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【第4回】『プレイヤー・オア・マネージャー』ヴァンフォーレ甲府観戦記~J2リーグ第2節 vs水戸~

サッカーを語る上で、永遠のテーマがある。「試合の結果を左右するのは、選手か、監督か」。私はこの議論に興味がない。そう考えるのは、たとえば、こういう試合のせいである。


45分をコントロールした水戸のベクトル

5発大勝で、ACLという経験が財産になっていることを示した甲府を、開幕節のアウェイゲームを制し、確かな自信を胸に凱旋した水戸が迎えた一戦。4-2-3-1のミラーゲームは、緊張感溢れる試合展開を見せた。
水戸は序盤から、ロングパスとミドルプレスを中心とする甲府陣内でのプレーを意識した攻守で、甲府の前線からのプレスとカウンターという武器を奪いにかかる。その中心は水戸FW・安藤。後方からのロングボールをことごとく収め、ロストすれば甲府中央のパスコースを封鎖しビルドアップを制限。安藤の活躍により、安藤より後ろの選手たちは攻守ともに前向きのベクトルでプレーできた。これがプレッシングのスピードとカウンターの迫力を生み、甲府は常にプレッシャーにさらされる中でのプレーを強いられ、押し込む時間帯を作れずにいた。9分の安藤の決定機や、LMF野瀬の背後を突くサイドの崩しは水戸の充実ぶりを象徴しており、26分にはその野瀬のカウンターにたまらず関口がファールでイエローカードを提示されるなど、前節とは打って変わって甲府が苦戦するシーンが多く見られた。
甲府攻撃陣は三平・宮崎がそれぞれ落ち着きと積極性をアピールし、いくつかチャンスを創出するも、前節気を吐いたラッソ・鳥海はロングボールを収めさせてもらえず、流れを掴む糸口になることができなかった。39分の鳥海の単独突破や、45分のラッソのカウンターのシーンは、波に乗った二人ならチャンスにつなげることができていたかもしれない。
46分に前節を思わせるあわやPKのシーンを作るなど、安藤が抜群の個を見せつけ、水戸はいつ甲府のゴールを割ってもおかしくない45分を演じた。惜しむらくは前半で先制できなかったことだろうし、甲府にとっては値千金ともいえるスコアレスで前半を乗り切った。

(勝ち切れた要因は?)
1つは前半を無失点で戻ってくることができたこと。苦しい中でも失点しないことが大事。勝点3を取るために失点しないことは大事。

ヴァンフォーレ甲府 監督 篠田善之


猛る甲府ベンチ

修正しなければ失点は時間の問題の甲府。ハーフタイムで新10番・鳥海を下げ、送り込むはアダイウトン。この攻撃的な采配が、甲府に流れを引き寄せる。48分、アダイウトンが積極果敢なプレスで水戸DF・牛澤のパスミスを掻っ攫い、高い位置でラッソとともに水戸ゴールに迫る。49分には裏へのランニングを見せ水戸DFラインを押し下げると、50分にはハーフウェーライン付近から高精度のフィードで宮崎の裏抜けからチャンスを作るなど、どこからでも存在感を発揮する交代出場のアダイウトンが、甲府攻撃陣を牽引した。
さらに56分、アクシデントから交代となったラッソに代わり出場したウタカがいぶし銀のボールキープを見せ、甲府は前半から効力を発揮できずにいたロングボールに活路を見出し始める。
流れを掴んだ甲府は61分、前半から再三高精度のキックでセットプレーからチャンスを演出し続けていた荒木のクロスにマンシャが合わせ先制。苦しんだ前半から蘇った甲府がリードを奪うと、さらに水戸はDF・山田がクリアボールの流れから痛恨のパスミス。拾ったウタカが一気にペナルティエリアに侵入すると、交差するように入り込んだアダイウトンにラストパス。交代出場の二人でシュートまで持っていくと、慌てて戻る水戸の守備陣を見て三平がこぼれ球をフェイント気味に横パス。待ち受けていた木村が左足でグラウンダーのシュートを放つと、ディフェンスの間をすり抜けていったボールはゴールに吸い込まれ、69分、甲府は若武者のJ初ゴールで2点差とする。アクシデントがありながらも適切なタイミングで選手交代を成功させた甲府が、前半の劣勢を大きく覆す試合展開を演出した。

