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春になったら
朝靄のかかる遠くの山をのぞむ。とろとろの温泉をひっくり返したような白濁の空の下。
椿が流れる高速を走る。山茶花かもしれない。
黄色いハンカチが靡く大三東駅へ。
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観光列車がやってきて、5人組のマダムに記念写真を撮ってほしいとお願いされた。
スマホを拝借し、はいチーズ。撮った写真を見てもらうと「列車も入れてほしい」と言われたが、1人欠けてしまい撮れず。
マダムたちは笑っていたが、俺は不完全燃焼のまま車に乗る。
島原駅に車を停め、城下町さんぽ。
古い建物が残るしずかな町。太陽も顔を出し、ぽかぽか陽気。
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城下町の雰囲気ゼロの写真でごめんなさい。
お腹が空いたので速魚川へ。
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5年前?くらいに訪れて以来。金物店の奥にある喫茶店。
風鈴や赤い「氷」の文字が堂々と下げられていて、夏を感じながらストーブの前で暖をとる。
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満腹満足。だけど本当の楽しみはこれから。
工藤祐次郎が長崎に来て、歌ってくださるとのこと。
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もうね、すんげえいい。
やさしい声で、たのしい歌を聴かせてくれた。
尻が痛くなってきた頃に小休憩があり、中庭に出て背伸びをした。
工藤さんも缶ビールを片手に中庭に出てきて、座敷で俺の後ろに座っていた家族連れと話していた。
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小学生くらいの男の子が「キャンプキャンプキャンプ」を歌ってほしいと言う。歌う予定はなかったけど、歌おう!と快諾する工藤さん。
もうひとり、妹らしき女の子にお父さんが、好きな歌は?と聞くと「葬儀屋の娘」と言うもんだからにやけてしまう。
同じくセトリには入ってなかったみたいだけど、工藤さんは歌う約束をしてくれた。
ありがとう!女の子!と心の中で叫ぶ。俺も「葬儀屋の娘」大好き。
小休憩が終わり、ライブ再開。
音楽に合わせ、ひかえめな手拍子をして、小さく首を揺らす。口元はずっと緩んでいたと思う。
「キャンプキャンプキャンプ」は後ろで男の子も歌っていて、贅沢にコーラスで聴けた。
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休憩中、曖昧に揃えられている靴の群れにカメラを向け、シャッターを切った。顔を上げると工藤さんと目が合って、お互い気まずそうに笑った。幸せな瞬間。良い一日になった。
島原はいいな〜やっぱり。
高速道路から見えた桜の木は裸で寒そうで、春になったら、と思った。