言いたいことも言えないこんな世の中じゃ
赤ちゃんに反町隆史のpoisonを聴かせたら泣き止んだ。本当に泣き止むの?と疑心暗鬼だったが本当だった。
激しく泣き叫んでいた生後3ヶ月の娘は、スマホから流れる重低音のイントロをワンフレーズ聴いただけでスッと泣き止み、真剣に音に聞き入っているように見える。
産まれてまもないが、音楽というものをすでに理解しているのかも知れなかった。
私は、思ったことを全部口に出していたら大変なことになると思い、言いたいことがあってもなるべく出さないように生きてきた。
特に一番最初に就職した会社では、「言いたいこと80%オフ」くらいで仕事をしていたように思う。冬の最終クリアランスセールか?ってくらいに、ほとんどの言葉を飲み込み、我慢した。
その結果パンクしてしまい、心と体の調子を崩して辞めることになったので、無理はよくないということが身に染みてわかっている。
今は自分に合った職業や人間関係に恵まれているうえに、自分なりのガス抜きの方法を身につけ、適度にヘラヘラして生きられるようになった。
その点、赤ちゃんは、何かを伝えたくてもそのための言葉をまだ持っていない。言いたいことはあるけれど、泣くしか方法がないのである。
例えば、母親の抱っこが下手、哺乳瓶の傾け方が気に食わない、ミルクが熱い、お風呂のお湯がぬるい、鼻が詰まってる、耳のうしろがかゆい、服の内側にあるタグが肌に当たってムズムズする、おむつのテープの留め方がいつもよりきつい、部屋が暑い、なんか眠いけど寝付けない……そのほか生きていたら発生するあらゆる不満や不快を自分でどうにかすることも、他人に言葉で伝えることもできない。
そりゃ泣くしかない。私だったら泣きたくなる。
そんな不満や不快を抱えて生きていかなければいけない中、反町隆史のpoisonで泣き止む我が子。
サビでは反町がこう熱唱していた。
赤ちゃんは100%正直に、自分を騙さずに生きている。
娘は、「この曲は、私の気持ちを代弁している」と共感し、反町隆史の歌声を聞き漏らさないために、泣き止んでじっと耳をすましているかもしれないし、そうでもないかもしれない。
抱っこしたまま、ゆらゆらと揺らす。ゆっくりと、しかし確実に、まぶたが閉じていく。私は祈るような気持ちで、娘が寝入るのを見守り続けた。
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