映画『ばるぼら』
映画『ばるぼら』を観た。幻想的で耽美、エロティックでオカルトもある愛の物語。
原作:手塚治虫
監督・編集:手塚眞
脚本:黒沢久子
撮影監督:クリストファー・ドイル
音楽:橋本一子
主演:稲垣吾郎、二階堂ふみ
ーR-15指定ー
イタリアFANTAFESTIVAL最優秀作品賞
やや #ネタバレ あります。
何から書こうか。
まずは二階堂ふみちゃんの”ばるぼら”。原作漫画のばるぼらそのもの。そのものだけど漫画のコスプレや真似ではない。もともと彼女の顔立ちはばるぼらに似ている。手塚治虫氏が『ばるぼら』を発表したのは彼女が生まれるずっと前なのに、二階堂ふみをみてばるぼらを描いたんじゃないかと思うくらい似ている。ばるぼらの実写映像化は、彼女のような俳優を待っていたのかもしれない。
稲垣吾郎さんの美倉。
漫画の『ばるぼら』と手塚眞監督の映画『ばるぼら』。二階堂ふみの”ばるぼら”が漫画のばるぼらそのものであったことから、美倉の描き方こそが監督の描きたい『ばるぼら』の世界観に直結しているように思った。美倉は”異常性欲を持つ作家”というキャラクターということで、確かにそうなんだけれど、幻想と現実のはざまに入ってミューズを求めてエロスに溺れていくという感じ。より優美で退廃的、美しくエロティックで理想の芸術を求めてばるぼらを愛する美倉。原作の美倉から感じたマッチョイズムとは無縁の吾郎さんが手塚眞監督のつくりたい『ばるぼら』の世界を支えていた。
手塚監督はこの作品について、主演2人のキャスティングが実現した時点で映画の成功が見えていたと言っている。まさしくそうなのだ。二階堂ふみと稲垣吾郎がばるぼらと美倉を演じている時点でこの映画は大勝利。この映画の美しさは2人の美しさなの。裸のセックスシーンに品と美しさを出せる2人が必要不可欠なの。さらにはクリストファー・ドイル氏がモノクロの漫画に美しい色をつけて、世界は完成しました。ザラザラするJAZZは美しい世界へのスパイス。
私の好きなシーンは、最初に美倉がばるぼらを拾って二人並んで歩く後ろ姿。予告にもあった水中シーンの色。山小屋で狂っていく美倉と止まってしまったばるぼら。
ということでお勧めします。万人にお勧めできる作品ではないけれど、大人の皆さまにお勧め。私が稲垣吾郎さんのファンという事を差し引いてもお勧め。(特に地方は)上映館が限られているし、おそらくロングランはされないだろうから興味のある人はお早めにどうぞ。
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この映画を観た人の感想を読むのが楽しい。どこからどこまでが美倉の幻想なのか、色んな解釈がある。ピンポイントにこのシーンとこのシーンは幻想、と観るのもいいし、もっと大胆にばるぼら自体が美倉の幻想として観るのもいい。説明的な映画ではないから、どう解釈しても破綻しないところがいい。
”ばるぼらは美倉の幻想説”、大胆な説だけれど、映画では美倉サイドの人間(加奈子、志賀子、作家の四谷)とばるぼらは顔を合わせていなかったように思う。ということは、ばるぼらは作家美倉の創作説にも強度が出てくる...。(漫画ではばるぼらと志賀子は会ったりするんだけど。)
"加奈子がいるシーンは現実説"も好き。加奈子という地に足がつきまくった人間は現実世界の象徴だと思う。twitterで流れてきた、”加奈子の手料理を食べるシーンだけ妙に明るくてあそこだけ現実なのでは?”という感想が興味深かった。そう言われてみれば色のトーンが違ったような...。
そういうところを確認したくてまた観たい。自分の解釈を裏付けるためにまた観て、自分だけの『ばるぼら』をつくりたい。
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手塚治虫の問題作と言われている原作漫画『ばるぼら』。映画公開を前に予習しておいた。kindle版は1巻が kindleUnlimitedなら無料。