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下宿のおばさんがいた頃

今、井上順さんの「お世話になりました」を聴いています。


私のこの街に、まだ大学があった頃。ゴチャゴチャした家の並びに借家や間借下宿があり、大学生が沢山住んでいました。

大家さんと学生さんとの距離がとても近かった。



就活時期には大手企業人事部からの学生さんの人物評を聞く為、大家さんに電話で問い合わせがあるのはザラでした。郷里のご両親からは、いつも挨拶がありました。

チンチン電車の線路沿いにあったたこ焼き屋さんは3個で10円。そこへドテラを着た銭湯帰りの学生さんが、手のひらに握った小銭を数え「3個ください」。

学生が行きつけの食堂。
一個ずつ売られる、マーケットのたまご屋さん。
煙草屋さんには店番のお年寄り。


貧しい時代でした。
人との交流がある世界でした。


今、大学は移転し、下宿のあった街並は世代交代の新しい家に建てかわり…
高層マンションばかりが目立ち、みちがえる近代都市に生まれ変わろうとしています。

でも、そこには、卒業する大学生が下宿のおばさんへ「お世話になりました」と挨拶して引っ越していく風景はもう、ありません。

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