ビールのCMで、出会いと対話のデザインを考える その6
さあ、こんどは⑦(5:27~)です。
⑦ それぞれの主張を記録した短い動画を見る
動画
https://www.youtube.com/watch?v=tdsFCgiVOdo
自己開示、共通点探し、共同(協働)作業を終えて、二人はもう心の中で「この人と友だちになれそうだ」と感じているかもしれません。
カウンターの上には冷えたビール。力仕事を終えた後のビールはきっと美味しいことでしょう。
ここで、壁の高い位置に取り付けられたスピーカーから「短い動画を見せますので立ってください」と指示が流れます。
「いったい何の動画だろう?」と思って見ていると、以前、自分の主義や主張をカメラの前で喋ったときの録画が流れ始めます。そして、一緒に作業をして仲良くなりかけていた相手が、自分とまったく正反対の主張の持ち主であることを知るのです。
二人は、自分の録画をこのような形で見ることになるとは、おそらく予想していなかったでしょう。しかし、喋ったことは事実ですし、「あの時は思ってもいないことを喋ったんだ」と言うわけにはいきません。二人の間に気まずい空気が流れます。
この「仕掛け」が上手いのは、ここで「互いの主張を述べてください」というのではなく、別のところで一人ずつ別々に録画した動画を見せるというところです。
その場で面と向かって互いの主張を述べ合う場合には、相手の反応を見ながら、言葉を選んで、多少遠慮がちな言い方になることもあります。あるいは、相手の主張の強さに気圧されて、言いたいことが言えなくなってしまうかもしれません。しかし、カメラに向かって一人で喋れば、自分の主張をストレートに伝えることができます。二人の「動画」を見比べることで、互いの主義主張がどれほど違っているか、否応なしにはっきりと判るのです。
スピーカーから流れる指示で「立ってください」というのにも、小さなことかもしれませんが、意味があります。
椅子に座ったまま、カウンターに肘をついて聞くのと、何も持たず、手ぶらで立っている状態をイメージして比べてみてください。後者の方が、なんとなく頼りなく、不安に感じるのではないでしょうか。自分の体を支えるものが何もないので、目の前にあること、聞こえてくる声、つまり、この場合は「動画」の内容を真正面から “生身”の自分で真正面から受けとめざるを得なくなるからです。そうすることで、動画の中で語られる主張を真剣に受けとめ、自分の中に起きる葛藤としっかり向き合うことになります。
普段のワークショップでここまで凝った仕掛けをすることはまずありませんが、これに似た工夫をすることはできます。
たとえば、参加者がそれぞれ自分の考えを「紙」に書いて、それを回し読みしたり、一斉に壁に貼り出して皆で見るというやり方です。
その場で発言してもらうと、一部の人だけが喋ったり、他の参加者の反応を見ながら遠慮がちになってしまう人がいたりしますが、紙に書いてもらえば、誰もが自由に(比較的遠慮なく)自分の思いをことばにすることができます。
いきなり喋るのではなく、紙に書いてもらうというのは、ワークショップの大事なノウハウの一つです。
次回は最終回。このCMの⑧と⑨について考えます。
ハイネケンのCM「価値観の違う他人と仲良くなれるか?」の流れ
① 何をするのか、相手が誰なのか、まったく知らずに会う
② 指示に従って何かを組み立てる
③ 自分のことを「5つの形容詞」で表す
④ 相手と自分の「3つの共通点」を見つける
⑤ 組み立てが終わって、それが「カウンター」だと分かる
⑥ カウンターにビールを置く
⑦ それぞれの主張を記録した短い動画を見る
⑧ 「選択肢」が示される
⑨ 「対話」を始める
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