わってしまう戦国A LIVE。
ありがたいことに、ストーリーの連載は『Pipmey(ピプミー)』【https://pipmey.jp/top】さんで続いてゆく。

けれど、往年の名曲をカバーした楽曲の音ゲーを楽しんでいた方たちや、毎月配信されるイベントごとに制作されてきたキャラクターの新ビジュアルやイベントストーリーを楽しみにしていた方たちもたくさんいるだろう。
そういう要素は、今までとまったく同じようには継続できないのだと知って、(メインストーリーがもっと違うものだったら、もっとユーザーさんに長く、たくさん楽しんでもらえたかもしれないのに)と、自分の力不足を悔いた。
それは今も、ずっと心にある。
でも、3部以降も依頼をいただいている今日、自分の立場でできることは、メインストーリーの続きを楽しみにしてくれている方々のために全力で書いていくことだけなのだろうなと思う。

たくさんの人の労力と努力で存在する物事が、苦しい方向に動いた時。
全部が自分のせいだと思うのは傲慢がすぎる気がする。
逆に今回のわたしの場合、自分は与えられた立場でやれることは全力でやったからこれ以上できることは無かったと思考をそこで止めてしまうのもまた傲慢だし、芯からそういう心の人間だったとしたら戦国A LIVEの武将たちを書くことはできないとも思う。

わたしにとって、戦国A LIVEの原稿は、「もう少しこの仕事と誠実に向き合って生きていくぞ」という気持ちを立て直す栄養剤だった頃があり、おかげでまだシナリオライターを続けていて、今年は冷やし中華も食べられた。
いろんな意味で感謝の気持ちしかないし、
『ストーリーが好きだ』と運営さんに感想を届けてくれた方々のおかげで、3部以降をお届けできることにも、感謝の気持ちでいっぱいです。

ひとつ、誤解しないでほしいのが、
これを読んでくださっている人のなかで、
今、他人の悪意や不誠実さで酷く苦しい状況に陥ってしまっている人がいたら、
ひとまず、自分を絶対に責めないでいてほしいです。
それがとても難しいことだと、わかっているけれども。

生きていると、ほんとうに自分ではどうしようもないことがあって。
何もかも放棄したいけれど、放棄する選択をしたって結局辛い、
どうあっても辛い、
そもそもわたしも到底完ぺきな人間じゃないからこのしんどさの原因はわたしにもあるだろう、
というか…全部私が悪いのでは?、
えっじゃあ逃げ場ないじゃんなにこの人生、
これからもこんな自分と一緒に生きていかなきゃいけないのか…やば……、
みたいにぐるぐるぐるぐる考え続けて抜け出せない時って、あると思うんです。

なんとか気持ちを立て直したくてtwitter(現X)やYouTube、
本などに学びや救いを求めると、
「心が完全に壊れる前にとにかく休め」って言葉がたくさんあって、
それは本当に絶対的な真実なのだろうけれど、
『休んでも結局べつの問題が発生するし、そもそも休む自分を許容できないよ、心の中に辛くて苦しい要素が増えるだけだよ』って状況の人も、いると思うんです。

そんな時。
冷やし中華すら食べられない日々を、なんとかがんばってもう少しやっていくという選択をした時。
心の栄養剤のひとつに、
戦国A LIVEのストーリーがなれたらいいなという思いをこめながら、
3部を大切に書いていきます。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

最後に重要なことを。
冷やし中華は焼き豚派の方と、車のダッシュボードにファーを敷き詰めるのはかっこいいと思っている方。
ごめんなさい。

おしまい

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