相手がそんなに前から来なかったので、自分たちの時間もありました。逆に、自分たちの時間が多いときに課題が多いと感じています。そういうときにこそ守備をしっかりしたり、セットプレーの守備を集中してやったりすることが大事。

水戸ホーリーホック #21 松原修平


一瞬の質

幾度となくチャンスに絡み、前半を支配する立役者となった安藤を下げ、水戸は大卒ルーキーのFW・久保を投入する。このあたりの時間帯から徐々に甲府にとっての向かい風が吹き始め、水戸はセットプレーなど甲府ゴールに迫るシーンが増えていく。77分に投入したFW・寺沼もターゲットとしながら水戸はシンプルにボールを放り込み、甲府は最終ラインで跳ね返せる守備強度の補填が急務となっていた。
78分、三平を下げた甲府は徳島戦でブラウンノアを封殺した孫を投入し、5B化することで徳島戦終盤に見せた守備の堅牢さを取り戻しにかかる。ゴール前中央の厚みが増したことで、サイドの守備対応に落ち着きが出てきた甲府だったが、83分、ロングボールの跳ね返りをダイレクトで合わせた久保が、ペナルティエリア外からボレーシュートでネットに突き刺すスーパーゴールで1点差。再三チャンスを作りながらも遠かった1点が、甲府守備陣の脅威であり続けた安藤・野瀬・落合をもってしても掴み取れなかった1点が、若きストライカーの渾身の一撃により水戸にもたらされた。


ゲームプランの妙

失点はしたものの、甲府は決して崩れなかった。失点直後の84分にはロングボールをウタカが単独で収め、最後はアダイウトンのヘディングにつなぐと、85分にはシステムを3-1-4-2に変更。ウタカ・アダイウトンを最前線に配置し、守りを固めながらも前線の迫力を損なうことなくゲームをクローズしに掛かる。87分、88分に立て続けに木村がボールを収め、ウタカ・アダイウトンの二人でチャンスを作ると、92分には木村を下げ飯島を投入。中盤の運動量にパワーを注入すると、カウンターから飯島がシュートチャンスを作った。水戸は甲府陣内に侵入しても5Bを簡単に崩すことはできずタイムアップ。
ハーフタイムで流れを変える攻撃的な一手、アクシデント対応ではあるもののロングボールから流れを掴むに至る効果的な一手、水戸の反転攻勢に備え終盤のゲームクロージングにつなげる2点差からの守備的な一手、最後まで流れを水戸に取り戻させることなく勝ち点3を奪いきったアディショナルタイムの決定的な一手。すべてが勝利につながる要所要所の采配が印象に残る一戦となった。


選手か監督か

甲府が水戸を上回った点はどこだろうか。私は前節の観戦記を記した者として、率直に篠田監督の采配がこのゲームを勝利に導いたと感じた。前節を「目眩」「混沌」という言葉を用いて説明したが、今節の戦いは適切なタイミングの選手交代やシステム変更が、一時的ではなく後半の長い時間に効果をもたらしたと言える。
では、水戸の濱崎監督は、篠田監督より劣っていただろうか。前半の水戸の選手たちは、甲府の選手たちに勝っていただろうか。私は必ずしもイエスとは言えない。濱崎監督が水戸にもたらした前半のフットボールは、甲府にとって明確な困難だったし、長短のパスを織り交ぜたビルドアップ、ハイプレス・ミドルプレス・リトリートの判断を的確にこなし充実の試合内容を見せた水戸の選手たちは、前半をスコアレスで折り返し、結局甲府をスコアで上回れなかった。
選手のクオリティだけでも、監督の指導力だけでも、サッカーで結果を残すことはできない。チームスポーツであるサッカーは、決してピッチ上の22人だけで勝敗を決している訳では無い。監督が采配によってメッセージを発信し、それを受け取った選手たちがクオリティを発揮する。こうして甲府は水戸戦をものにした。ACLでの戦いを経て、混沌の圧勝劇の後に待ち受けていた憔悴の総力戦を制し、遂に「夢叶う小瀬」に帰還する青赤の戦士達。J2優勝を果たした2012シーズン以来の開幕2連勝を達成した甲府の、「チーム」としての戦いを見届けたい。

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