読書記録『謎の香りはパン屋から』土屋うさぎ

きっかけとあらすじ

2/21日、土屋うさぎ作『謎の香りはパン屋から』を読了しました。
「なんだかミステリーが読みたいな」と思いながら本屋さんの前を通り過ぎたときに見かけて、かわいらしくておいしそうなイラスト＋『このミステリーがすごい』大賞受賞ということで、さっそく手に取ってみた次第です。

漫画家志望の大学生、小春がバイト先のパン屋で起こるいろいろな事件を解決していくミステリー小説。
１作１作で区切られている連作形式なので読みやすく、まさにパンのように手軽につまんで読めました。読後感もあたたかい、ほっこりミステリー♪

読んでいて主人公含めた登場人物が魅力的すぎる！！！と感じたので、

今回の読書記録では読んでいて特に好きだな、と思った登場人物を書いていきます。（ふつうにネタバレありなので、まだ読んでない方はお気をつけて。）

レナさん

　主人公のバイト先「ノスティア」に出てくる登場人物がとにかく個性的。もっと知りたい！と思うような人物が多く出てきます。

まずは主人公の先輩の大学４年生のレナさん。
１年生の時から働き続けている大ベテランだけど、第一印象は憎めないポンコツ。仕事が少し粗かったり差し入れを（苦学生の主人公を差し置いて）人一倍食べたり、
パン屋の朝早い出勤時間に起きれずに一人だけバイトの時間を９時にしてもらった挙句、シフトを間違えてうっかり熱海にいる（！）ちょっと雑な御方。
そしてよく主人公を巻き込んでトラブルに首を突っ込んでいくトラブルメーカー。どこのアルバイト先にもいる騒がしい人、という感じ。

でも、実は人一倍感情豊かで優しい性格なのが、章を追うごとに明らかになっていきます。
第一章の焦げたクロワッサンではだらしない性格が主に描写されていると思いきや、好きな人の公演に行く後輩のためにシフトを変わってあげている時点でとてもやさしいですね。

バレエをしている常連さんの子供が大好きなチョココロネが販売中止になると必死になって反対運動をしたり、初対面のおばあちゃんの思い出のパンを何とか探し出そうとするところは素敵。

何気にパン・コーディネーターの資格ももっている等、単なるバイトとしてではなく真面目にパンに向き合っているのも好きなポイントです。
キラキラ女子だぁ・・・

脳内では原神の「シロネン」というキャラクターをイメージしながら読んでいました。あちらよりだいぶアッパーだけど。

紗々木先輩

あと、一番好きというか、共感が持てる…！となったのは大学３年生の紗々木先輩。
キャラクター自体は石川弁のかわいいお姉さんという印象だけど、この人の章は個人的にグサグサ来た。

就活が迫っていて、Vtuberなんて不安定な趣味を親から批判された・・・でもあきらめきれない。なら◎◎して就活できないようにすれば、Vtuberになる道が開ける！というのは一見突飛だし、主人公も言っているように歪んでいる。
けど共感できるんだよなぁ。

私の場合は体力等の問題で普通の就活ルートをあきらめざるを得なかったけれど、正直言って既存のレールに「外れざるを得ない」状況になって安堵したんだよね。新卒でフルタイムで働く自分なんて想像できなかったから。

でも好きなことを選ぶ度胸もないし、もし私が健康な状態だったら普通に就活を選んでいたと思う。

だから中流以上の家庭で大学３年生までレールに沿って育った紗々木先輩が、初めて本気で選択に迫られた時に取ってしまった幼稚だけれど真剣な行動がリ◎◎というのはやけにリアルに感じた。

この部分以外にも、時々見える「夢追い人」の心理描写がやけに生々しくて面白い。最終章では別の理由で無理矢理自分の夢をあきらめようとする人も登場するし、作者さん自身もいろいろと悩まれたんだと思う。作者の土屋うさぎさんは小説家兼漫画家として活動されているらしくて、そのことも関係しているのかな。

とにかく全員「もっと食べたい！！！」

他にも推しの2.5次元俳優と隠れて付き合って、１日で大阪⇔東京間でライブ観劇した挙句翌日の６時からのバイトに来るものすごいバイタリティを持つ親友や、意味深で自分の哲学ばかり語る店長などなど、正直もっと掘り下げてほしい！というキャラがたくさんいた。あと主人公は漫画家だから推理力がある設定で恋愛ものばかり描いているけど、シャーロック・ホームズ並みに推理を披露していくのをみると
（（（（ミステリー系に行った方がいいのでは？？？）））と思ってしまう。ここにもなんか理由がありそうだし、続編があったら掘り下げてほしいな。

キャラクターの魅力ばかりを話してしまいましたが、ミステリー連作として面白い作品なのでぜひ読んでみてください。