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「夢」から醒めたとき、人生は始まる
私が高校生だったのは実に35年以上前。そのころの心情がどうたったのか、次第に分からなくなっている。
ただ、覚えているのは、「科学者」になり、世の中に生きた証を残したかった。死んだ後も後世の人たちに名を覚えてもらえるような業績を出したい…。
この世に生きた証を…。これは地球物理学者の故松井孝典氏が書かれた文章を読んだのが大きい。
確か進研ゼミの会報か何かだったと思うが、この世に生きた証を残したかったので科学者になったと書かれており、これだ、と思ったのだ。論文を出し、科学を発展させれば、この世に私という存在の爪痕を残せるではないか。
以来、分野は多少変えたものの、科学者になり生きた証を残したいと突き進み、大学院まで進んだ。
ところが、あれから30年。私はなぜか医師になり、論文も大して書けず、フリーランスとしてなんとか生きている。生きた証は科学者としては残せなかった。
実際私程度の人間ならば、死んだあとに名は残らない。20世紀と21世紀のはざまに生きた市井の人間として終わるだろう。
それでいいと思っている。なぜか。
「夢」から醒めたからだ。
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