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「どうしてこんな街になったんだろう」

歩道橋を登りきり視界がひらけると、電光掲示板の激しい光とけたたましい音があたり一帯を支配していた。湿度のない冷えた風が頬をかすめ、擦れたような痛みがあった。隣の人は痛くなっていないかな、と少し後ろを振り向くとターコイズブルーのマフラーの中から押し出される声が聞こえた。吐き捨てるようなニュアンスを纏う、よく知る声音。うんざりしたような、諦めきれないような、疲れた音。

「えー、どーいうことですか」

感情の起伏に乏しい声を出した時、その音を反射的に拒絶してしまったのだと気づいた。案の定、苦虫を噛み潰したような返答が返ってきた。「どういうことって…」

受け取られることを期待されていたことを知っていたし、そうすべき状況だった。相手は擦り切れすぎていたし、私を含む他者の存在は強すぎる刺激だった。立っているのもやっとだったのかもしれない。その絶望感を跳ね除けることは、相手に追い打ちをかけることだった。そういう会話の使い方をいつの間にか行えるようになっていた。

「今気づいたようなこと言うんじゃねーよ。この街はずっとこうだったよ。私(たち)はクソみてえな環境が当たり前だよ。それぞれの時代の、それぞれのクソさが目の前にある。あんた(たち)が勝手に絶望したと思い込んで、目の前のクソを他人事みたいに見て見ぬふりをしてきた結果がコレなのに、まるで最初からなすすべもなかったみたいに、知らない風景を見るみたいに語るなバカヤロォ」

額面通りにストレートに返せたら初めてケンカができたのかもしれない。ただそれを言い合える関係だとは信じられなかった。気持ちのやり取りをしない関係を作ってきたから、そういうものでしかなかった。


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