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【大人との対話】イベントレポート#6 バイオリニスト 廣津留すみれ


やりたいことは全部やって、
100%以上の自分になろう

さまざまな分野で活躍するオピニオンリーダーから直接話を聞き、学校や家庭とは違ったアプローチで子どもたちの興味・関心を広げるイベント『大人との対話』。第6回ではハーバード大学とジュリアード音楽院を主席で卒業したバイオリニストの廣津留すみれさんをゲストに迎え、海外留学の魅力や、好きなことと学業を両立するコツなど、廣津留さんの実体験に基づいた対話が展開された。

登壇者・参加者紹介

【登壇者】
廣津留すみれ / バイオリニスト
大分市出身。12歳で九州交響楽団と共演、高校在学中にNY・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学(学士課程)卒業、ジュリアード音楽院(修士課程)修了。ニューヨークで起業。
https://sumirehirotsuru.com/

【参加者】
廣津留さんを除いて前列左から、衛藤さん(中学2年生)、今里さん(中学2年生)、一人とばして、吉住さん(中学1年生)、古川さん(小学6年生)、下田さん(高校2年生)、福永さん(高校2年生)、長友さん(中学3年生)、上野さん(中学3年生)
 

“普通”は存在しない

廣津留:この中で海外留学に興味のある人はいますか?あ、全員手を挙げてくれましたね。じゃあ例えば、衛藤さんはどこの国に行ってみたいですか?

衛藤:アメリカに行ってみたいです。優秀な人がいっぱいいるイメージなので、その人たちに囲まれながら勉強してみたいと思っています。廣津留さんはなぜアメリカに行こうと思ったんですか?

廣津留:高校1年生の時、イタリアで開催されたバイオリンのコンクールでグランプリを受賞して、次の年に副賞として全米ツアーに参加させていただいたんですね。その時にハーバード大学を見学する機会があって、ここに行きたいって思ったのがきっかけでした。ハーバードって“すごい人がいる場所”みたいに思うじゃないですか?でも実際に行ってみると、みんな普通の人間なんですよ(笑)。ラフなTシャツを着て普通に歩いていて、この人たちがハーバード生なんだと思ったら、自分にもできる気がしてくるというか。だからみんなも、実際にその場所を見てみたり、当事者に話を聞いたりするのはすごく大事なことだと思います。

下田:アメリカと日本の大学はどんなところが違いますか?

廣津留:最初に専攻を決めないっていうのが大きいと思います。日本だったら法学部とか医学部とか、専攻を高校3年生で決めないといけないけど、アメリカの場合は入ってから決めればよくて、色んな授業を受けて自分に合っているものと合っていないものを見極めることができる。それは私にとってすごく意味がありましたね。あと授業の数が日本より少なくて密度が濃いのも特徴ですね。少人数制の授業が多くて、先生からの質問もバンバン飛んでくるから、ちゃんと聞いていないと置いていかれる。参加している感がすごくあるので、学びへの意欲とか自主性を育むにはすごくいい環境だと思います。

吉住:海外に行って考え方や性格は変わりましたか?

廣津留:変わったと思います。ハーバード生はほぼみんな寮に入るから、色んな人と生活を共にすることになるんだけど、そこで“常識”とか“普通”ってないんだなっていうのがすごくわかりましたね。日本人にとっての“普通”と、インド人やアメリカ人やアルゼンチン人にとっての“普通”は違うから、「じゃあこうしようね」ってみんなで話し合わないと一つの“普通”ができあがらない。1年生の時に同室だったフランス人の子は、私の靴下を勝手に履くんですよ(笑)。「何で人の靴下を勝手に履くの?」って聞いたら、「靴下なんて“stealable(盗める)“じゃん」とか言うの。

でも「いやいや、普通履かないよね!?」とかいちいち怒っていても仕方がないし、それって私の“普通”でしかないから、「それは私の靴下だから履かないでね」って伝えないといけない。そういう経験を毎日していると、もう何でもいいやってなっちゃって、オープンマインドにならざるを得ないから、性格もガラッと変わったと思います。色んな国の人と出会うことで、こんなに色んな“普通”があるんだって知ることができたから、いい経験になりましたね。

英語は行けば話せるようになる

衛藤:留学して辛かったことはありますか?

廣津留:どうだろう…?よくホームシックになるとか聞くんだけど、私の場合は忙しすぎてホームシックになる暇がなかったんですよね。次から次にアクティビティがあるし、相当な量の情報を処理して、慣れない環境に自分をアジャストしていかないといけないから、日本が恋しいなんて思う余裕がなくて、逆によかったのかなと思います。日本の友だちにあんまり会えない寂しさはあるけど、その分世界中に友だちができるから、辛いことよりも楽しいことの方が勝っていましたね。何か懸念点があるの?

衛藤:英語が話せるようになるかが不安です。

廣津留:英語はね、行ったら話せるようになるから大丈夫!全く話せない状態で行ったとしても、生きていかなきゃいけないからどんどん吸収していく。例えば「サブウェイ」のサンドイッチを頼む時って、パンの種類とかこっちが知っている前提で聞いてきますよね。私はいまだにちょっと緊張しちゃうんだけど(笑)、でも何回かやっていたらできるようになる。それと同じで、何か食べないといけないし、人と話さないといけないし、「その靴下、私のだよ!」って言わないといけないから、そんなことを毎日やっていると絶対に話せるようになります。

長友:話したいというよりは、話さないといけない必要に迫られて、話せるようになるってことですか?

