どこか色褪せた世界で、君と見た世界は酷く燻んでた。
「あなたはどこへいくの?」
酷くか弱く、細々とした彼女は少年に尋ねた。
か弱いのは身体でも、細々としているのは体でもない。酷く不安定で、安定しているように見せていつも揺らいでる。湖のような彼女の心には嵐が吹きつけている。
どこまでも深いその湖は少年の心にまで突き刺さって離さない。
少年は首を横に振って静かに答えた。
「僕はまだここにいるよ。だから安心して祈って。まだ、まだ生きてると。」
ある夏の日だ。
少女は少年に出会った。
少女は心に深く傷を負っていた。それを癒した少年に恋をした。
少年は少女に出会った。
少年は心を理解していた。傷を負ったモノを見て、卑して恋をした。
ある日2人で食事に行った。
その時彼女は闇の全てを打ち明けた。
彼は優しげな眼差しと、その大きな腕で彼女を抱き締めると、現実から彼女を遠ざけた。
彼女は現実から逃げることを覚えた。
彼女は現実を見ないことを逃げることとは覚えなかった。
彼は彼女に幻想を見せた。そのために必死になっていた。
そうして彼女は取り憑かれたように現実から逃れた。彼もまた、彼女と道を共にした。
周りから嘲笑や、罵倒や、いくつもの叱責もうけた。その度に2人は愛を信じて、現実を離れる。
それがルーティンになる頃。彼は少年に戻った。
ある日プツリと糸が切れた。
少年は意識の遠くで彼女のことを思い出しながらドップラー効果の中にいた。
彼女は現実から逃れる為に少年が必要だった。だから心配し、駆けつけ、泣き喚いた。
一命を取りとめた少年は、彼女しかいない病室を見て軽く笑みを浮かべた。
その笑みをかき消すように塞いだ口は少女だった。
彼女は少年にしがみつき、ゆっくりとした半音のソプラノを病室に高らかと轟かせた。
少年もまたそれに呼応した。
それが2人の幻想だった。
夜がくるごとに、彼は少年になり、彼女は夢を見た。
朝日とともに意識をベッドに沈ませて。夜は少年に会いに駆けた。
それからすぐのことであった。
少年は自殺した。
理由は彼女には分からなかった。
わからないことが怖かった。現実が嫌だった。全てを吐き出したくてたまらなかった。
何も聞こえない、何も見えない世界に彼女は居た。
少年の遺書の全文だ。
拝啓。全世界を彩った君、ゆりなへ。
僕は、君を下心でしか見ていなかった。こんな語彙力だけれど許して欲しい。
最初見た時、君はすごく魅力的だった。
男に飢えて、優しさを求めて、快楽をも厭わずに、ただ、偽物でもいい愛を欲してた。依存したくてたまらなかっただろう。
僕にとって君は最高のワームだったのさ。
僕は君が思っているほど良い奴じゃない。
ただ君を利用しただけの人間だ。生きている価値なんてどこにもない人間なんだ。
僕は君と出会う前もそうして生きてきた。それが普通だと思ってた。
けど君には似合わない。僕みたいな男はね。
死んだら全ての記憶が消えればいいのにね笑
半年前だろうか。
君と初めて食事をした。イタリア料理店とは名ばかりのチープな店だったが、君は僕と居ることに満足し、他のどこにも興味はなかった。
あの時食べたメニューを、僕は忘れたさ。
次はカラオケだったね。君のうまさにはびっくりしたよ。僕よりいい点数を取っていた、ということは覚えているよ。
そのあとホテルに行ったね。君に初めて快楽を教えた。僕は全て満たされた気分だった。君もそうなんだろう。
でも。やっぱり。
本物は違うんだ。
本質はここにはなくて、僕は氷。
それでいいと思ってた。
偽物でも愛せるならそれでいいと思ってた。
苦しんで、足掻いて、その結果得たものが本物なんだろうと信じてた。
でも、繰り返して思った。
ぼくはどこまでもくずなんだって。
だからどうしようもないのさ笑
死ぬ以外に道はないの。
分かれなんて言わない。
ただ、君と感じた感情は本物だった。
僕の中は偽物だった。
そういうことなんだ。
ごめん。
君の中の黒い歴史を作ってしまって。
でもその歴史は生きているよ。
君が望む限り。君の中で。本物として生きていようと思う。
きみを呪うような言葉だけれど、僕は。
ごめんね。
僕はまだここにいるよ。だから安心して祈って。まだ、まだ生きていると
うん、