ザハロワの舞:パトリック・ド・バナ 芸術監督公演 Super Stars Gala 2022 レポート
10月にヒューストンバレエを見に行く際に年内のプログラムをいろいろリサーチしていたつもりだったこともあり、今年はもう劇場へバレエは見に行かないかなと考えていたある日、youtubeの公演スポットムービーが流れてきて本公演の開催を知りました(前回見落としていたのか…夏頃から情報はあったようです)。ボリショイバレエのプリンシパルである、スヴェトラナ・ザハロワが来日するガラ公演。
3月に戦争が始まってしまい、コロナが明けたら行きたいと思っていた憧れのボリショイバレエには当分見に行くことが出来なくなった…という感覚がし、戦争の悲しみと共にがっかりしていた中で、ザハロワの出身地も知っていたのですが、本人のinstagramは今も更新が中断したままであり、ずっと気になっていました。そのザハロワが来日するということに胸騒ぎがして、1週間くらい悩んだ末、やはり見に行こうと。今回は、急遽予定を決めることもあって一人で行くことに。11月27日の公演チケットを買いました。
Bプログラムは前半8演目、休憩を挟んで7演目。全キャスト2回ずつパドドゥかソロを踊ってくれますが、全15演目のうち殆どがコンテンポラリー作品。芸術監督がベジャール出身のパトリック・ド・バナであり、彼自身の振り付け作品が3演目あると言うことで非常に個性的なガラ公演になっていました。
ザハロワは前半のトリでジュエルズのダイヤモンドを、後半の5番目でバナが彼女のために振付けたDigital Loveを、どちらも2名での舞踊。ジュエルズはストーリーが何もないバランシン作品ですが、このメロディを聴きながらザハロワの舞を見ていると、踊り手の苦悩を表現しているかのように思えて、涙がこぼれてきました。とても美しく、それでいて儚げではなく、ザハロワここにあり、を感じられる演目でした。コンテンポラリーのDigital Loveは、彼女の鍛え抜かれた身体性をコレオグラファーとしてもダンサーとしてもバナが存分に高度に引き出していて、息をのみ、それでいて詩的な時間に埋没しました。振り付けられたのは随分昔のようでしたが、この公演のために振付られたかと思えるくらい、なんとなく、いま、を感じさせられました。彼女の身体表現から匂い立つ精神の世界が心を打ち、また涙をこぼしてしまい、見にこられてよかったなと思いました。
ザハロワを生で見る。が目的ではありましたが、円熟したダンサーそれぞれの表現に非常に心が包まれる公演でした。「病める薔薇」を踊ったエレオノラ・アバニャート、マチュー・ガニオは舞踊の織りなす展開の美しさにため息をつき、ナタリア・オシポワの「Ashes」は映画のようでした。全編、精神性への想像力を掻き立てられるエモーショナルな公演の中で、やはり古典とは華やかさそのものだと感じさせられたのは、マリアネラ・ヌニェス、ワディム・ムンタギロフの「ドン・キホーテ」。バリエーションは動画などで見る機会も多く、私個人としても踊りの運びを比較的よく知っている演目でありましたが、生ドンキの迫力なのかもしれませんが、ヌニェスの舞いの完璧なテクニックと優雅さに圧倒されました。
終幕のカーテンコールは、いつまでも拍手が鳴り止まず、ザハロワが真ん中にきて、他のダンサーたちに囲まれている様だけでも感動の涙をまた誘いましたし、これこそ世界平和の図だと思いました。何度目か踊り手が前に出てきた時に舞台の上から会場サプライズなのか、エアークラッカーでリボンが降ってきて、余韻に花を添えてくれました。
劇場を出て、家に帰ってなお、心に残る公演でした。