廣津留:そうそう。でも同時に、話したいっていう気持ちも自然と芽生えてくると思う。例えば、寮でみんながワイワイ話していて、すごく楽しそうに笑っているのに、何でウケているのか自分だけわからないことがよくあったんですよ。そうすると、会話に入りたいし、自分も面白いことが言いたいから、みんなの言い回しをすごく集中して聞くようになって、理解がさらに深まりましたね。

今里:1ヵ月くらいの短期留学だと、話せるようになるのは難しいですか?

廣津留:集中セミナーを受けるとか、友だちと英語でたくさん話すとか、英語漬けの環境をしっかり整えれば、1ヵ月でも力はつくと思います。ただ私の経験上、現地のシステムがやっとわかってきたかな?くらいの段階が1ヵ月経った頃だったから、できたらせめて2ヵ月とか、もうちょっと長い方がいいかなと思います。英語力を上げるだけでなく、生活を楽しむ余裕も出てくるので、せっかくなら長期の留学をおすすめします。

時間を区切って量も質も上げる

福永:どんな風に英語を勉強していましたか?

廣津留:ひたすら単語を覚えました。英語と日本語が書かれた単語帳を半分ずつ隠しながら覚えて、「Apple・りんご、Bear・くま…」とひたすら唱える。私は締め切りがないと頑張れないタイプなので、このページは5分で覚えるとか、自分にプレッシャーをかけてやっていましたね。5分経ったらはい次、はい次、っていう感じで、とにかく数をこなしました。単語はすごく大事なので、みんなにも単語帳は常に持っていてほしいと思います。高校生の時はCNNやBBCなどの海外のニュース番組を流しっぱなしにして耳を慣れさせたり、ニュースサイトから英語の記事を引っ張ってきて、要約して人に説明するような練習もしていましたね。

福永:私も英語の授業でCNNのニュースを観るんですけど、速すぎて聞き取るのが難しいです。

廣津留:ニュースはヘッドラインを読めば何の情報かだいたいわかるから、まずそれを読んだ上で英語を聞くと頭に入りやすいと思います。あと、ドキュメンタリーのナレーションはスピードがそこまで速くないから、ニュースよりもわかりやすいかも。子ども向けのアニメもやさしい単語が多いし、自分のレベルに合った素材を使って、まずは1個の単語を聞き取るところから始めるとか、順を追って慣れていくといいと思います。

上野:私はピアノをやっているのですが、限られた時間の中で受験勉強とうまく両立する方法が知りたいです。

廣津留:時間を短く区切ると効率が上がると思います。1個のことを3時間かけてやるよりも、1時間に区切って3個のことをやる。そうすると集中力が増してそれぞれの精度も上がるし、さらにその1時間を30分、10分、5分と短く区切っていくと、こなせるタスクの数がどんどん増えていく。受験との両立が難しくて音楽をあきらめちゃう人も多いかもしれないけど、あえてどっちもやることで両方の密度が濃くなると私は思います。それに、好きな音楽がなかったら勉強にも身が入らないんじゃないかな。

古川:廣津留さんは勉強中、誘惑にどうやって打ち勝っていましたか?

廣津留:私は毎日細かくTo Do リストを作って、終わるごとにチェックを入れて、これが全部済んだらドラマを観るとかって決めて、モチベーションを保っていました。古川さんにはどんな誘惑があるの?

古川:机の横に本棚があって、勉強中嫌でも目に入ってくるので、すごく本が読みたくなります。

廣津留:それは難しいね(笑)。私も携帯電話は機内モードにして触らないようにしていたから、とりあえず一番読みたい本は隠しておくといいかもね。それで2時間勉強したら1時間読んでいいことにするとか、誘惑をエネルギーに変えるといいと思います。

上野:私もTo Do リストを作るのですが、つい細かく設定しすぎてしまいます。どういうリストにすると効率的だと思いますか?

廣津留:To Do リストは細かければ細かいほどいいから、やり方は合っていると思う。例えば「英語をやる」とかざっくり立てちゃうと、何をやろうかっていうところから考えないといけないから、時間がもったいないよね。To Do リストを作る時点で「単語帳の15ページから20ページをやる」って書いておけばすぐに取りかかれるから、洗い出す時点で細かく書いておくことが大事。それでもし終わらない場合は、絶対にその日に終わらせないといけないものに印をつけておいて、それ以外は寝る時間になっちゃったら次の日にまわす。細かく設定したものに優先順位をつけると、頭の中がより整理されると思います。

自分のパッションを大切に

廣津留:では最後にみんなにメッセージを。何でも、やりたいと思ったことはやってください。「そんなことできるわけない」なんて言う大人がいたら無視してもいいかも。やりたいことが3個あったら、全部100%でやって、300%にすればいいだけ。日本の大学は賢さや点数の高さが合格の指標になりますが、ハーバードはその人が大学の理念に適っているか、入学した後にどれだけ頑張れるかという素質を見るので、自分が何にパッションを持って取り組んできたかが問われます。“なりたい”や“やりたい”という気持ちを大切にしてください。シンプルですけど、私はそうやってバイオリンも学業も諦めずに生きてきたので、みんなも夢に向かって頑張ってほしいなと思います。

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その他にも「寝る時間を削って勉強していた?」「映画は英語字幕で観るといい?」など、子どもたちからの質問が次々に飛び出す賑やかなイベントとなった。『大人との対話』は第7回以降も開催予定。noteでも随時レポートを公開していく。