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ビールのCMで、出会いと対話のデザインを考える その2

 ハイネケンのCMの最初の部分を見てみましょう。

 https://www.youtube.com/watch?v=tdsFCgiVOdo

 ここで2人の参加者は、これから何をするのか、相手が誰なのか、まったく知らずに出会います。

 ワークショップの「ねらい」を告げずにいきなり始めるというのは、ぼくもよくやります。
 さまざまな立場の人が集まる「まちづくり」のワークショップや、組織の活動について話し合う会議では、そういうわけにいきませんが、学校の場合は、生徒はすでに教室の中にいて、「授業を受ける」つもりで(多少、気乗りしない子はいるにしても)そこに座っているので、ゴールをはっきり示さないまま話を始めても強い違和感を持たれることはありません。
 たとえば、
「さあ、授業を始めましょう。突然だけど、皆さんがいま着てる服って、どこで買った?」
のような問いかけで、「ファスト・ファッション」や「エシカル消費」について考えるワークショップを始めたりします(※)。

 ところが、学校の先生のなかには、授業の冒頭でかならず「授業のねらい(学習のめあて)」を告げてから始める人がいます。
「この時間は、ファスト・ファッションにまつわるさまざまな問題を知り、その解決方法としてのエシカル消費について学びます」のように。
 めあてをはっきり示してから授業を始めなさいと、大学の教職課程で教えられたのかもしれません。

 でも、ぼくは、これが苦手なのです。なんだか最初からネタばらしをしているような気がして。
 たとえて言うと、ステージに出て来た芸人さんが、
「今からこんな話をします。笑いのツボは、こういうところですので、そこで笑ってください」
というような感じ。
 そうではなく、
「どうもー! いつも元気な〇〇です。よろしくお願いしまーす。こないだ、道を歩いてたら、こんな人に会ったんです~」
でいいじゃないかと思うのです。その方が、お客さんは「いったい、どんな話をするのだろう?」と、こちらの話に集中してくれるので。

 また、「ファスト・ファッションにまつわるさまざまな問題を知り、その解決方法としてのエシカル消費について学びます」という言い方には、ほかにも2つ、気になる点があります。

 まず1つ目は、知らない言葉がいきなり出てくること。
 おそらく、「ファスト・ファッション」とか「エシカル消費」という言葉を知らない生徒もいるでしょう。自分の頭で考えるためには、身近な話題、誰もが知っていることばで最初の「問い」を投げかけることが重要です。

 2つ目は、最初に「ゴール」を示すことによって、そこから先に行く可能性がほとんどなくなってしまうことです。
 ワークショップの醍醐味は、そのワークショップを企画した人やファシリテーターの想定を超えて、思いがけないところまで議論が発展し、新しい可能性が生まれるところにあります。
 にもかかわらず、最初に「ゴール」を示してしまったら、生徒はそこまでいけば満足し、その時点で集中が切れてしまって、さらに先へ進もうというエネルギーが生まれません。生徒に何かを「教える(新しい知識・情報を与える)」だけの授業ならそれでもいいのかもしれませんが、思いがけない気づきや新たな可能性を見つけることを期待するワークショップなら、それを超えてさらに先へ進みたいものです。

 だからぼくは、ワークショップ(とくに学校の授業)では、いきなり「ゴール」を示すのではなく、「何が起こるかわからない」「どこまでいくかわからない」、初めて体験する遊園地のアトラクション、マジカル・ミステリー・ツアーのような(?)ワクワク感をもって始めたいと思うのです。

 もう一度、ハイネケンのCMを見てみましょう。
 大きな倉庫のような場所に入ってきた二人は、とまどいながらも、これから始まることになにかしらポジティブな期待を抱いているのではないかと思います。強い不信感や恐怖を抱いていたら、ここには来なかったでしょうし、何を言われてもそこから先には進めませんから。
 何が始まるのかわからないけれど、なんだかおもしろそうと思ってもらえたら、それ以上、余計な前置きはいりません。さあ、先へ進みましょう。

① 何をするのか、相手が誰なのか、まったく知らずに会う
② 指示に従って何かを組み立てる
③ 自分のことを「5つの形容詞」で表す
④ 相手と自分の「3つの共通点」を見つける
⑤ 組み立てが終わって、それが「カウンター」だと分かる
⑥ カウンターにビールを置く
⑦ それぞれの主張を記録した短い動画を見る
⑧ 「選択肢」が示される
⑨ 「対話」を始める

 次回は、②~④について考えたいと思います。

※このワークショップの具体的な内容を知りたい方は、『チョコレートを食べたことがないカカオ農園の子どもにきみはチョコレートをあげるか?』(木下理仁著、旬報社)の「3 学校に行かずに働いている少女が作った服を着るか?」を見てみてください。 https://www.junposha.com/book/b644006.html

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