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雫の轍 1巻

私が神社での不思議な体験を経て

辿り着いたところは、私の住んでいた世界ではなく


浮世

と呼ばれる、陰陽師の世界でした


○○:だがしかし、不可解だな…
  明治の世にこちらとあちらは分けられたはずなんだが…


○○さんは、顎に手を当てて考えているのです


私が、何故ここに来たのかを


しかし、その答えは見つからなかったようで…


○○:まあ、今考えればいいっていうことでもない
  基本的にあちらとこちらの繋がりはないから
  原因がわかるまで、俺の家に住むといい


○○さんは私にそう言ってくれたのです

大変有難い話でした


危うく、先程のお二人に捕まって牢屋に入れられていたかもしれないことを考えると

客人として扱って頂けるだけマシに思えました


○○:よしっ、とりあえず客間を片付けさせよう
  

○○さんは、また右手の人差し指と中指だけを立て

何かを唱えました



すると…


歴史の教科書でみたことのある

和室の丸窓が光を帯びて○○さんのすぐ横に現れました


そこから、青年が顔を少しだけ出していました


○○:馬弓、客間を片付けておいてほしい
  この子、どうやら現世から来てしまったらしくてな


馬弓と呼ばれた青年は、私に一度軽く会釈すると


馬弓:かしこまりました…
  詳細は、ご帰宅の後にお聞きします


と青年が言うと、窓が消えた


○○:今のは、ある程度の陰陽師なら使える
  連絡を伝える手段だ
  お互いのいる場所を繋げて会話する


○○さんは、私にそう教えてくれました


思えば、この時から○○さんは私にこういうことを教えていたなと

後々になって思うのです…



○○:よ〜し、とりあえず君の着物を見繕わないとな
  ここにいる以上、その服だと目立ってしまう


○○さんは私の服装をもう一度見て、そう言いました

確かに、洋服では悪目立ちしそうです


○○:街に行こう
  あそこなら、その服でも変に思われないだろうしな


○○さんは、私を森から連れ出しました


ゆっくりと、私に合わせるように歩いてくれる○○さんの背中はとても頼もしく、優しい印象を受けたのです





○○:おぉ、やっぱりこの時間は賑わっとるのぉ


○○さんに連れ出してもらい、私は大きな繁華街らしき所に出ました


皆さん、着物を着ているのにどこか私のいた世界と変わらないことをしていて、驚きました



ギャンブル場があったり、ファストフード店のようなものがあったり


一番驚いたのは、電気が使われていることでした


○○:驚いたろ?


○○さんは、まるで子供のような笑みを浮かべながら私に聞きました


史緒:はい…電気があるなんて、思いもしなかったです


○○:さっきも少し話したけども、ここは明治まではあちらの世界と同じように時間が進んでいた
  だから、ギリギリ電気などもこちらに入ってきていたんだ


○○さんたちの言葉遣いも、私たちと近い言葉を使われるのはそのためかと合点がいきました



○○:あ、ここだ
  一番の呉服屋は


○○さんが、見るからに儲けているだろうと思われる店の前で止まりました


史緒:ここに、今から入るのですか?


