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もうすぐ春日の誕生日。

「春日の誕生日プレゼント問題」

春日がもうすぐ誕生日だ。正確には2月9日。

この日付は俺にとって、もはや国民の祝日みたいなものになっている。何せ、もう30年近く春日とつるんでいるわけで、その間、2月9日を意識しなかった年なんて一度もない。

とはいえ、だからといって毎年しっかりプレゼントを贈っているかというと、そうでもない。オードリーの仕事が増えた20代後半から30代の前半にかけては「プレゼントを贈る」という習慣がどこかに行ってしまった。忙しさのせいもあったし、そもそも春日はモノに対する執着がほとんどない男だ。何をあげても「ありがとな」と言うだけで、別に特別喜ぶわけでもないし、何ならその場に置いて帰る可能性すらある。

でも、40代に入って、またプレゼントを選ぶようになった。

理由はいくつかあるが、一番大きいのは、春日がちょっとずつ年を取ってきたからだ。

***

春日は「不老不死キャラ」みたいなところがあった。あの無駄に発達した大胸筋は衰え知らずで、顔のシワも少なく、何なら若い頃よりも精悍になっている部分すらある。

だが、よく見れば、ちゃんと年を取っている。

フワちゃんに「春日さん、顔の皮膚、めっちゃ強そう!」と言われたあの頬も、昔より少しだけたるんできたし、動きのキレも微妙に鈍っている。もちろん、50mを6秒台で走れたりするのだが、昔なら躊躇なくやっていたバク宙を「いや、ちょっと……」と断る場面も増えた。

そんな春日を見ると、「ああ、もうプレゼントとか贈って、少しでも祝っておかないと」と思うようになったのだ。

***

では、何を贈るべきか。

これが難しい。

なにせ、春日は本当に物欲がない。昔、雑誌の取材で「欲しいものは?」と聞かれたとき、「あんまり思いつかないな……」と5分ぐらい沈黙した男だ。俺だったら本だの服だの何だのとすぐに出てくるのに、春日は「強いて言えば、掃除機のヘッドの部分が壊れてるから、そこだけ欲しい」と言った。

それは誕生日プレゼントではなく、ただの消耗品の交換だろう。

ここ数年は、俺なりに春日が喜びそうなものを考えてプレゼントしてきた。ちょっといい革の手袋、シンプルなカーディガン、あと、さりげなく使える香水なんかも贈った。

で、今年はどうするか。

***

今のところの有力候補は「リカバリーサンダル」だ。

最近、春日はやたらと足を痛がる。ジム通いも続けているし、娘を抱えて歩くことも多いからか、「なんか足の裏がずっと痛いんだよな……」とボヤくことが増えた。

俺は最初、「お前、それ、たぶん加齢だよ」と言いかけたが、傷つけると面倒なので、「じゃあ、いいサンダル買えば?」と提案した。

春日は「サンダルかぁ……まあ、1000円ぐらいのでいいんだけどな」と言った。

1000円ではダメなのだ。

春日よ、お前ももう45歳だ。45歳の男が、1000円のサンダルで満足していてはいけない。足裏が痛いなら、ちゃんとしたリカバリーサンダルを履け。

というわけで、俺は今、春日にぴったりのリカバリーサンダルを探している。デザインはシンプルで、色は黒かネイビー。クッション性が高くて、疲れをしっかり取ってくれるやつ。たぶん、これを贈れば、春日は「おお、いいね」と言ってくれるはずだ。

まあ、「言ってくれるはずだ」と書いたが、実際は「おお、ありがとな」と、いつものテンションで言うだけかもしれない。

でも、それでいいのだ。

春日はモノをもらって大喜びするタイプじゃない。だけど、もらったモノは意外と大事にする。俺が贈った手袋も、去年の冬にしていたし、カーディガンもたまに着ているのを見た。たぶん、今年の誕生日にもらったサンダルも、家で毎日履くようになるだろう。

それで十分なのだ。

***

2月9日、俺は春日にリカバリーサンダルを渡す。

「これ、誕生日プレゼント」

「おお、ありがとな」

春日は、箱を開ける。

「リカバリーサンダルか」

「お前、足裏痛いって言ってたから」

「おお……確かに、ちょうど欲しかったな」

そう言って、春日は試しに履いてみる。そして、しばらく沈黙した後、ポツリと言う。

「これ、めっちゃいいな」

きっと、そんな感じになるだろう。

毎年派手なリアクションがあるわけではないけど、春日の誕生日に何かを贈るのは、俺にとってちょっとした恒例行事になっている。

春日がもう少し年を取ったら、またプレゼントの内容も変わっていくだろう。もしかしたら、サンダルじゃなくて、もっと健康を意識したものになるかもしれない。足のマッサージ機とか、血圧計とか、はたまた湿布の詰め合わせとか。

でも、まあ、それはそれで悪くない。

春日が年を取るということは、俺も年を取るということだ。その変化を感じながら、俺は来年も、たぶん春日に何かを贈るんだろう。

「ありがとな」と言われるために。

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