○○:なぁに、大丈夫だよ
  別に食われたりしないし、みんな優しいから


怖がる私にそう言い、○○さんは私を手招きしてお店に入りました


私も覚悟を決めて、お店に入りました



○○:おお、似合ってるよ
  流石だな、主人よ


主人:ありがとうごぜぇやす
  白虎様のお連れとあらば、わたくし誠心誠意ご要望に答えられるものをご用意する所存ですので


○○さんが頼むと、快く呉服屋のご主人と奥様が私に合う着物を選んでくれました


反物から、体感三十分ほどで着物になったんです


何か、特別なやり方で仕立てたんでしょうか…

私はそのことについて、興味が湧いてきました



史緒:ありがとうございます、お二人共


主人:いえいえ、とんでもねぇ
  わしらからしたら、こんな美人さんに着てもらえるのが嬉しいですんで


奥様も頷いてらっしゃいました


○○:よし、とりあえず一旦家に帰るかね
  主人、今急で出てきたもんだから持ち合わせながなくてな…
  後で払いに来る故


主人:かしこまりました、
  どうかそのお着物大切にしてくだせぇ


史緒:お約束します



私は親切なお二人に別れを告げて、○○さんの後を追います


さっきまで洋服だったからか、着物になると○○さんの歩幅とどうしても差が出てきてしまい…


○○:やはり、無理に着物はよくないか…


○○さんが止まって待ってくれるということが、何回もありました


史緒:すみません…


○○:あぁ、いいや
  丁度ここまでこれれば、使えるからな


と○○さんは、私の頭を一撫でしてから


また右手の2つの指を立てて


○○:空を司る新羅よ
  その空を我に一時貸し給え


となにかまた呪文を唱えられました


○○:開け、空洞門


2つの指を下に下ろすと…


人が立って通れそうな穴が出現したのです


○○:街では移動をするための行は使えなくてな
  街の外れのここでなら使える


ささ、と○○さんは私にここを通るように促しました


よくある瞬間移動ができるものなんでしょうか…


よくわからず

しかし、○○さんにはいくつもの恩があるので勇気を持って潜りました




すると、すぐに硬いものに足がつき

とてもいい匂いが鼻に飛び込んできたのです



○○:ただいま
  お〜い、お前達客人だぞ〜!


○○さんが私の後から現れて、下を向いていた私が正面を向くと



とても大きなお屋敷の中にいました


いくつ部屋があるかわからないほどの襖が見えます



馬弓:あ、お帰りなさいませ
  今、客間を片付けておりますので…


さっき顔だけみた青年が私達の前に片膝をついて言いました


○○:ん、そうか…
  ま、しょうがないな
  とりあえず夕餉の支度と並行してやってくれ


○○さんは、奥の方へと歩き出し

どこかの部屋に入っていかれました


馬弓:申し遅れました、私は馬弓と言います
  ○○様の式神です


丁寧に私に頭を下げた青年は、頭を上げると私に微笑みました


史緒:あの、私は…


馬弓:史緒里、様ですよね?
  …あれ、すごく驚かれた表情してますけどどうかなさいました?


名乗ろうとした時、先に青年が私の名前を知っていることに驚いたのです


何しろ、私は○○さんにも名乗っていないのですから


史緒:私…その、
  ○○さんにも名乗っていないんですけど…


私がそう言うと、なにを言いたいのか理解されたようで…


馬弓:あぁ…そういうことですか…
  あのお方のような、鍛錬された陰陽師は
  名が見えるのです、自然と


名が見える…

それはどういうことなのでしょう…


本人に聞いてみたいものです…


○○:お、何?もう仲良くなったの?


そこへ、さっきとは装いを変えた○○さんが歩いてきました


馬弓:驚いていましたよ?
  名前を知っていたことに


○○:あぁ…あれか
  陰陽師ってのは、言葉を主に使うから
  名前が、鍛えると顔の上に浮かぶようにして見えるんだよ


○○さんは、私にわかりやすいように説明してくれたんだと思います


○○さんはお優しいですし、何より何故かこちらの文化のことをよく知っているので…


○○:それこそ、嘘付いてるのが顔に書いてある
  みたいにね


こういうところです

語尾とか、慣用句とか


何故詳しいんでしょうか…


馬弓:ま、その話は追々…
  どこか行かれるので?


○○:あぁ、現場検証をしないといけないからな
  何より、あいつは憑依系の何かに取り憑かれていた
  その存在が気になる



今まで見たこともない、○○さんの厳しい顔を見ました


しかし、私の視線に気付くとすぐ笑顔になられて


○○:大丈夫、ここは安全だから
  何かわからないことがあったら、そいつに聞いてくれ
  

じゃ、行ってくる


と○○さんは玄関から飛んでいかれました



馬弓:はぁ…昔から人任せと言われるところは変わりませんね…
  あ、そうだ
  史緒里様、お風呂どういたします?


青年は、一つ愚痴を言って

私に問いました


史緒:そうですね…
  疲れましたので、入りたい気分です


馬弓:かしこまりました
  少し待てば沸きますので、少々お待ちいただいて…


思案するような顔をした後、青年は私の方を見て


馬弓:何から、私に聞きたいですか?
  

と不敵な笑みを湛えながら私に聞いてきました



私は、固唾をのんで

一瞬寒気がしました


何かを見透かされている気がする…と

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